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2.映像検証

 南山田先輩は説明しながら、平面図に目撃時の関係者の立ち位置をアルファベットで記入していたので、それを見て僕も先輩に確認する。


挿絵(By みてみん)


「なるほど。おそらく平面図のAの位置に立っていた何者かがガラス越しに3人の3年生に目撃されたんですね。そのとき堀田氏はBの位置、加藤氏はCの位置に居た。しかしその後すぐに玄関を通って出てきた堀田氏も加藤氏もその何者かを見ていない、と」


「ああ、呪殺人形館なんて言っても普通の広さの平屋建てじゃしな。誰か人がいれば気が付きそうなもんなんじゃが」


「単純に残された加藤氏がそのまま玄関に居てそれが目撃されたってことでは?」


「それなんじゃが……当日2人が撮った映像を見てもらえばその線は無いのが分かると思うんじゃ。これ、君のパソコンに繋いでも良いじゃろか?」


「ええ、どうぞ」


 南山田先輩が僕のPCにカメラを繋ぎ、堀田氏の撮った映像から確認した。

 2人のやり取りの音声が流れ、玄関から廊下を撮影した映像が映るが、思ったより荒れていて思わず声が出る。


「うわあ、荒れてますねえ」


「廃墟マニアやらそこらの暇人が話題作りに来たりしとるようじゃし、ちょうどいいゴミ捨て場と思われとる節もあるようじゃの」


ペットボトルやお菓子の袋なんかのゴミはまだ分かるが、へこんだ消火器、草刈り用ブラシカッター、のぼり旗竿、『油』と書かれた一斗缶、奥にはマウンテンバイクまであるようだ。


「あ、あの右手奥の半開きになってるドアの部屋が例の呪殺人形部屋なんですね。何か出てきそうですね。できれば近寄りたくない加藤氏の気持ちも解りますよ」


 2~3分後、堀田氏は加藤氏を置いて部屋1に入ってドアを閉め、撮影して回る映像が3分程続く。

 そして部屋2に入ったところで画面が真っ暗になり、堀田氏の『うわっ、暗っ!」との声があり、数十秒程の間が空いた後、堀田氏と外の先輩との通話が始まった。その更に数10秒後の

『ええっ!幽霊っ!?出たんすかっ!どこ!?』

 という堀田氏の発言の後、ゴンッガラッゴロロロッと物音がした。

 続けて

『え!?いや、いないと思いますけどっ』

 という発言の後にギイッガターンッと更に大きな音がした。


「バックで鳴っとる物音は恐らく加藤君が堀田君の発言に驚いてカメラを落として廃屋から逃げとる音じゃ」


 その後、通話を切った堀田氏が走り出したところで画面が少し明るくなったが、その時点で堀田氏も撮影を放棄してカメラを手に持って全力で走っていたため、画像はブレまくってほとんど何が映っているか分からない状態が続く。音声で状況はなんとか想像できるのだが。表で他のメンバーと合流して会話が始まったところで映像を止めた。


「まあ、さっきの先輩の説明どおりですね。一度見た限りでは特におかしな点もないし」


「うむ、では次に加藤君の撮影した映像を見てくれんか」


 カメラのスイッチが入り、先程と同様の堀田氏との会話が流れる。しかし、映像は最初こそ廊下を撮っていたが、堀田氏が部屋1に入ろうとする頃には足元ばかりが映っていた。堀田氏に一緒に回ってもらおうと必死で撮影どころではなかったのだろう。

 堀田氏が部屋1に入った後もしばらく足元が映るばかりで、ドア越しに微かに堀田氏の実況らしき声が聞こえる状態が続く。

 と、いきなり画面がぼやけた。良く分からないが移動しているようだ。


「あ~、これ、廊下の壁ですか」


「そのようじゃな。近すぎて一瞬なんだか分からんかったが」


 数秒後、コツッ、ギイ~とドアが開く音がして映像が変わる。部屋4の呪殺人形部屋の中が映し出された。画面の中央やや左下にこの廃屋の通称の由来となった呪殺人形と思しき市松人形の上半身が見える。


「怖っ!これは怖い!いかにも心霊話のネタになりそうな人形ですね」


「ああ、何度見ても不気味な人形じゃのう」


 十秒程人形を映したあと、映像はゆっくり右へと移って荒れた部屋の様子を映し出していく。

 そしてまた映像の動きが止まった数秒後

『ええっ!幽霊っ!?出たんすかっ!どこ!?』

 と堀田氏の声が聞こえてきた。これに加藤氏が驚いてカメラを落としてしまったらしく、映像が乱れ、ゴンッガラッゴロロロッとカメラが床に落ちる音がして画面が真っ暗になった。

 どうやらレンズの前にゴミか何かがあるらしく映像は見えないが、その後、堀田氏がやり取りする怒鳴り声や、ギイッガターンッと加藤氏が玄関ドアを開けたと思しき音、3年生たちが表から呼びかける声、堀田氏が部屋1から出て玄関ドアから走り出るらしき音が堀田氏の記録と同様に録音されていた。


「あとはバッテリーが切れるまで、表で騒いでいる声が小さく聞こえるだけじゃ」


「映像についてはどっちも証言どおりってことですよね。実際何が起こったと先輩は考えてます?」


「本物の幽霊でもなく、5人のうちの誰かのいたずらでもないとすれば……部屋3に誰かが隠れていて、廊下に出てきたところを目撃され、加藤君が部屋4から飛び出す前にまた部屋3に引っ込んだとか……でも時間的にも距離的にも加藤君がそれに全く気付かなかったとは考えにくいんじゃよなあ……」


「気になったんですが、撮影しながら廊下を移動する前に加藤氏は一旦カメラのスイッチを切って入れなおしてますよね。堀田氏の撮影した映像との比較から3分間程だと思いますが、スイッチを切った理由って聞いてます?」


「彼が言うには『目には見えない霊が、カメラの液晶に映ったりするかもしれないと思うと怖くてスイッチを切った。でもこのまま先輩たちのとこに帰っても許してもらえないだろうから撮影する決心をしてスイッチを入れなおした』とのことじゃ」


「霊がカメラに……確かにホラー作品とかでありそうですね。しかし、これじゃあ互いに疑心暗鬼になるわけだ」


「それぞれの証言の根拠にそれぞれ隙があって決定的な証拠にならんのじゃな」


 加藤氏にはカメラのスイッチを切っていた空白の時間がある。その間に何か細工をした可能性がある。

 堀田氏は部屋2に入ってからは映像が映っておらず音声しか入っていない時間がある。何かでレンズを塞いでB以外の場所に移動していた可能性がある。

 3年生は3人が互いに証人となるが証拠となる映像などは無い。3人が共謀して目撃譚をでっち上げた可能性がある。

 更にこの5人以外の第三者の関与の可能性も否定できない。


「あと……ん~、何だろ、この違和感……いや、もうこれ以上はここで話していてもラチが明きませんね。今夜にでも現場調査に行きましょう」


「おお、そうしてくれるか。うむ、現場を見れば何か映像にない発見もあるかもしれんからな」


「じゃあ、その現場調査のために先輩に借りてきてもらいたいものがあるんですが……」


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