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学園への依頼 前編

  グレイシア皇国から数キロ離れた町、『ベルフィリア』には未来の騎士を育成するための学園、ベルフィス精霊騎士育成学園が存在していた。その学園は世界中から多くの少女たちが押し寄せてくる。

 少女たちは学園内で未来の有望な騎士になるために訓練に身をついやし、学業を身に着けて立派な騎士になるために努力をする。学園内では優劣を競わせるための試験もあった。それはいろんな世界中にある王族にはとっても重要な見せ物だった。学園内での優劣を競わせる試験において優秀者はそれはそれは有望な戦士である証明なのだ。

 その生徒はすぐに王族へ勧誘されることは間違いなしだった。

 そして、学園ではまた学園最大の勧誘を誇る生徒が誕生していた。

 その生徒の名前はキリュー・グレイシアだ。

 彼はしかし、王族のグレイシア皇国の人間なのでいろんな国からの勧誘を受けたところで就職先は決まっていた。


「キリュー様、今度わたくしとご一緒にお食事でも……」

「キリュー様! どうか、どうかわたくしの国へ来てください! 我が国はキリュー様を快く歓迎いたしますわ」

「キリュー様」

「キリュー様ぁあ!」


 キリューは学園の廊下を歩き、一人一人の女性の声を無視して自室へ戻った。

 広々としたカジュアルテイストな豪奢な部屋の中にあるベットへダイブして顔をうずめた。


「ぁああああ! うるせえええ! なにがキリュー様だ! 俺の力が目当てなだけじゃないか!」


 鬱憤を溜まったように叫び捨てた。

 ともかく、昔からのことだが、キリューという存在が大変貴重なために国どころか、同級生から先輩に至るまでひどくしつこく付きまとわれる。

 子供を作るためにも自分の身が必要だったり、キリューの特異な体質と力に世界で一人しかいない『アンメシア』を軍事的に必要とした連中が後を絶たない。

 本人としては自らの剣の腕を見込んだ勧誘のほうが嬉しいのだが、そうではないので腹が立つのだ。


「畜生!」


 枕を投げつけ、タイミングよく部屋に入ってきた女性の顔面に直撃する。

「うぶっ」という声が聞こえてキリューは血の気を引いた。


「あああ、アカネさん!」

「キリュー、いい度胸だ……」


 アカネさんが腰に収めた鞘から剣を抜き、掲げて炎魔法『フェニックス』を放出する。

 火の鳥の形をした矢がキリューの身体のラインをなぞるようにして突き刺さった。

 キリューはベットへ磔にされたように身体を封じ込められる。


「ひぃいい!」

「あいもかわらず、かわいい顔だな」


 舌なめずりをしたアカネさんが近づき、顎先を撫でてスーとその指先を下へと這わせていく。


「ちょっと、アカネさ――」

「アカ姉ェエエエ!」


 切羽詰まったキリューの声と金切り声が重なった。金切り声と重なったと思えば熱気が部屋を吹き飛ばして入ってくる。

 入ってきたのはなぜか、金糸と青に刺繍された学園の制服ではなくメイド服姿のイーシアだった。

 それを見たアカネさんがうるさそうに目を細めて「なんなのだ?」と冷たく言う。


「『なんなんだ?』じゃないわ! 私の制服どこにやったの! なんでメイド服に変えてるわけ!アカ姉」

「律儀に着てくるとはイーシアは偉いぞ」

「し、仕方なく着るしかないじゃない! だって、更衣室にこれしかなかったのよ! 競技用の衣服もないし制服もないし! これを着なかったら下着で学園を徘徊することになるじゃない!」

「ふむ、そうだな」

「『そうだな』じゃないわよ! ああ! アカ姉どこに……って何してんのよ。キリューをまさか……」

「いや、まだだ」

「まだっていったの? まだって! もう、アカ姉はまたキリューを襲おうとする! 今日という今日は許さないわよ!」


 彼女から膨大にあふれ出る炎は彼女の周囲に展開されて燃え広がっていく。

 その炎は周囲の物体を決して燃やしてはいない。

 その炎にはイーシアの抑制力が働いているのでイーシアの思うがままに燃やすという力を発揮する上に燃やさないという力も発揮する。今展開されている炎はただ熱を発するだけの現象でしかない。

