俺だけ持ってるゴースト特攻!?〜現実で幽霊倒してたら、ゲームにもゴーストバスター扱いされちゃいました〜
※連載前提の短編です。皆様の屈託のないご意見感想欄よりお待ちしております。
※このまま連載に持っていくかはまだわかりません。
「うおああああああ! なんで今日はこんな数が多いんだよ!」
ドドドドドドド、と地響きが鳴る。だが、この地響きが聞こえているのは俺だけだろう。
俺は今、幽霊の大群に追いかけられている。そんな非科学的なもの、本当はいない方がいいのだが、家業の問題で見えてしまう、祓えてしまうのだから、それはしょうがない。
俺、本堂新多は由緒正しき最強退魔師ではあるが、本業は高校生なため、夏休みなど長期休みの間だけ、親父に駆り出されて日本全国で発生している霊障を解決すべく、日々あくせく働いているというわけだ。
……まるで奴隷だが、夏休み冬休み春休みしか活動していないのだからと、親父に無理難題を押し付けられ、今日も幽霊の大群に立ち向かっている。
「おおおっ!? やめろ寄って来るんじゃねえ! さっさと成仏しろや!」
ドゴォ! と素手で先頭の幽霊を殴りつけると、転けた先頭の幽霊に巻き込まれ、後続が引っかかって将棋倒しに雪崩落ちる。
幽霊なんだから透けて避けろや! と昔は思ったものだが、もう慣れてしまった。半透明なことと日本式の格好以外は、洋画で見るゾンビと変わらない。最初にゾンビ映画をあの形に落とし込んだやつは、確実に幽霊かなんかが見えてる。
そんなこんなで、俺の高校2年時の貴重な夏休みは、幽霊退治で泡のように消えていったのだ……。
☆
そして迎えた9月1日、夏休み明けの2学期が始まったのだが、なにやら教室内がザワ付いている。
正直白状すると、俺は流行に疎い。特に夏休みなど、夜は幽霊退治、昼は移動と睡眠で潰れ、なにが流行ってるかなどまったくわからない。特にファッションがわからない。なので制服は助かっているわけだが……とにかく今日はなにか教室の空気が、異質だ。
「おー、アラタじゃん! いやーアラタは夏休みの間にあんなことがあったのにまったく変わってなくて安心するよー! いつも通りガラは悪いけど」
「いつも言ってるだろうが、俺の金髪は地毛だ」
「日本人の顔立ちしててよく言うよ。なんで母親の遺伝が髪の毛にだけ出るの?」
「知らん!」
コイツ、宮本晴香が絡んでくる時は大抵なにかあった時だ。基本コイツは俺のことをバカにしてくる。意味がわからない。今日だってそうだ。自分だってギャルのくせに、髪の毛を明るい茶髪に染めてるくせに俺の金髪を茶化すのだ。
そんなことを考えていると、前の席に座っていた友達の九鬼大雅が話に加わってきた。
「しっかし、本当に新多は流行に疎いな。その分だとなんでこんなにざわざわしてるのかわからないんだろ?」
「あ、ああ、まったくわからん。なにが起きてるんだ……?」
「ゲームが発売されたんだよ! VRMMORPG!」
「はぁ? ゲーム? そんなもん別に一般的じゃないだろ。クラスでもお前とか、あとは数人くらいじゃねえのか、VRMMORPGやる環境揃ってるやつなんて。しかもゲーム自体やってるやつがそんな多くなかったろ」
「それが、そうじゃなくなったのよ。あのさ、例えばユイ見てなにか感じない?」
宮本がなにか、含ませるような発言をしながら俺を煽る。
「七瀬ぇ? あいつはもともとクラスでも明るいし中心人物だったじゃねーか。だいたい宮本だって仲良くしてるだろ」
「そうだけどさ、そういうことじゃなくて。まあ見てりゃわかるって」
そう言われたので、クラス内、別の場所で談笑していた七瀬を凝視する。すると気づかれたのか、七瀬結衣がこちらに顔を向けちょっと恥ずかしそうにする。
そりゃこんだけ見られてたらそんな反応するわと思いながら、言われた手前目をそらしたら負けた気がするので凝視をやめない。すると、七瀬は顔を少し赤くして、スッと伏せてしまった。勝った! しかし、その伏せる動作が、なにか……。
「なんか、動きが1学期より上品になってねーか?」
「うわ、新多よく気づいたね! まさか……変態?」
「お前なぁ、お前が見ろって言うから見たんだぞ?」
「でもまさか本当に気づくとは思わなかった。人間観察の才能あんじゃない?」
「才能? ま、そんなもんが簡単にわかればいいけどな」
「……それが、簡単にわかるって言ったらどうする?」
大雅がなにかヤバイことを言い出す。大丈夫かこいつ?
