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死神グリムは旅に出る。  作者: K・B
大型機空挺【エィリィレヴン】
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私は誰

地上4000メートル、雲を裂き空を掛ける大型機空艇【エィリィレヴン】。


【オケアノス大陸】が北西、位置にして【ワグナス砂漠】中央。ただひたすらに何も無い砂の迷宮。辺りにその無を遮る物は唯の一つも無く、何処を見回しても地平線がみえる。


そんな砂漠の遙か上空、密かに金持ち達のオークションが開催されていた。


王国警備隊の目の届かない場所で開催される様なオークション、有名な画家の遺作や呪いの魔具、一般では流通されることの無い法など度外視した商品の数々、時には人や魔獣なんかも出展されたりする。俗に闇オークションと呼ばれるものだ。


観客達は、奇妙な面を被りグラス片手にショーを楽しむ。


月に一度の頻度で行われるこのオークション、しかし今日のショーは前例を見ない程の盛り上がりを見せた。


その訳と言うのも事前に告知された商品の中に権力者達がこぞって欲しがるあるものが出展予定であった事が主であろう。


《精霊》───草木、動物、人、無生物、人工物などひとつひとつに宿っていると信じられている超自然的な存在。


今回出展されたのは世にも珍しい、《眼に見える精霊》である。


目視出来る精霊──それは伝説上の生き物であった。


文献によると過去に一度だけその存在が確認された事があるという。


500年前【初代剣帝】エルディ・ロードテイルによって使役されたとされる剣の精霊。


錆びた剣でも同化すると忽ちそれは王剣へと変貌し空を割り竜を落とす。


事実、彼が一度宿ったとされる剣は【剣帝】の家系で代々受け継がれ【現剣帝】バゼット・ロードテイルの扱う王剣エクスキャリバーとして今も名を連ねていた。


そんな常軌を逸した代物だ、誰しもが欲しがり、またその姿を拝もうと馳せ参じても不思議では無い。


趣味の悪いワインレッドの絨毯と薄暗い空間、彼等は皆、今宵のオークションの開催を待ち望む。

───ここは何処だろう。


暗い暗い檻の中、鎖に繋がれた少女は凍える掌に白息をはいた。


私は自分が誰でここが何処なのかを知らない。


檻の隅で少女はパサパサの古い腐りかけのパンを齧った。


売り物として、血色を良くする為に配給された干し肉、これが私の最後の晩餐となるのだろう。


────どうせ意味無いのに。


諦めたように呟いた。


透き通った透明感のある白肌にぼやっと眠そうな三白眼、琥珀色の瞳が印象的だ。永年の牢屋生活でろくに手入れのされて無い銀髪はボサっと乱れており、石ナイフで散髪したせいか毛先があまりにも不揃いだ。


少女の名はルピシア。名と言うのも酒に酔った監守の悪意によって忌嫌われる〈冒涜の始祖〉の名をつけられた。少女はそんな事知る訳もなくその名を名乗る。


まだ私が小さかった頃、私の家族は放火にあって全員死んだ。

生き残った私は父方親戚であるおばさんに引き取られる。

おばさんは私の事を『呪いの子』と呼び、気味悪がって奴隷商に売り飛ばした。檻馬車の中から見えた安堵の表情は今でも脳裏に焼き付いている。


連れ回されては同じ場所に戻されて今回で三回目、次で買い手がつかなければ私は処分されるらしい。


『───はぁ、参っちゃうよ、上位精霊である僕を下等な人間がこんな所に閉じ込めるなんて』。


暗闇の中何処からか甲高い溜め息が聞こえる。


「………誰かいるの?」。


『わぁ、びっくりした、なんだいキミ』。


「………奴隷、あなたは?」。


『聞いて驚くなよ───』。


ポアっと辺りを温かい光が照らす。光源の先には偉そうにふんぞりかえるフードを被ったような珍生物がいた。


『ボクは上位精霊、カーディナルス・セクスタ・インメロウ・ハルバード・ソリティア=ノクタス・ウィーン……』。


「そうなのね」。


『失敬だなぁ、ボクは偉大なんだぞ最後までちゃんと聞け』。


「私、妖精さんと話してみたかったの、いつも観ているだけだったから」。


『キミ不思議な事言うんだね、僕程の上位精霊でも無い限り精霊はヒトなんかに目視する事さえ出来ないと思うんだけど』。


「そんな事無いわ、ほら、丁度そこのパンにだってほわほわとしたのがついてる」。


と、つい先程まで食べていた固いパンを指差す。


「うん───それカビじゃない?」。


3テンポ程間が開いて、パンの方を振り向いた後、俯向きながら無表情で


「あぁ……そうなの」。


呟いた。


『…ク…クフッ……アッハッハッハ、カビ…カビって……しかも『そうなの』って……クックック面白過ぎ、お腹、お腹痛い。』。


「私って面白いのね」。


しばらくの間、笑いコケた精霊は笑い疲れた様に落ち着きを取り戻した。


『どうして君みたいなのがこんな所に居るのさ』。


そんな事、私が聞きたいぐらいだ


「おばさんに売られたの、呪いの子だって」。


『呪いの子?』。


精霊は少女の顔をまじまじと見つめる。


『あぁ!!ナルホドね、何処かで見た事あると思ったんだ。うんうん確かに彼女にそっくりだ』


一人で分かった様に頷く精霊に少女は少しムッとする。


『あぁ、ゴメンゴメン、キミはね〈冒涜の始祖〉と呼ばれる史上最悪の魔法使いと出で立ちが酷似しているんだ』


〈冒涜の始祖〉───名前を呼ぶのも恐れられる原初の黒魔導士にして全ての魔獣の母。500年前の聖戦にて世界の半分を暗黒領域へと変えた。その姿は琥珀色の眼を持つ銀髪の少女だという。


『キミ、名前は何て言うの?』。


「名前、名前は分からないの、家が燃えちゃった時に全部忘れてしまって監視役のおじさんはルピシアって」。


『ハッハッハ……それは頓智が効いてるというかユニークというか、ちっとも面白く無い』。


「看守のおじさんは面白く無いのね」。


偶然と言うのは見方を変えればそれは必然であり、又言い方を変えれば運命……か、つまり僕がここで彼女と出会ったのも必然的な運命…。


うん、この船を落とすなんかよりも彼女といた方がずっと面白そうだ。


『これも何かの縁だ、ルピシア、僕がキミを助けてあげるよ』。


少女は俯く。私を捨てたおばさんの怯えた眼、私を観た人は皆んな気味が悪そうに、化け物でも見るかの様な眼を向けた。叩かれて叩かれて、でも何処か怯えてるようで……分からなかった、何も……何も分からなかった。きっとこの妖精さんに言えば本当に私を助けてくれる。

だけど……


「ありがとう、でも良いの、私疲れちゃった。きっとこの先、生きてても良いことなんか無い、ずっと孤独なの。どうして皆が私をあんな眼で見るのか最後に分かって良かった、私は死にたい」。


涙を浮かべて、だけど妖精さんを困らせまいと、悲しそうに微笑んだ。


「………そう」。


帰ってきたのはそれだけの淡白な返事


フードに顔が隠れて分からない。だけどその時、確かにその精霊がニヤけるのを感じた。

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