プロローグ1 生まれた赤子
以前に掲載していた精霊世界の改変版になります。物語を1から修正して整えて始める物語です。
薄ら眼で僕は目の前の女性を見つめていた。
彼女は涙を流しながら僕に訴えかけるようにその体をゆする。
「―――、―――」
彼女が何を言っているのかは全くわからない。
ただ、必死に何かを訴えていた。
長い金髪が目立つ美しい女性。僕は彼女を誰よりも知っている愛していた。
それは家族愛に近いもの。
彼女は涙を流しながら愛しているはずなのにその手にしたナイフを突き立てた。
僕の耳は決して聞こえなくなったのではない。
意識が混濁していたからこそ聞こえていなかった。
彼女に何度も腹を突き刺されたことで僕の意識は薄れている。
彼女の手に持つ赤いものが付着したナイフが視界に何度もちらついた。
次第に意識が闇へと沈みゆく。
目の前で僕のことをゆすっていた女性が笑顔を向けた。
「この世界で愛せないなら別の道を――」
この言葉意味が僕にはよくわからなかった。
最後に誰か一人の女性が入ってきたように見えた。
僕の意識は持たずそこで息絶えた。
*********
あちこちで燃え盛る火が町を襲う。
市民が逃げ惑う。
中には子供がいるが子供たちは次から次へと女たちに拉致されていく。
一部には殺される子供もいた。
それはまるで選別するかのような行動。
特にこの世界で子供は特に貴重な存在である。
中には得意な能力や体質をもって生まれる子供もいる。
そうした存在を選別して拉致しているのだろうか。
火をくべて起こす暗黒色をした騎士たちの行動は非常識な行動であまりにも残忍。
彼女たちは己が我欲を満たすためだけに殺戮をただひたすらに巻き起こす。
なぜ、そのような行動を起こすのか。
それはその場にいる誰もが一つのことしかわからない。
暗黒騎士の目的は、世界に対しての侵犯。
世界支配を目論む行動。
「さぁ、平伏すがいい! この国は我が軍、アルス国の手に落ちた!」
アルス国と名乗った軍団はたちまち、国を一つ壊滅させていく。
国の街をあざ笑うかのように火の勢いは止まらない。
彼女たちは撤退を始めようと動き出したがその出先、アルス軍の一人を一つの矢が射抜いた。
「敵襲だ! 全軍防壁光陣展開!」
光と鋼の精霊の加護を受けて防壁の力を展開する。
精霊、それは世界に伝わる神聖的な存在であり、世界のすべてといっても良い力の根源。
その力の根源を使い、アルス軍の騎士たちは大きな透明色の円形型をした壁を展開した。
自らを守るようにして覆う防壁。
だけれど、その壁をぶち抜く強烈な雷穿がほとばしった。
壁は破壊されて軍団を雷光が襲う。
たちどころにアルス軍は均衡を崩された。
「全軍撤退! 撤退せよ!」
アルス軍の前に2人の女人の騎士が立ちはだかる。
一人は白銀の甲冑を身にまとった赤く真紅に燃えるような髪と瞳の美女。
もう一人は蒼い甲冑を身に纏った青く澄み渡るような青空に近い髪と瞳の美女。
「イレスシード!?」
一人の赤い騎士が放った一陣の風がルグリアルス軍を吹き飛ばして空へ打ち上げた。
そこへ、もう一人の青い騎士が水の弾丸を撃ち放ってアルス軍の命を散らせていく。
地盤が割れて、地へ落ちるアルス軍。
生き残った軍勢にとどめを射しに二人の騎士が炎と雷を放った。
炎と雷に焼かれながらもただ一人が落下を逃れて撤退をする。
逃亡したものを追いかけ2人の騎士は追い詰めたかに思ったが――
「あはは、イレスシード! お前たちは追い詰めたんじゃなくおいつめられたんだ!」
騎士が逃げた先に驚くべき光景があった。
2人の騎士を待っていたのは4基の砲台と一人の漆黒の人物。
「グラフォルっ!」
イレスシードの一人の騎士がその人物の名を叫び精霊詠唱を始めたが遅い。
彼女たちを砲撃の嵐が襲い、上空から光線の雨を振り落とされた。
イレスシードの騎士たちは膝をついた。
「アタイたちでは止められないんすか!」
「もう精霊力が限界……」
イレスシードの騎士が限界だった。
だが、負けじと踏ん張った赤い騎士が剣を構える。
「あなたは逃げて。この場は私が食い止める。だから、これをもって逃げて」
相棒から渡された宝玉を見て青い騎士は息をのんだ。
「何を言ってるんですか! あなたも一緒に! 」
「いいから行きなさい! イレスシードの数もあなたと私だけ。もう、現代で彼女らを止めることはできない! なら、今止められなくても後の子孫にすべてを託すしかないでしょっ!」
グラフォルと呼ばれた敵が手を掲げてさらなる追撃を仕掛けた。
イレスシードは竜巻に見舞われる。
赤い騎士が手を振るい青い騎士はその場から光によって消し飛んだ。
青い騎士は目を覚ました時、そこは安全な隣町の地下祭殿だった。
世界に数基あるうちの人口製造装置『神樹』の最後の残りがある街、ルクシード。
彼女は涙ながらに自分だけが生き残ってしまったことを後悔し、その宝玉をもって装置へ向かった。
宝玉はこの世界の人たちが一人一個は持っているいわば魂の結晶『魂魄』と呼ばれるもの。
大きな樹海の木のような人口製造装置のもとにかざして『魂魄』を入れることで相棒の意志を継いだ子供が誕生するのだ。
「そうだ。仲間たちのも」
ここに来るまでの間に多くの戦友を失っていた。
それを思い出すように彼女は懐に入れてた複数の宝玉も取り出す。
彼女は涙ぐみながら『神樹』へ宝玉をかざす。
宝玉は『神樹』に吸い込まれていくと神々しい輝きを放つ。
地下祭殿に一つの足音が聞こえて、青い騎士は剣を鞘から抜いて殺気立つように構えた。
「王女殿下!?」
そこに現れたのは死んだと思っていたこの国の王女だった。
「これは一体どういうことだ!?」
「王女殿下……生きていらっしゃったんですね……うぅ……よかった無事で」
「そんなことはどうでもよい! 生きているのは貴様だけなのか!? 答えろシリカ!」
青い騎士、シリカは無言の返事をした。
王女は落胆と絶望を顔ににじませる。
悔しそうに『神樹』を見つめた。
「未来の子供に縋るしかないというのか。しかし、神樹力も弱まっているというのに……」
シリカは王女の言葉がもう耳には入っては来なかった。
ただただ、泣き崩れ共に戦った仲間の『魂魄』が『神樹』に投影されていく時間をただひたすらに『神樹』を見つめ続けながら待った。
光が赤い光へ色を変える。
「なんだ! このようなこと今まで起きたことなどない!?」
シリカもまたそのような現象初めて目にする。
あまりにもありえないことに戸惑いながらも目の前に起こる奇跡とも呼ばれる結果に目を奪われた。
「うそ……」
光の玉は人の形を成して地上に降り立つ。
そうして、人の形を成したものは3人の赤ん坊としてその地に生まれ誕生したがその時、その場にいる全員が驚愕した。
赤ん坊の誕生にもちろんだが、赤ん坊の一人の存在に。
「これはっ!」
そこには彼女たちが見たこともない赤ん坊が誕生していた。
股間に妙なものをついたこの精霊世界『アルトメリア』ではあまりにも異の存在の誕生だった。