「なにバカなこと言ってんだよ。そんなもんわかるんだったら全員何かしらで一流になってるだろ」
「それがね、わかるんだよ。そこで出てくるのが、さっき言ったこのVRMMORPG『Ingenium Inventio Online』、通称IIOってやつさ!」
なにかをトチ狂ったのか、大雅はゲームソフトをカバンから取り出す。才能がわかる? いや、それよりも俺は言いたいことがあった。
「おい、ここ学校だぞ。なに持ってきてんだ!」
「新多ってヘンなトコで真面目だよね」
「まあ、それが新多のいいところなんだけど。とにかく、これ、あげるよ。どうせ知らないだろうと思ってたから、新多だけ置いていかれたら可哀想だと思って」
大雅は当たり前のようにそのゲームソフトを渡してくる。羨ましいほどに大雅の家は金持ちで、自分でも何かで稼いでいるらしいと聞いたことがあるから、これくらい痛くもかゆくもないのだろう。ただ俺にはまだ問題があった。
「ゲームソフトもらってもVRギア持ってないからできねえぞ、俺」
すると、大雅がニヤニヤしだした。
「大丈夫! もう大雅の家の寺に送ってあるから!」
「ハァ!? さすがにそこまで高いもんもらえねえって!」
「IIO出した会社がさ、ギアも最新型の安いやつ出したんだよ。ちょっと幅とるけど、新多の家広いから大丈夫だと思って」
「は、はぁ……それでも高いもんは高いだろ……俺なんも返せねえよ」
「あれ? 新多って親の手伝いで夏休み中忙しかったんじゃなかったっけ? いくらかもらったんじゃないの?」
「あーねえよそんなの。無給だ無給。毎月の小遣いだけでこき使われてんだ」
「えーひどーい……卒塔婆とか書くの結構重労働なんじゃ」
「一介の高校生がそんなことできるわけねえだろ、バチ当たるっての」
「でも、本当にひどいね。高校生なんだから普通にバイトした方が稼げるよ」
「まあな」
こいつらには、本来の俺の仕事を秘密にしている。今時幽霊が見えて祓えるなんて時代遅れだからだ。言ったところで見える人間すらいないのだから、証明できないのだ。
「ま、とにかく、もうすでに送っちゃったから! 一緒にやろうよ」
「まあいいけど。もらった以上はやってみるよ。でも、才能がわかるってマジかよ?」
「そうだよ。IIO対応の最新VRギアで、脳波とか遺伝子とか、まあいろいろ見てその人が持ってる才能がわかるんだ。実はこれは副次的な効果なんだけどね。本来は、その才能を元にゲーム内のキャラクターをビルドするってのが目的らしいけど」
「はぁ、それでなんで七瀬の上品さが関連してくるんだよ?」
「もー新多カン悪いわね。七瀬もこのゲームやったからに決まってんでしょ。『礼儀作法』『ピアノ』『剣術』の才能があったらしいわよ」
他にもあったらしいけど教えてくれなかった、と宮本が付け足しつつ七瀬を見る。
「はぁ、だからあの上品さか。才能がわかっただけで変わるもんかね?」
「自覚があるないって結構大きいと思うわ。実際ウチも大雅も面白い才能あったし」
「どんな才能だよ?」
「んふふ、秘密」
「もったいぶりやがって」
宮本が、七瀬の才能を暴露しておきながら自分の才能を隠す。なにを考えているかわからない。だいたい、才能がわかる? いやいや万に一つそれがあるとして、ゲームが流行る理由にはならない。
「だいたいそれならわかった段階でゲームが苦手なやつは辞めるだろ。そんな流行ってないんじゃないか?」
「多分、新多以外全員やってると思うよ」
「……いやいや、ないない。今日日大流行りしても全員はない」
「本人がやる気なくても親がやらせる場合もあるし」
「親がぁ?」
「だって子供の才能がわかるのよ? そりゃやらせるでしょ」
「だとしてもわかった段階でやめるだろって。全員ゲームうまいわけじゃない」
「そこがこのIIOの面白いところでね。現実に比べてゲーム内での方が才能が伸びるらしいんだ。睡眠学習みたいなものかな」
「うわぁ、なんだそれなんかめちゃめちゃ怖ぇ……」
俺は、その話を聞いてオカルトの類じゃないかと怪訝な顔した。どうやったら人の才能がわかる?
