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3.『呪殺人形館』現地調査

 日付が変わって午前2時。僕は南山田先輩の運転する車で呪殺人形館に向かっていた。


「あれからネットで呪殺人形館の噂を調べてみたんですが、どうも今回の件と合わないんですよね」


「ん?どういうことじゃ?」


「ネットで流れている噂は『亡くなった娘の霊が乗り移った人形が館内を歩き回っている』だとか、『人形が何体も集まり夜会を開いている』だとか、とにかく『人形』に関するものばかりなんですよ。今回みたいに『人間の幽霊らしきものが目撃された』なんて話は1件も見つかりませんでした」


「なるほど、確かに今回の件とは合わんの」


「単なる見間違いとかなら思い込みで『人形が現れた!』ってなりそうなんですけどね。やっぱりAの位置に誰か人間がいたってことなんでしょうかね……」


 そんな話をしているうちに現地に到着した。

 聞いていたとおり山中の一軒家で周囲には他の建物は見当たらない。

 廃屋から100m程離れた道路で、ほぼ家の正面を見てとれる位置に車を停め、ヘッドライトで廃屋を照らす。


「いくらかズレておるかもしれんが、おそらく車を停めていたのはここらへんじゃろう」


 ここを訪れた他の人達もだいたい同じところに車を停めるのだろう。道路のそのあたりから玄関まで雑草が踏み固められて、なんとなく通路のような感じになっていた。

 僕と南山田先輩は懐中電灯を点灯して車を降りて辺りを照らす。


「見たところ幽霊の正体が加藤氏か堀田氏以外の誰かであるっていう可能性は低いんじゃないでしょうか」


「ん?どういうことじゃ?」


「乗ってきた車を隠すような場所が周囲に無いじゃないですか。家の裏に隠そうとしたら家の周囲の雑草が踏み固められているはずでしょう。事件から三日後の今日ならともかく、事件当日ならさすがに5人も気付くでしょうし。札幌の中心部からここまで車で2時間かかるんですから徒歩や自転車で来たというのも考えにくいですよね」


「バイクなら手押しでこの通路を通って家の裏に隠すことも可能じゃなかろうか?」


「あ、その可能性がありましたか……ともあれ検証開始といきますか」


 僕は車の後部ドアを開け、紙袋から薄いグレーのパーカーの上下を取り出して服の上からそれを着込んだ。

 これは加藤氏が事件当日着ていたもので、今日南山田先輩に借りてきてもらったものだ。

 ちなみに袋の中には堀田氏が事件当日着ていた水色のシャツとアイボリーの綿パンも入っている。

 これを着て図のAの位置に立ち、ヘッドライトで照らしたらどう見えるか実際に試してみようというわけである。

 わざわざ夜に調査に来たのもこのためだ。

 本当は目撃した3年生3人にも来てもらって見え具合を確認してもらいたかったのだが、それを打診した南山田先輩に『済まん、今は夜中あそこに行く度胸は俺達に無い。勘弁してくれ』と丁重に頭を下げられたとのことなので、僕と南山田先輩の2人で検証することになった。


 僕と南山田先輩が交互に2人の服を着てAの位置に立ち、互いに車の位置から確認してみた。

その検証の結果から言うと、『加藤氏、堀田氏、他の第三者のどれも正体であり得る』ということになった。


 どちらの服を着てAの位置に立っても、ヘッドライトの青白っぽい色が強く影響してか服の色の区別まではつけられなかったのだ。


「まあ、服の色の区別がつくくらいなら、2人のどちらか、或いは第三者かと最初っから見当も付けられるじゃろうしな」


 細身ながら長身の南山田先輩が、無理矢理着込んだ加藤氏の服を少々苦労して脱ぎながら言う。


「せめて2人の体格が大幅に違えばそこから絞れたかもしれないんですが」


 2人とも170センチ弱くらいで、痩せても太ってもおらずといった体形なのでそこから区別はつけられない。


「ただ、あんなひび割れたり穴が開いたりしてるガラス越しでもパッと見で『人間だ』って分かりましたので、逆に言えば人間以外のものを見間違えた可能性は低くなったかな、とは。可能性ゼロではないですけど」


「しかし、これで目撃時には誰か、あるいは何かがAの位置に居たことは確実になったわけじゃな」


 どういうことかというと、試しにAの位置から奥に向かって廊下を進んだところ、どちらの服装でもスリット窓から1mも離れると闇に紛れて見えなくなってしまったのだ。


 実は現地に来る前は、

『加藤氏が部屋4に入らず、部屋4のドアの前の廊下から室内を撮影していて、それがヘッドライトに照らされた可能性もあるのでは?』

 ということも考えていたのだが、それはあり得ないことが判明したわけだ。


 一方で、これによって第三者が部屋3に出入りして加藤氏と堀田氏をやり過ごしたという可能性が残ってしまった。

 照らされている中でも部屋3のドアの開け閉めや出入りは少なくとも外からは目撃できないからだ。


「さて、そんじゃ屋内を調査しますか」


 改めて懐中電灯を手に2人で屋内に入りなおす。廃墟マニアなどが訪れているためか屋内は踏み荒らされており、床の足跡や埃の有無などから当日起きたことを推測するのは難しそうだ。


