不穏な気配1
薄らと暗い部屋の中で女性の喘ぐ声が響いていた。
それは女性の乱れる声だ。
女はそれは傍から見たら絶世の美女である。
誰もが一目で魅了されてしまいそうなほどに麗しいほどの金髪の美女。
そんな彼女はなぜかベットの上で僕を襲い、胸板を舐め回していた。
「はぁあああ、身体からエネルギーが満ちてきちゃうぅううう!」
彼女は背中をのけぞらせれの僕の胸の上で倒れ込んだ。
僕は精力を絞りつくされたといわんばかりにげっそりとした顔で全身を彼女の唾液まみれにさせられて嫌悪した表情を浮かべて自分を舐め回した母であり姉の女性に告げる。
「シリカ姉さん、もういいでしょ。お願いだからこの縄解いてよ」
美女、シリカは喘いだ呼吸を繰り返しながら全身から精霊の力をあふれ出しつつ落ち着きを取り戻すのに時間をかけていた。
異常なほどの量の力。
それは少年と今の淫らな行為に及んだ結果だった。
少年は黒髪に赤髪のメッシュのはいった特徴ある長髪に長身、赤い瞳にちょっと陰気な顔立ちをした少年で目の前の姉とは似てもいない容姿をしている。
それもそのはず、彼らに血のつながりはないのだから。
「仕方ないのだから許してキリュー。戦闘で疲れを癒して『精霊力』を回復させるにはこの世界で唯一の『男』のあなたが必要なのよ」
精霊力と呼ばれる人が持つ力を回復させるために行っていた儀式だった。
だが、美女シリカは儀式が終わって僕の上からどくことはなかった。
「それにまだこれだけで終わりにしては駄目なのわかるでしょ?」
「ね、ねぇさん? まさか、あれをするの? でも、あれはみんなが禁止にした行為でそれを破るのは良くないんじゃない?」
「そんなのどうだっていいの。それにこの世界のためにする行為だからいいのよ」
シリカはにじり寄って下腹部へとその手を伸ばし始めた。
「そうはいきませんわよシリカ姉さま!」
突然として暗がりの部屋に明るい光が差し込む。
それは一人の少女が扉をあけ放って入ってきていたからだ。
「また一人でキリューと無断で回復儀式を行いましたわね! 王女様に言いつけるわよ!」
「はぁー、見つかったかぁ」
大きくうなだれるようにキリューの上からシリカはおりて、ベットから足をおろすと魔法で換装して普段の騎士制服に変身した。
部屋に入ってきた少女もまたシリカを姉と呼ぶがその容姿は金髪に黒のメッシュの入っていて、容姿もシリカと負けず劣らない美貌性のある女の子であるが似てはいない。
もちろんのこと、彼女とシリカにも血縁関係はない。
「たすかったよ、イーシア」
どうにかロープをほどいてくれる乱入してきた少女イーシアに僕は感謝をする。
「シリカ姉さんはいつまでそこにいるの? 早く王女様のところへ行って報告をしたらどう?」
「あら、私はイーシアが私が消えた隙にキリューに良からぬことをしないとは限らないんじゃない」
二人の間で妙な威圧的空気が立ち上る。
「まぁ、仕事の報告もしないといけないのは確かだし私はそろそろ行くとしましょうかしらね。じゃあ、またあとでねキリュー」
シリカが部屋から出ていくと、僕は自分のロープを解いてくれるイーシアと二人きりになる。
僕が痛む手をさすってよそ見をした隙になぜかイーシアに押し倒されていた。
「イ、イーシア?」
「また、シリカ姉さんとだけ回復儀式してずるいわ」
「だ、だってシリカ姉さんは遠征した先の戦闘で『精霊力』が減ったからその手助けで僕は……」
「だったら、私もさっき訓練で使用して疲れてるからいいって事よね?」
「え! それは駄目だよ! だって、僕たちでまだ回復儀式をするのは満たしていないから禁止だって王女様から命令されたじゃん」
「そんなの今更じゃない! ユアとユキネともしたって知ってるんだから」
「っ! どうしてそれを……」
「だから、今度は私と……」