「ま、安全性は確認されてるし、世界中で流行ってるからやっといた方がいいよ。ゲーム自体もめちゃめちゃ面白いからみんな辞めないんだ」
「そんなもんかねえ……」
「そんなもんよ、現実なんて」
宮本がなにか達観したようなことを言う。俺はイマイチ納得していないが、大事な友達に勧められて、しかもゲーム自体を奢られてやらないと言うことはできず、家に帰って起動する約束をした。チュートリアル終わったら教えろと言われたので、とりあえずそこまではやるつもりだ。
結局学校は、始業式以外はそのゲームの話題で持ちきりで、出遅れた俺は若干の疎外感を感じながら昼過ぎに帰路へついた。
☆
『基本的に才能は最低でも2つ、あるらしいよ。多い人は10個とかあるんだって。何にでもなれるね、そんなにあったら迷っちゃうよ』
そんなことを大雅が言ってたのを思い出しながら、VRギアを部屋に置く。2つのうち一つが戦闘の才能固定らしい。そういうところは、ゲームらしいなと思う。
「うわぁ、こんなのほとんどベッドじゃねえか」
正直かなり大きい。というかマジで送られてるとは思わなかった。さっき値段を調べたが、普通に15万くらいした。そんなものをポンッとプレゼントしてくる大雅に少し恐怖を覚えながら初期設定を済ます。昔読んだバトル漫画に出てくる回復ポットみてえだなと思いつつ、もらったゲームをセットして、そのベッドに寝転び、目を瞑り、ゲームをスタートさせた。
フォン、とゲームらしき機械音がして、そして次に目が開けた時は、真っ白の空間が広がっていた。目の前にはなにやら10cmくらいの、デフォルメされた半透明の魚が浮いている。
『いらっしゃい! IIOの世界へようこそ! 君は……ふむふむ、初めましてだね。僕の名前はワカシ。この空間のナビゲーターさ』
どうやら、チュートリアルのナビゲーターらしい。だいたいなんでナビゲーターが魚? もっと、こう、あっただろ。なにかの神様とか。職業柄マジで出てきたら困るけどさ。
『初めましてだから、このゲームの説明をするね。このゲームでは、それぞれの才能を伸ばしながら、世界に君臨する悪の帝王を探し出して討伐するのが目的のゲームだよ!』
なんだ、ゲーム内容は普通なんだな。魔王討伐。あるあるだ。他のゲームとの差別化になってるのか? 本当に楽しいのか? などと考えていると、ワカシが目に見えて怒り出す。
『失礼な! そういうことはやってから言ってくれるかな!?』
「うわ! 人の思考読めんのかよ!?」
『頭で考えていることは筒抜けさ。VRMMORPGってそういうもの』
「ああ、そうかよ。で、才能とやらがわかるのは本当か?」
『うん、わかるよ。でもその前に、キャラクター設定を済ませてね。才能がわかるのは最後。その才能をつかって、この世界を生き抜いていくのが目的になるよ』
「ああ、そうかよ」
どうやら才能がわかるのは最後のようなので、パパパッとキャラクター設定を済ます。
まあ、才能以前の問題だがずっと素手で戦ってきたので、基本的に武器はいらないだろう。
髪の色とかも目立つけど特に変えなくてもいいかな。
なんだ、特に設定する項目ないじゃないか。名前は……アラタでいいか。
設定終わり。ワカシに目線を向ける。
『あれ? ほとんど現実の格好と変えないんだね』
「文句あるか?」
『ないよー、それじゃあキャラクター設定中にスキャンした、君の才能を発表します! その才能からスキルが作られて、ゲーム内で活用できるようになるよ! じゃあ、頑張って才能を伸ばして悪の帝王を倒してね! いってらっしゃ〜い!』
そう言うと、半透明の魚はすーっと消えていく。こいつ魚とかじゃなくて幽霊の類だったんじゃないか? 一発殴っておくべきだったかと俺は考えたが、その時頭の中にピコン、という音が響き渡る。どうやらステータスが開く時の音のようだ。
「おっ、これが俺のステータスか、どれどれ、俺はどんな才能持ってんだ?」
俺はそのまま才能、の欄が出るまでステータスをスクロールする。するとそこには。
ー
才能:『幽霊退治』
ー
「は?」
思わず困惑し、口に出してしまう。え、他の才能は? 幽霊退治ができるのは今更なんだ。最低2個あるんだろ? まだあるだろ?
しかし、いくら探しても幽霊退治以外の才能がない。そして、その下には。
ー
ユニークスキル:ゴースト特攻
ゴースト属性のモンスターに対して絶大な攻撃力を持つ
一方で、ゴースト属性以外のモンスターに対するダメージがゼロになる
このスキルはパッシブスキルのため、オフにすることができない
ー
「はぁ!?」
そんな文言を見て衝撃を受けると同時に、白い空間の床がガラガラと崩れ出す。
「おいおいおい待て待て待て! こんなの信じちゃいないが俺の才能って幽霊退治だけ!? 他には!? というかゲームでも幽霊しか相手にできないのヤバイだろ!」
待て、と言っても崩れる床は待ってくれない。
「ちょ、ちょ、ワカシ出てこい! どうなってんだ!! どうなってんだよぉぉぉぉぉ!」
崩れた床に飲み込まれ、俺は、IIOの世界へ放り出される。
「幽霊しか相手にできなくて、どうやって戦うってんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
俺のVRMMORPGライフは、まだ始まったばかりだ。
連載するに当たりさらにクオリティをあげたいので、思ったことを是非是非感想欄よりおブチ込みいただけますと幸いです。
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