 対して、アカネさんも炎の球体を空間に展開し、構えていた。

 互いに力をこの部屋でぶっ放そうというのだ。

 そんなことをすればどうなるのかわかっている。

 いつものことなのだから。


「俺の部屋でやらないで! 別のところでやってくれよ!」


 二人が言葉を聞くはずもない。

 展開された二人の術は真正面からぶつかる。

 そんな泣き叫ぶ声がこだました時――


「スェルブ!」


 二人の相殺された攻撃が硬直したように停止した。

 そうその名の通り停止したのだ。

 まるで時間がそこだけ止まったように停止している。


「何してるのー? 二人とも」

「ユキネ!?」

「むっ、ユキネか……」


 部屋に入ってきたのはアカネにとっては妹でイーシアにとっては幼馴染近い存在として学園の生徒で優秀性ととして名を有名にさせてもいる少女、ユキネ・グレイスは呆れたように額に手を突きため息をついた。


「まったく成長しないなー……二人ともそれじゃあ子供だよ」

「ユキネ、なんでここに?」

「そうだ、お主は今日は部連があると言っていたじゃないか」


 『部連』は学園で趣味などを目的とした共通の仲間で生徒が団体を組んで集まる活動のことであり、主に学園行事が終了した後に生徒活動の一環ともいえる。

 今日は二人の記憶が確かであればその『部連』にユキネは参加していると思っていたのになぜか、突然として現れるユキネに二人は驚いたのだ。


「なんでって、私はみんながいる場所にこの人を案内しに来たんだよ。めんどくさいったらないけどねー」

「面倒ってことはないでしょ。ユキネ」

「「姉さまっ!?」」


 ユキネの背後から現れた存在に二人はまたしても衝撃を受ける。

 これにはベットで縛り付けられていたキリューでさえも無言で驚いていた。


(なんでシリカ姉さんが? グレイシア皇国にいるはずじゃないのか?)