近づいてくる唇に思わず彼女を突き飛ばして逃げ出した。
「あ、待ってキリュー外は出ちゃダメなんだって!」
なぜか、彼女の慌てたような口調が聞こえたが僕は無視して全力で疾走した。
大きくて広い廊下を僕は下着姿のまま走り出すと周囲の注目が集まった。
「きゃぁああ!」
「キリュー様ぁああ!」
侍女や騎士の女性たちの歓喜の声と同時にキリューを追いかける。
「私、今日能力を使いすぎてすり減っていますの! お力を回復させてくださいまし!」
「私もお願いします!」
「ぼ、僕はもう今日は疲れてるんだぁあああ!」
廊下を駆け抜けてそのまま外の正門まで逃げた。
門前には騎士が二人いた。
「キリュー様どちらに?」
「お外に一人では危険です。キリュー様はこの世界でただ一人の貴重な『男』なんですよ。どこかへ出かけるなら私たちが同行をします!」
「僕は一人になりたいんだ! 構わないでくれ!」
「しかし、キリュー様ッ!」
そういって僕は町へ逃げ出した。
すると、街の住民も即座にこちらの存在に気付けばたちどころに声をかけていく。
「キリュー様、今日はどちらに行きますので? この後もしよろしければ私のお店にどうですか?」
「キリュー様、新しいお召し物が入ったんです。いかがでしょうか? 私のお店に。どうせならそのまま今日はウチの娘と遊んで――」
「僕にかまわないでくれ! 忙しいんだ!」
凱旋門通り沿いに並ぶお店の人からの勧誘を押しのけて、裏へ入った。
そこは唯一人が少なく、ガラの悪い女性たちが闊歩している。しかし、彼女たちは僕に声をかけることはない。
なぜなら、彼女たちは彼にかかわることを恐れているからだ。
それは僕がこの世界で貴重な男、キリュー・グレイシアが王族の人間であるから。
そんな僕はそれを熟知しているので唯一周りに干渉されないこの場所を通り、そして自らが落ち着いて一人になれるベストスポットへ入った。
そこは今は休眠期に入っている祭壇。。
その祭壇の柱の隅に寄りかかって膝を抱えてうずくまる。
「僕はおもちゃじゃないんだ、みんなの力を回復させるための道具なんかじゃない」
僕はこの世界で珍しい存在である。
それはこの世界にただ一人の『男』であることと他者の力を回復させて、増強させたりなどという能力を持っていた。
しかし、それは自分の精力を削って与える行為。
そんな珍しい彼をこの世界の全女性が求めてしまう。
それにもう一つ。
彼は唯一の男でもある。
女と男。それはどの世界でも歴史の理でいる存在。
この世界にはキリュー以外男は存在しない。
だからこそ、女は男に飢えて求めてしまう。
この貴重な僕という存在を。
********
「はぁー、だるい。今頃キリューは何をしているのかしら」
真夏のような太陽が照らす日の光が窓辺から差し込んでいた。
ぼうっとそんな外を見ながら私、ユキネ・グレイスは物思いにふけった。
「ほら、そこユキネ・グレイスしっかりと授業を聞いていますか!」
目の前でこの教室で歴史の授業を講義してくれている先生がぼうっとしていた私を叱りつけた。
私は目の前の黒板に書かれたことなど当に知っていて、正直この先生よりも詳しいくらいに認識していることをべらべらと聞かされるなど退屈で仕方ない。
だから、ぼうっとしていた。
それを正直に答えたら厄介なことはわかっているので謝るのが正しいのが普通だろう。
でも、私は普通じゃない。
生まれも育ちも性格も。
「先生の授業があまりにも退屈だったから聞いていなかっただけ。それが何かいけない?」
「なっ!」
周囲の生徒たちが笑みをこぼし始めた。
それも私が優秀だって知っているからこそ、先生の反応を面白がっての意味合いだ。
「ユキネ・グレイス! そうまで言うなら黒板に書いてあることを説明しなさい!」
