セブ島でのエピソード
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ある男と二人でセブへダイビングに行った
色気のねぇ話だが当時彼女がいなかったのでしょうがねぇ
マクタンのフィリピンドリームというホテルに滞在した
そこは船上のホテルで 日本の青函連絡船の何とか丸が廃船になったのを持って来てホテルに改造して客を集めてるとのこと
部屋はもともと船室なので広くはないが 清潔そうでユニットバス・応接セットもある
ホールではパブがオープンしてて バンドが入って美人歌手がジャズ・シャンソンなどを歌っている
毎晩そこで飲んでても飽きるので 同伴の男と外へ出ることにした
マクタン・ラプラプ市のショッピングモールなど回って見て タクシーでホテルへ帰ることになった
フィリピンの客待ちタクシーはメーターと運賃交渉の二種類がある
俺たちが乗ったのは白タクくさい交渉型
運転手はチンピラのようなヘラヘラした男で 非常に感じ悪い
俺たちが日本人と判ると来る時の倍の料金を吹っかけて来やがった
もう眠たいし談判するのも面倒なのでOKして乗り込んだ
この男ホテル名を言ってもぜんぜん聞かない 一人でまくし立ててる
「シャッチョサン カワイコイル ワタシ ツレテク オーケーナ?」
だめだ ホテルへ行け と言っても聞かない
勝手に知らない夜の道をどんどん進む
ここで 同伴の男がキレた
やおら運ちゃんの襟首をつかみ上へ吊り上げた
フィリピンのタクシーは運転が荒いので有名
その時も80キロは出てたな
急ブレーキで止まったが 危うく対向車と正面衝突するところ
俺の連れは車が止まっても運転手の髪をつかんでポカポカぶん殴ってる
俺は必死で止めに入った
今回一緒に来たこの男 俺より10歳ばかり年下で伊豆の海で知り合ったのだが 筋肉マンで自称極真空手二段 飲むと少し癖が悪い
運転手が路上へ転げ出ると追っかけてって蹴りまくってる
周囲をみるとホコリっぽいスラム街の大通り
大勢の人だかりが出来てきた
この運転手にも仲間がいるだろう
フィリピンはアメリカほどじゃないが銃が比較的簡単に手に入る
ローカルマフィアなどに蜂の巣にされるのは ぞっとしねぇ
連れの男は運転手を殴りながら俺に
「先輩 コイツのしちゃっていいスか?」と聞く
だめに決まってるだろっ
こんな南の果てで傷害・致死なんぞの巻き添えでブタ箱に入るなんてまっぴらだい
熱帯の貧国のムショにゃどうせクーラーもねぇだろうし メシだって蝿がタカったような臭せぇ飯だろうよ
おいらなんか下痢して三日で死んじまわあ
俺は力をふりしぼって懸命に止めた
野郎やっと我に返って 呆然と肩で息をついてる
こう云う場合 現場でうろついてると非常にヤバイ
ふたり一目散に逃げ出して 裏通りで別のタクシーを拾いやっとの思いでフィリピンドリームに戻って来た
それから二~三日の間 いつポリが来るかとヒヤヒヤして過ごした
ダイビングどころの騒ぎかよ ったく
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