突撃訪問
いろんな官職が出てきます。あとがきを参照してお読みください。
左大臣の後を追い、浦風も大急ぎで右大臣邸へと向かう。
また、道中で橋立と合流する。
「つ、椿の君は大丈夫なのかな、兄者?」
開口一番は、やはり右大臣の娘である恋人の心配だった。
「東宮様と右大臣様が重傷だとは聞いたが、それ以外はまだ分からん。とにかく急がなければ!」
一応冷静さを保っている浦風だが、内心はすごく焦っている。
これが、黒牡丹の仕業だとしたら、この国はただでは済まなくなるからだ。
(世代交代って、今の有力者を排除していくということか? それは、人間としてどうなのさ?)
正直、いくら自分の願いを叶えるためとはいえ体が拒否反応を示そうとしている。
ただ、事態の変化を喜んでいる自分もいるのだ。
それでも、右大臣と東宮に危害を加えることには賛成しかねない。
彼らが現在進もうとしている結婚に同意してるとしても、前提として浦風の考える結婚は知ってもいないのだ。
そして、物わかりのいい右大臣なら話す機会さえあれば納得してくれると浦風は考えている。
これでは、まるで八つ当たりではないか。
(一度、彼女と話をする必要があるな)
浦風は、そう心に決めたのだった。
右大臣邸の前には、やはり野次馬でいっぱいだった。
浦風と橋立は、かなりの時間がかかって、最前列へと移動する。
「椿の君!!!」
群衆を抜け出すや否や、大声で恋人を探す橋立。
逆に、よく今まで叫ばなかったくらいである。
「姫様方は、今、宮中に避難しております」
群衆の前にいるのは、何人かの防人。おそらく、こう言うよう誰かから命じられたのであろう。
まあ、これがただの噂に恋している一般人ならこれが正解の対応なのだが......
「ご協力、感謝いたす!!!」
橋立は、そのまま野次馬の中へと戻っていく。宮中に向かうのだろう。
その勢いに、一部の人がさっと道を譲る。それだけの殺気を放つのは、橋立の人生の中でもほぼないだろう。
その空いた道をちゃっかり通る浦風。
橋立が暴走しすぎないよう、後を追わなければならないのだった。
と、そのまま宮中を走り回り右大臣の姫君のいる建物を見つけ出した橋立と浦風。
そのまま入ろうとするが、
「右衛門大尉の命により、ここは通れません!」
先ほどよりは、しっかりとした防人が進路に立ちふさがる。
どうやら、警備に衛門府が駆り出されているらしい。
(ま、それが俺たちの仕事だしな)
久々に仕事に精を出している防人を見て、何となくうれしくなる近衛府の右中将浦風。ただ、今はそれどころではないのだ。
「蔵人少将により命ずる、今すぐここを通せ!!!」
大声で命令する橋立。そう、彼は近衛府の左少将。右衛門大尉よりもに当たる人物だ。
「ど、どぞ」
あっさり引き下がる防人。まあ、無理もない。
そして、少し行くとまた防人。
「左衛門佐の命で、ここは通れません!!」
今度は筋肉質な男だ。力づくでは無理だろう。
「あ、兄者。僕では官位にほとんど差がありません。お願いします」
橋立に頼まれる浦風。仕方ないとため息をつく。
「右中将により命じる。急用だ、ここを通してほしい」
近衛中将は、衛門佐より上である。
「お勤め、ご苦労様です!」
礼儀正しく道を開ける防人。見上げた者もいたものだ。
そのままさらに奥へと進む。はい、また防人。
「右衛門守の命により、ここは立ち入り禁止です!!!」
今度は、三人がかりだ。
「どうする、橋立?」
浦風は問う。右中将と右衛門守は同じ位なのだ。
「仕方ありません、最終手段を使います」
そう言って、懐から一筆箋を取り出す橋立。
数秒もたたないうちに、さらさらと歌を詠み始める。
さすが勅撰集選者筆頭候補、速攻で恋人に会いたいという気持ちをきれいに仕上げる。
「うう......どうぞ」
歌に感動した防人は、浦風と橋立に通路を確保する防人たち。身分違えど、感受性は同じである。
こうして、右大臣の姫君のところにたどり着いた浦風と橋立。
扉越しに、姫たちと作戦会議を始めようとしていた。
参考資料として、今回出てきた人の官位をまとめておきます。
近衛府 衛門府
従四位下 右中将(浦風) 右衛門守(建物内で最後の防人に命じた人)
正五位上
正五位下 左少将(橋立)
従五位上 左衛門佐(建物内で二番目の防人に命じた人)
従五位下
正六位上
正六位下
従六位上 右衛門大尉(建物内で最初の防人に命じた人)
ちなみに、防人は農民から選ばれる雑用兵みたいなものです。よって、貴族からすれば、とても卑しい身分の人ということになります。
里見レイ