私は大仰にため息をつくと物思いに読書でもするように語る。
『 精霊世界、アルトメリア。
精霊に加護を受けて、精霊からの力を受けてすべての物体、人は『精霊回路』を持ち
あらゆる道具を稼働させたり、争いごとなどに使用する。
しかし、その生まれたアルトメリア人は全員が女性だった。
アルトメリアの歴史の中で過去に神話の戦いがあってその際に受けた世界の呪いが男を死滅させ女性のみがこの世界で生まれないという異質に変えてしまったからだった。
しかし、そんなアルトメリアも人類繁栄をどうにかなそうと考えてある稀代のアルトメリア人の女性が精霊術を駆使してあるものをアルトメリアの神と作った。
それは『神樹』と呼ばれるもの。
アルトメリア人類は後に生まれてこの世に『神樹』で生を成していく。
それも限界もあった。
中にはそのような形での歴史や文化を重んじたありかた歪みのような存在も産み落とされてしまう。
『精霊大戦』と呼ばれる歴史の中で最も最悪な戦い。
英雄の戦士『イレスシード』と改革を起こそうとする『魔王』の存在。
『魔王』は突如として一つの国を築いて現れた王女の通称だった。
その王女は子供を我が支配下に置こうとする欲の強い存在が生まれた。
さらには自らさえよければよいという方針で自治権の管理する「神樹」のみを保護し活かして他の「神樹」を破壊し弱めたりすることを呪いで及ぼした。
止めるために頑張った正義のモノこそ、『イレスシード』であった。
彼女たちの頑張りは届かなかった。
人口もすり減り子供を生み出す『神樹』さえも現存するものが2つとなった。
しかし、正義のものたちはあきらめず最後にみずからの遺志を継いだものを生み出すことにしたのだ。
彼女たちは次世代へつなげるために自らに宿る魂『魂魄』を残りの一個の『神樹』へささげることで子孫を作っていく。
その時、運よく生まれた存在がいた。
生まれるはずは3人の子孫に加えてもう一人いた。
その者は『女』とは違う存在『男」だと後に判明した。
『男』の存在は大戦期より前にいたような存在で誰もが忘れていた人類種の誕生に世界は運命に対しての光の希望を持った。
『男』の彼は最後の神樹がある街、グレイシア皇国での管理のもとに王族の一員となった。
その彼、キリュー・グレイシアはあらゆる検査を受けて、王城で成長を遂げていき、ある能力があることが分かった。
それこそ、他者を増幅、回復させる能力である。
たちまち、これを使いグレイシア皇国は大戦期で死滅したが復興を果たして躍進を遂げて国は発展する。
グレイシア皇国にとって彼という存在はよりシンボルのような神聖的な象徴。』
私は一呼吸ついて座席につく。
「ぐぐっ」
教師の悔しがる表情に私は冷めたまなざしを向けつつ面白いことが起こるのを期待して待った。
「早く、キリューと遊びたいな」
教室に騒がしい足音を響かせて一人の少女が入ってきた。
その少女に私は見覚えがあって反応した。
「あ、イーシア。どうしたー?」
「はぁはぁ。授業中すみません。ちょっと、ユキネを借りていきます!」
私は乱暴にイーシアに手を引かれて教室を出ていく。
彼女は取り乱した様子でずかずかと廊下を歩いていく。
「ちょっと、私あの授業でないといろいろ卒業やばいんだよ」
「ユキネはいつもできるでしょ。どうせいつものように教師を馬鹿にして負かしたんじゃない?」
「お、あったりー。よくわかったね。さっすが私の姉」
「馬鹿なこと言ってないの! それよりキリューが城から出て行っちゃったのよ!」
「え、またー。どうせ、街の中でしょ。あわてる必要なんてないじゃん」
「そうも言えない状況になるかもしれないのよ」
「え、まさかまた嫌な予知見えたの?」
ユキネはイーシアの反応を見て頭を抱えるのだった。
*********
グレイシア皇国王城内、王座の間にて対談が行われていた。