 その後、2人で写真を撮りながら屋内を見て回ったが、調べれば調べる程『これホントに幽霊出たんじゃないか?』という結論が出てしまいそうになる。天井や床下に隠れる可能性まで考えて調べてみたのだがそれも不可能だ。

 

 一通り調べた後、これ以上空気の悪い屋内に居るのもどうかということで一旦調査を打ち切り、車内に戻って検討することにした。


「あの音は問題ですよねえ」


 建物が古く、手入れもされてないのでどのドアも開け閉めするとギイギイ音が出る。5人が来た時には開けなかった部屋3のドアも開閉すると他のドアと同様に結構な音がした。

 部屋3に隠れていた第三者が玄関に出てまた部屋3に戻った場合、その音が加藤氏の撮った動画に録音されなかったとは思えない。


「せめて加藤氏と堀田氏の位置が逆だったなら……」


「ん?どういうことじゃ?」


「堀田氏は基本しゃべり続けていましたから、部屋4に居ても部屋1や部屋3に繋がるドアをゆっくり開け閉めすれば、録音もされず、撮影者も気付かない可能性もあったんじゃないかと」


「加藤君はずっと無言じゃったからな」


「そうとう怯えていたんですよね。だったら通常より物音には敏感になってるでしょうし」


「そうなるとますます誰かがAの位置に来るのは無理か……犯人が映写機でスリット窓に動画を映写したとかどうじゃろ」


「そんなことしたら内側から照らしてるのは外からもわかるでしょうし。百万歩譲ってあのひび割れと穴だらけの薄汚れたスリット窓がスクリーン替わりにしたとしても、それならヘッドライトを当てたら逆に映像が消えます」


「犯人がスリット窓ガラスに等身大ポスター貼り付けたとか。引っ剥がせば一瞬でゴミに紛れて証拠隠滅できるじゃろ」


「何ですかその意味不明な行動。だいたいその引っ剥がされたポスターはどこに消えたんです?」


「えーと、そうじゃな、この数日の間に訪れた廃墟マニアがたまたま被写体が自分の好みだったそのポスターを持ち去ったとか」


「スリット窓やその付近に最近何かを張り付けたような跡はありませんでしたし、ヘッドライトの光じゃポスターに描かれた人物を人間として認識できないでしょう。服の色も分からなくなってしまうんですから。あと描かれた人物は動かないでしょうし」


「犯人が等身大のビニール風船人形を空気で膨らませてAの位置に置いたとか。刃物とか針で一突きすれば破裂して一瞬で証拠隠滅」


「だから何ですかその意味不明な行動!一応反論しますが、それなら破裂音が録音されているはずです!また、ビニール風船人形は人間っぽく動けません!ポスターと違って残骸はただのゴミですから廃墟マニアも持ち去らずにいるはずですがそんなものはありませんでした!っていうか南山田先輩真剣に考える気ないでしょう!」


「いや真剣に考えたんじゃが……」


「発想の柔軟さは凄いんですけどね……いずれにせよ、当日ヘッドライトで家を照らしたのは偶発的なもので予測はできません。だから今回の件は事前に何かを準備して起きたこととは思えないんですよ」


「確かにそうじゃな」


 その後、2人で僕が撮った画像を見返していたが、そのうちに呪殺人形の画像が出てきた。


「実物は迫力ありましたね」


「ネットでも『大きい』とは書かれておったが。まるっきり等身大じゃったな。呪殺人形などと呼ばれるだけのことはあるのう」


「ええ、大きいんで撮影するのがちょっと大変で……ん?……あ、……!」


「?どうしたんじゃ瀬川君?」


「南山田先輩!もう一度家に入りましょう!確認したいものがあります!」


「え!?あ、うん、それはわかったが一体何を」


 僕は車を飛び出し、走って廃屋に着くと玄関ドアを開けて中に飛び込んだ。そして屋内で『ある物』を手に取り確認する。想像したとおりの箇所の汚れがこすれ落ちていた。


 その様子を後ろから見ていた南山田先輩は僕に声を掛けた。


「あの、瀬川君、それが何か?」


「ああ、これをですね、恐らくこんな具合に」


 恐らく今回の『幽霊』の正体であろう人物が用いたようにその『ある物』を使ってみる。


「!そういうことじゃったのか……」

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