怪しい二人組
『はぁ───なぁグリムさんよぉ、お家飛び出してからどんくらいたった?』
「知らねぇよ、三十数回は日が登ったんじゃねーか?余計な体力を使わせんなよファル」。
ヒシヒシと照りつける日光、空気が熱で歪曲し、辺りが歪んで見える。
干乾びた死の世界、そんな空間にポツンと二人、いや───一人の男と一匹の珍生物が道を進む。
『ざっけんなじゃねぇヨ、あのヤロウ!!村一つねぇじゃねぇか!!』
「喚くなよォォ喉乾くだろうがよぉぉ」。
そうグリム・エルトダウンとファルチェである。
食料は家を出てたった3日で底をついた。見立てが甘かったのかそれ以外の理由かはこの際追求するのはよそう。
一度家に引き返そうか迷っていると絶妙なタイミングで獣に襲われる。
襲って来た獣を狩っては食べ、狩っては食べを繰り返した。そうやって今の今まで喰い繋いで来たのだ。
それなのにどうだろう、足を進めるに連れて襲われる回数は少なくなり、遂には保存して置いた肉も3日前に尽きてしまった。
空腹と喉の乾きにイライラして地団駄を踏む、こうしてまた無駄な体力を消費した。
「おい、見ろよファル、オアシスだ」。
『あ?何言ってんだ、そんなもん何処にも…』。
「……あ、これ水じゃねぇ、全部スンドゥブだ」
そう言って突然、砂漠の砂を食べ始める。
『おい、遂に頭おかしくなったのか、だから言ったじゃンッ!!あんなカラフルなサソリ食うなって言ったじゃンッ!!』。
「ふっしゅぅぅぅ!!ペッ、ふっしゅぅぅ!!ペッ………ふっしゅぅぅッ!!!ペッ」。
『何だよそれ、やめろよ何だよそれッ!!』
奇っ怪な行動を取り始めたかと思ったらグリムは直ぐに、そのまま崩れ落ちた様にその場に倒れ込んだ。
2日程前、余りの空腹にうなされたグリムは足元を通り過ぎたサソリ、個体名〈ヴェラドンナ・ポイズネス・スコルピオ〉を食した。
その毒針に触れた人間は幻覚症状に襲われ、ものの3分で死に至るという。
砂塵舞う荒野にグリムは一人だらし無く突っ伏した。
───そんな彼に忍び寄る2つの影、頭にターバンを巻いた大柄な男と血色の悪い男どちらも腰にサーベルを巻きつけている。
「にいやんにいやん、ガキが倒れてるど」。
「あぁん?何だぁ?なんでこんな所にガキが居るんだよ…………金目のもンは?」。
「ん〜、見た所持ってないど、ボロっちいコンパスと……これは…本っちゃ?」。
グリムの懐から取り出したのはボロボロになった一冊の本だ。本体はアッシュブラックの絹糸で丁寧かつ繊細に縫られ四方を金色の蝶番で彩色されている。しかし金具には錆が周り本体も酷く傷んでいて紙をめくろうとすれば直ぐに崩れ落ちるだろう。
「ね、ねく【|Necronomicon】だって」。
かろうじて読める本のタイトルに一切の聞き覚えは無い。
大柄の男が興味深そうに本を探る中、やせ細ったもう片方の男はグリムの顔をまじまじと見つめる。
「よしゴロ、このガキ担げ」。
「え、にぃやんこのガキ、アジトに連れてくど?」。
「あぁ、中々整った顔してやがる、マニアには売れんだろ」。
大柄の男──ゴロがグリムを担ぐ。
「それよりもこっちだ、これはとんだ掘り出し物かもしれねぇ」。
男は悪そうに笑った。