王座の間の王座には一人の銀髪のドレスを着飾った勝気そうな美女が座り、目の前に平伏した金髪の美女シリカを見下ろしている。
「例の調査はどうでしたか?」
「やはり魔王の残党の仕業でした」
「そうですか。あの国には少なからず武器などの制作に根強く協力をしてもらっていましたがもうそ
れも無理になったということですわね」
王女の前に平伏したシリカは先の調査で遠征に出ていた任務の報告を王女へと伝えたが王女の反応はやはり芳しいものではない。
「このままでは彼がいずれ魔王の毒牙にかけられてもおかしくはないですわね。やはり、ここは彼と繁栄の儀式をするというのも一つの手ということであるのでしょうか?」
その王女の言葉に周囲がどよめき始めた。
彼女の傍らにいる秘書官の役割を担う女性は王女へと進言する。
「その考えは早計です。彼は未だに未熟な少年。やはりそれなりに魔力や体力を超えた段階でするのが私たちとしてはするのがベストだと考えます。それに彼も今の状態で行えば体がもたないでしょう」
「しかし、奴らの手がそこまで迫ってるとなると早いに越したことはないのではなくてオスキー?」
「……」
秘書官オスキーは王女に言われて沈黙した。
魔王の脅威に怯えて彼のことを考えられるほどの余韻は世界にはなかった。
「シリカ、あなたはどう思っていますかしら?」
「わ、私ですか?」
「ええ、あなたちょくちょく彼と回復儀式はしているのを私が知らないと思っておりまして?」
「っ!」
「あなたは彼がこの世界のすべての女性と繁栄の儀式をこなせるほどの器であると考えていますか?」
シリカは王女の言葉に深くは考え込まず正直な感想をぶつけた。
「正直、私自身はキリューは世界のすべての人と繁栄を行うのはまだ足りないと考えています。ですが、ある特定の一部とならば可能ではないかとは思います」
「ある特定の一部?」
「私や王女殿下、娘たちのことです」
「なるほど。でも、その場合に国民や他の貴族は納得するかしら?」
「しないでしょう。おおよそ、後々に彼を襲う輩は多く出て死ぬなんてこともあり得ます」
「ならば、やはりオスキーの言うように時期が熟すのを待つしかないというのかしら」
対談の席の最中扉が騒々しく開かれた。
「対談の途中ですよ」
「申し訳ございません! それが緊急の伝達がございまして!」
「なんですか?」
「それが」
乱入した騎士は王女のそばに歩み寄って耳元でささやく。
すると、王女は険しい顔つきになった。
「王妃殿下どうかしまして?」
「シリカ、今すぐに町へ出向いてくださいませ。街に侵入者が紛れ込みましたわ」
「っ!」
「先ほど、市街地の路上で我が国の兵の遺体が発見されたそうですわ。おおよそ、他国に彼の情報が漏れたのでしょう。今すぐに街へとお願いしますわ」
「わかりましたすぐに行きましょう」
シリカは即座に立ち、王座の間を出ていく。
「シン」
「ハッ」
音もなく忽然と王女のそばに姿を現す漆黒の髪をした精悍な顔立ちをした民族衣装を着込んだ美女。
「あなたはキリューの護衛をお願いします。侵入者が彼を襲うのを防ぐのです」
「殿下、少々それに問題がありまして」
「なんですか?」
「キリュー殿はタイミング悪く街へとまた逃げておられます」
「っ! 今すぐ探すのですわ! 彼が殺されたら世界は終わりですわよ!」
「御意に!」
シンと呼ばれた彼女は王国屈指の護衛の暗殺者。姿を即座に消して王座の間にただ一人グレイシア皇国王女、メリアルト・グレイシアと秘書官のオスキーだけが残る。
彼女は顎先に手を当てて過去の日記と歴史書物を閉じる。
「オスキー、この世界は本当に繁栄の道を彼だけに背負わせるべきなのかしらね」
「我々にはそうするほかないとしか言えません王女殿下」
王女は唸りながら書物を閉じるのだった。