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第16話


バグマンを押し付けられた叔父一家は、事前に国から養育が可能か問われて即時断っていた。

まだ子供が幼いため母親の手が一杯一杯(ギリギリ)だったこと。

そしてバグマンの弟の死が事故死か否か分からないものの、その弟と息子の歳が同じことが理由だった。


親族だからといって引き取る必要はない。

ましてや幼子を抱えた夫婦に子供を押し付けるなどあってはならない。

そう判断した国王たちは、バグマンをこのまま王城で面倒を見ることに決めた。

何より、駆け落ち同然で家を飛び出して以来、一切の連絡もなかったのだ。

急に消息が分かったどころか、「兄夫婦は勇者となり子が残された。【勇者の子】を引き取って面倒をみる気はあるか」と言われれば拒否するのも当然だろう。

それも魔力が多いということは暴走する可能性もある。

我が子や家族と()()()()()()()を天秤に掛ければどちらの比重が重くなるか?

もちろん前者なのは言うまでもない。



残念なことにバグマンの弟の死の真相と彼の真の性格を詳しく知らない文官が、押し付けの善意を掲げて悪行(あっこう)に走った。

引き取りを断った叔父を「血も涙もない魔王だ!」と罵り、チヤホヤされて見せかけの良い子ぶっているバグマンを「健気(けなげ)な子だ」と涙した。

真の事情を知らない役人たちはそう思ったことだろう。

実際にはご機嫌伺いに来る役人相手に猫を被っていただけで、日常は傲慢で我が儘な態度だった。


与えられた部屋は特殊で魔法を一切使えない。

そのため魔法で暴れられなかっただけだ。


役人の中には出世を目論む文官がいた。

上司たちが扱いに困っているバグマンを、引き取りを拒否した身内に引き取らせれば自分のお株も上がる。


「なあに、会ったことのない甥を引き取ることに抵抗があるだけだ。実際に会ってしまえば引き取るに違いない。ちょうど死んだ弟と同じ歳の子供がいるんだ。兄がいると思えばいいだろ」


そう信じていた。

さすがに祖父母に引き取らせることは躊躇した。

だからこそ、残された唯一の身内に『両親を亡くした気の毒な子供』を引き取らせたかった。


文官は『【勇者の子】に関する全権を放棄する』という書類に署名をもらう使者となり、最後の対面という形でバグマンを連れ出した。

その行為には許可など下りるはずもなく、強行された暴挙である。

文官は拒絶した叔父一家に魔法をかけて『【勇者の子】を引き取る』という内容の書類にサインをさせてバグマンを押し付けることに成功した。


「誰も成し得ることのなかった交渉を成功させた」


そうホクホク顔で帰ってきた彼は、書類を手に上司へ報告した。

もちろんそれは違法行為であり違憲である。

幼子を育てる母でもある王妃は勝手な行動をした文官に(いか)りを覚えた。

どんな手を使ったのか不明だったが、一度は引き取りを拒否した叔父にバグマンを押し付けたことを許すなど出来はしなかった。

しかし、契約は契約。

叔父一家がバグマンを魔法学園に入学させられるまでの間、文官は地下牢で過ごすこととなった。

毎日夕方になると魔法で八つ裂きにされ、完全回復する10時に鞭打ち10回。

八つ裂きにされるのは16時から19時の間、四肢が千切られようと内臓が飛び散ろうと12時間後には身体が繋がって元に戻る。

その痛みは耐え難いものだ。

しかし魔法の使えない地下牢で痛みを和らげる治療など行われない。

痛みに耐えながら日々与えられた書物を読み、自己の罪と向き合わされる。

歴代の【勇者の子】を知らない文官だったが、知らないから許されることはない。


文官はバグマンがアナキントス魔法学園に入学した日に地下牢から出された。

しかしそれは罪が(ゆる)されたのではなく、新たなる罰を受けるためであった。


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