学園への依頼 後編
キリューたちは先生に呼び出さたが、教師のアカネから「一度、着替えてこい」との命令を受け、全員が着替えをすましてから再度学園の練兵場へ集合した。
俺、キリューを加えて、ユキネとイーシアの3人共、学園の訓練正装でもある戦衣装に身を包み込んでいた。キリューは銀と黒の防弾性シースルーシャツに硬めの生地をした青地のズボン姿。他の女子も似たようなものだが、それぞれが色合いが違う。
金地の戦ドレスを着たイーシア、黒の戦ドレスを着たユキネと順番に初老の女性の前に並んでいた。
初老の女性、アウタス・クレーヌはこの魔道育成国クレーヌの王女でありながらこの俺たちの通う学園の理事長を務める大物。
この国はもともとはその名の通りに未来の若者を魔道の戦士として育成するための学園国家。
8割が学生であり、2割がそれを補佐する大人が属した組織が存在するのがこの国である。
その残り2割の大人の一人であり、国と学園の両方の長でもある彼女は深刻な面持ちで口火を切り出した。
「集まってくれて感謝いたします、3人共」
「学園理事長、アカネ先生が見当たらないんですが彼女はどこに?」
イーシアが代表して俺らが思っていた疑問を発言した。
呼びつけたはずのアカネ先生本人はその場にいなかった。
呼びつけた側の本人がいなくてどうするのだという疑問に目の前の彼女は答える。
「アカネ先生にはほかの先生方と先にこの国へと侵入した賊の対処を行ってもらっております」
「あ、あの、それでしたら私たちは誰の指示のもと行動すればいいのでしょうか?」
ただの学生の俺たちがこのような非常事態に教官もなしに任務へ当たれなどという行為は自殺行為に等しい。
なにせ、任務における優先的行動やその場における適切な判断力はまだ未熟な部分もあると思っている。
「それなら、問題ないわ3人とも」
空から一人の女性が降り立ってきた。
3人はその女子を何よりも知っているし、つい昼間にあったばかり。
『シリカ姉さんっ!?』
3人して驚きを隠せない。
驚きの理由は単純だった。
「一番の戦力のシリカ姉さんが私たちの引率をするってどういうことよ! そんなことで大丈夫なの!?」
「落ち着きなさいイーシア。理由は説明するわ」
俺たちが驚いたのももとより英雄としての力とその武勇で数々の戦果を挙げた彼女の力量は誰もが認めるものだ。
その彼女は一番、危険な現場において多くの者たちをまとめて指揮して行動をしておかねばならない立場。
そんな女性が一学生である者たちの教官役の代役などを引き受けるのはだいぶ戦力的な状況に響くのではないかという問題に類する。
だからこそ、衝撃的だった。
彼女は何か理由があるとそれでもいう。
それを聞いては3人共、顔を強張らせて姿勢を正さざるえなかった。
「今回、あなた方に事前に皇国への派遣任務を通達していたわね」
「聞いてるわよシリカ姉さん。でも、今回のこの騒動とは無関係でしょ? 相手は今は皇国付近で騒動を起こしているわけでしょ」
「それがそういうわけじゃない。あいつらの活動範囲は日々広がってるの。運悪く奴らの次の襲撃は今回この国になったわ」
「それじゃあ、今皇国付近は安全になったの?」
「そうじゃないのよ。あいつらの組織図はより大きなもの。この国へと襲撃しているのはあくまで一部ということよ」
あまりにも信じられない真実。
この世界でもあの戦争を得て人口数は少ない中でそれだけの大きな組織を率いているのはもはや一国の話どころではない。
「そんな強大な組織がそんなあちこち襲撃して何が目的なの? どうしてこんな学生国家をねらうわけ?」
「それがわからないの。そこで今回よ。あなたたちには今回、明日からの派遣任務を前倒しで今日から行ってもらうことになったわ」
今シリカ姉さんの発言内容の意味が理解できず困惑する。
「ちょっと、それってこの国の騒動をアカネ姉さんたちに任せて私たちは皇国に向かうってこと!?」
「それは悪い冗談。私は世話になったこの国を見せてないよ」
「俺だって、そんなの嫌だ! 何を考えてんだよ」
「3人とも落ち着きなさい。私の言い方も悪かったわ。派遣任務といったのが悪かったわ。もちろん、この場所を見捨てるわけじゃない。ちゃんと救う。今から派遣任務で行うはずだったことを今この場で行ってもらうということよ」
『っ』
意味がようやく理解した。
だからこそ、シリカ姉さんが教官になるのだということも理解できた。
「これからの任務では私が任務を行いながら活動内容を指示をするわ。でも、これだけは守って。敵と遭遇しても決して戦いをしないこと。あなたたちは良く出来た生徒で英雄の子孫でもあるけれど、その強さにおぼれて敵との戦闘に走らないで。今から行う任務では確実に自分の命を優先し、敵との戦闘は極力避けること。あなたたちはこれから行う任務は人員の救助よ」
3人は十分理解したのちに「了解」と告げた。
「それから事前にチーム分けをお願いしていたと思うけれど、その通りに分かれて行動するわ。それと右手を3人とも出しなさい」
シリカ姉さんに言われたとおりに右手を出すと彼女は何かの詠唱を唱えて右手に触れると右手の甲に焼き付いたひりつく痛みが走った。
手の甲に羽のようなマークが浮かび上がっていた。
「それは通信用魔術式よ。それで離れた場所からでも連絡が取れるようにしてあるわ。それじゃあ、さっそくチームはどうなったの? ちなみにアカネの変わりは私が引き受けるわ」
俺の腕を強引に両サイドから抱き留められた。
いうまでもなく、ユキネとイーシアの二人。
「ちょっと、ユキネ離れなさいよ!」
「イーシアこそ、約束してないのにどういうつもりか説明」
「約束って何よ!? そんなのしりませーん」
「しらを切るな。約束した。キリューは私とだよね?
?」
「キリューはユキネなんかより私とがいいよね?」
二人からの妙な圧力に圧倒される。
そんな喧嘩する二人に怒りの風が吹く。
「二人とも状況をわきまえなさい!」
それはシリカ姉さんが鬼の形相で二人をにらみつけていた。
「それからキリュー! あなたもしっかりと約束したのは誰かを言いなさい」
「ユキネです」
「なら、決まりです。イーシアは私と西北の「グリュッセ」へ行きます。ユキネとキリューは東北の「アリュッセ」へ行きなさい。よろしい?」
温厚なシリカ姉さんのあまり見ない激昂に二人とも折れて従った。
そのときのユキネのしたり顔にイーシアが憎しみの目を向けていた。
「では、途中まで一緒に飛ぶわよ、3人ともついてきなさい」
北部の中央地点まで飛行を開始した。
「3人とも任せましたよ」
学園理事長のそんな一言を聞きながら俺らは下町へと向かいだした。
次回の掲載の話になりますが、本作品は別作品の合間での掲載を考えての連載になります。だいたいは2週間前後、もしくは3週間明けで掲載です。大変恐縮ではございますがそのようにさせていただかせてください。
申し訳ございません。
本作品を読んでくださった方々様、少しでもこのような拙い文章の作品ではございますが面白いと感じてくださったならブックマークよろしくお願いします