 今のシリカはグレイシア皇国の筆頭護衛騎士隊の隊長でそう簡単に国外出を許可されるような身分ではない。

 彼女がいるということはよっぽどの大事件であるのだ。

 そして、さらに彼女は元『イレスシード』でもある超有名人。


「ちょっと、あれみて!」

「キャー! シリカ様よ!」


 廊下から聞こえてくる黄色い歓声。

 すぐさまに彼女の存在がたちどころに噂となっていくのがわかる。


「まいったわねー、あはは」

「だから、変化の魔法したほうがいいと私は言った」

「はいはい、わるかったわよユキネ」


 ユキネはシリカを部屋に押し込むと扉を閉めて自らは廊下の外に出て行った。

 扉の向こうで聞こえるのは「集まらないでー、ここは立ち入り禁止だよー」と生徒の集団を散らそうと奮闘する彼女の声だった。


「シリカ姉さん、なんで学園に来たの?」

「シリカ姉様がくるとはよっぽどの事態か?」


 二人は魔法で喧嘩をしようとしていた雰囲気など微塵も感じさせず、今はがらりと冷静になっていた。


「今日はね、仕事を学園にお願いしに来たの。そして、その仕事任命者を私のほうで推薦するためにきたってわけなの」



 彼女がここに来た理由はいいが依頼とはまたずいぶんと物騒な話題だった。


「現在、グレイシア皇国は人手不足なのはご存知よね3人共」

「ええ、知っているわ」

「それが何?」

「最近、この国においてモンスターの襲撃や悪徳な犯罪者、ゴロツキに変わらないんだけどそいつらが暴れまわってこと知ってる?」


 そういえば、そんな話を小耳にはさんでいた。

 ここ最近ではその手の輩が跋扈していて王族の騎士団も手に回らなくなってしまい犯罪数は上昇して死傷者も出てしまったほどだ。


「それでグレイシア皇国内の領土でもそれが頻繁に起こって、今回はグレイシア皇国の観光名所とも呼べる町での警邏をお願いしにまいったのよ」

「理由は分かったけどシリカ姉さん、そんなの学園に依頼する任務で大丈夫なの?」

「今回は護衛騎士隊のバックアップで首都での警邏。それに私が推薦するあなたたちなら大丈夫と判断したのよ。それに、教官でもあるアカネも同伴する許可申請もしているわ」

「さすがはシリカ姉様だ、手の抜かりがない」

「どうりで、学園が簡単に仕事の依頼を許可するわけね。でも、アカ姉が同伴教官って私すごい心配よ」

「むっ、どういう意味だイーシア」

「そのままの意味よ、何か文句あるぅ?」


 また二人がいがみ合いを始める中でシリカ姉さんはマイペースに告げる。


「これでみんなで久しぶりに集まれるのよ! キリューもうれしいでしょ?」

「あはは」


 俺は笑うしかなかった。

 そんなシリカ姉さんがなぜか、手招きをする。


「何シリカ姉さん?」


 ベットの磔から抜け出しているキリューはベットから降りてそのままシリカ姉さんのそばに歩み寄ってた。

 すると、彼女はその手をつかんで突然とどこかへと連れて行こうと行動を始めた。


「え、え?」


 扉に群がっていた民衆もシリカ姉さんが出たことに一層活気だった。

 後ろ目に向いていたユキネとも視線が合う。


「シリカ姉さん、キリューをどこに連れて――」


 まるですべてのものから逃げるようにシリカ姉さんに手を引かれながらなぜか走らされる羽目になる。

 彼女はどこか空き教室へと入った。

 唐突にその唇を唇で強引にふさがれた。


「ンッ!?」

「んちゅっ……ちゅるっ……ちゅっ……んっ……」


 濃厚なキス。舌が絡まってキリューの唇をシリカの唇がむさぼり食らう。

 脳がしびれていくような感覚に支配されてキリューは呆然自失となる。

 シリカの体は先ほどよりも身体から精霊力があふれ出していた。

 そう、彼女はただ単に欲を満たすためにキリューを呼び出した。


「ああ、私のかわいいキリュー。好きよ」

「や、やめてよ姉さん! 俺はもう昔のような子供じゃないんだ」


 キリューはもう一度キスをしようとするシリカを突き放す。


「それがどうかしたの?」

「どうかしたもなにも俺はもうこんなの嫌なんですから!」

「まだ、そんなことを言ってるのね。いい、キリュー? これはあなたに与えられた役目なのよ。それに私だって好きでもない相手にこんなことをしないわ」

「だからって、シリカ姉さんは俺にとっては母であり姉だから抵抗あるんです……」

「……そう……まだ受け入れてはくれないの……そろそろ諦めるしかないということ……」


 シリカはそっと一歩退いた。


「キリューごめんね。あなたとは幾度かこんなことを続けてたけどそうよね。たしかにあなたにとってはお姉ちゃんとは……つらいよね」

「っ!」


 一瞬だけ彼女の表情に憂いの顔色が見えた。

 そのままシリカ姉さんは部屋を飛び出して出ていく。

 慌てて追いかけた時には転移の力を使いその身はもうどこかへ消えてしまっていた。


「シリカ姉さん……」


 キリューは自らの熱を帯びて興奮しきった体を見て壁を殴りつけたのだった。


「ちくしょう、どうしたらいいんだよ」

次回の掲載の話になりますが、本作品は別作品の合間での掲載を考えての連載になります。だいたいは2週間前後、もしくは3週間明けで掲載です。大変恐縮ではございますがそのようにさせていただかせてください。

申し訳ございません。

本作品を読んでくださった方々様、少しでもこのような拙い文章の作品ではございますが面白いと感じてくださったならブックマークよろしくお願いします

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