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第15話


同じ新入生でも天と地ほど違う周囲の態度。

その姿を見てもバグマンの心に嫉妬心は生まれなかった。

たしかにバグマンも両親に恵まれていた。

愛情を受けて育ったことも間違いなく、その愛情が弟が生まれたことで減ったと嫉妬したくらいだ。


……ただ、愛情は与えられたが教育(しつけ)は与えられなかった。


村に同年代の子供がいなかったことも災いした。

子供は遊びを通して加減を知る。

良いと悪いは大人に叱られることで善悪の境界線(ボーダーライン)を知る。

それを教える大人がバグマンの周りにはいなかった。


引き取られた叔父の家でもそうだ。

いとこだという、弟と同じ歳の子供と出会った。

しかし、叔父の家へ連れて行った使者が口走った「ちょうど子供もいることだし、兄がいると思えばいい」というひとり言を幼いバグマンは誤解していた。

「兄として新しくできた弟を自由にしていいのだ」と。


ただ、すぐにチャンスは来なかった。

叔父一家との同居ではなく、新たに建てられた物置小屋の2階で使用人たちに世話をされてきた。

使用人とはいうものの監視者でもある。

対象者はバグマンであり、雇用主は国である。

それを知らないバグマンだったが、魔法を無効化して魔力を吸収してしまう物置小屋では、今までのように相手を脅すことはできても相手を傷つけることはできなかった。

当たらないけど脅しはできるため、感情の赴くまま魔力を使い続けた。

庭を挟んで見える建物にも目の下に広がる庭にすら、バグマンは行くことは出来なかった。

1階は庭に向けて扉があるものの、バグマンが住む2階は彼のために増築されたため内部は1階の物置と繋がっておらず。

窓は()め殺し窓で開閉はできず、出入り口は裏口に繋がっていた。

ただし外出は制限されておらず、生活費も国が負担していた。

バグマンは町を出歩いていたものの、村に住んでいた頃のように誰彼構わず喧嘩を売ることはなかった。

監視の目があったのもあるが、バグマンに対して無関心に近いからだった。


それから4年。

半年後に魔法学園に入学することが決まった。

入学すればこの不自由ではないが自由でもない生活も終わる。

学園が長期休暇に入ってもここへ戻ることはない。

国が用意する宿で過ごすだけだ。


そんなある日の午前のことだった。

いつものように町に出て適当に買い食いをしながらブラついていた。

出会ったのは本当に偶然だった。

バグマンと彼のいとこが同じ時間に同じ場所にいたのだ。

ただ何をしたというわけでも話しかけたわけでもなく、見かけただけである。

それもバグマンの方は窓から見えていたため彼を知っていたが、いとこの方は幼い頃に一度対面しただけで覚えてもいなかった。

バグマンの住む物置小屋の2階は不可視の魔法がかけられていて、外から中は見えない。

いくら窓の近くにいたとしても、バグマンの姿は叔父一家も時々訪問していた祖父母からも見ることはできなかった。

そんな事情を知らないバグマンは、自分を見ても周囲と同じく無関心ないとこに不満を持った。


「【ボウソンに命ずる。我に従え】」

「……はい、ご主人様」


これはあの日、バグマンを叔父一家に会わせた使者が使った魔法だ。

使者が【主従契約】という禁忌の魔法を目の前で使ったことで、バグマンはその魔法と効果を覚えてしまったのだ。

何度か使用人たちに使ったが魔法は無効化されて霧散していた。

それが無効化される室内ではなく屋外で使われたことにより、ボウソンは一時的に召使いにされてしまった。

バグマンの荷物を持ち付き従うボウソンの姿に、監視者たちは慌てて国に報告した。


「バグマンが禁忌の魔法をいとこに使った」


バグマンは叔父一家から引き離されて王城に連れ戻された。

入学までの間に読み書きを習うためとの理由からだ。

【主従契約】をかけられたボウソンは魔術師に魔法を解除されたが、その際に叔父夫婦にかかっていた魔法もなぜか解除された。

血縁関係にあるボウソンがバグマンの魔法にかかったのも過去に同じ魔法がかけられた可能性があるからだと、のちの調査で判明した。


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