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第11話


バグマンの苛立ちの矛先は弟に向けられることとなる。

しかし2歳児の弟から母親が離れることはほとんどなかった。

魔王が現れたことで、魔術師である両親も召集がこれば前線に出る可能性がある。

戦場に出るのは本人の意思であり、幼い子供たちを残して向かうには決心がつかない。

このまま魔術師の数が足りなくなれば強制召集が出て、子供たちを残して行くしかなくなる。

もし向かうにしても、子供たちに愛情を注いでから行きたいと願っていた。

両親は意図せず、まだ幼い弟に愛情を多めに注いでいた。

それがバグマンの心と性格をねじ曲げる結果へと結びつく。


「母さんは俺が何かすると思っているんだ。だからそばから離さないんだ」


誤解である、というより自分も弟が生まれる3歳までは母親が付きっきりだったのを忘れている。

きっと記憶をジュラルミンケースに突っ込んで、村の端にある湖の底に溜まったヘドロに投げ捨てたのだろう。

……どこの世界でも不法投棄は禁止である。


バグマンは執念と陰湿と悪意の塊である。

それまでバグマン一人に向けられていた愛情が弟に向けられ、自分への愛情が失われたと思い込んでいた。

周囲の認識では、バグマンは聞き分けの良い子であった。

弟の誕生で両親の愛情が失われたために我が儘になっただけ、赤ちゃん返りだと思われていた。

我が儘をいえば、両親が弟よりバグマンに構うようになるからだ。

しかし、それは一時的なものでありバグマンが求める恒久的な愛情ではなかった。

バグマンも素直に甘えればよかったものの、弟の存在から芽生えたものは憎しみ、周囲に向けたのは八つ当たりで増したのは凶暴性。

両親はそれでも一過性だと思っていた、幼子の癇癪(かんしゃく)だと。

彼らは変わらぬ愛情を注いでいるつもりでいたからだ。


……そんな両親の楽天的な思考が悲しい事件を引き起こされた。


母親が目を離した隙に一人歩きを始めた弟がいなくなった。

30分後に見つかったのは湖に浮かんだ、変わり果てた姿だった。

全身を切り刻まれたその姿に両親は嘆き悲しんだ。

同時に笑顔を向けるバグマンの姿にすべてを察した。

けっして魔法では傷つけられない血族の(いまし)めを上回る魔力をバグマンが持ったのだと。

そして弟が亡くなったことで自分だけに愛情が向けられることを喜んでいるバグマンの狂気を。


…………亡き息子を弔ったその足で魔王の前に立った両親は新たな勇者となった。



捨てられた。

置き去りにされた。

両親が勇者となるためにとった行動はバグマンにとって、弟の後を追った自殺行為と同じ意味だった。

魔王が封印されて世界が息を吹き返し、人々は高らかに歓喜(かんき)雀躍(じゃくやく)した。

国は(ただ)ちに【勇者の子】を迎えるため城から使者団が派遣されて、その日のうちに勇者を輩出した村にたどり着いた。

彼らはまるで世界から切り取られたようにひっそりと静まり返った村の中を行く。

それも当然だ、村から勇者という名の()()が出たのだ。

勇者になった者を輩出した村には必ず子供が残されている。

今までの勇者も、何人もの子供たちを残してきた。

彼らを国が保護することで、勇者を輩出した村の(うれ)いを排除するのだ。


「ようこそおいで下さった、使者様」


緊張しているその表情に安堵感を滲ませる村長。

この村でも残された子供をどう扱ったらいいか苦慮しつつ、腫れ物のように扱っていたのだろう。

特にこの村に残された勇者の子のうち長子の問題行動は調査でも判明している。


「【勇者の子】は2人だと聞いていたが?」

「いえ……つい先日、悲しい事故で弟の方が亡くなりました。埋葬の直後に両親は魔王の元へ向かわれたのです」


勇者の家の位置と子供の確認をした使者団の一行。

村長から勇者一家の村での生活を聴取した使者団の代表が「最後に」と口をひらく。


「国で【勇者の子】を引き取らせていただきたい」

「もちろんです。国の決定に従います」


村長が大きく息を吐き出した。

礼儀に反することではあるが、聞き及んだとおりの【勇者の子】では仕方がないだろう。

勇者をだした村は世界中から称賛され、国からは賞賛される。

しかし、勇者を輩出する一家にはさまざまな理由が(ひそ)んでいることが多いのだった。


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