ある女からの提案
謎の幼女に案内されるがまま、浦風は寺の中を進んでいく。
廊下には、人影は一切なく、誰かがいたような形跡もない。
(まさか、この子の言う「あるじ」って人間じゃないとか......)
あまりにも、いろいろなものが怪しいので、トンデモナイ発想をしてしまう浦風。ごくりと唾を飲む。
「つきました」
と、ここで案内の幼女が立ち止まる。目の前には大きな扉。
「では、わたしはここで。おかえりのときに、またきます」
と、幼女、浦風の返事を待たずに、足音を一切たてずに走っていき、そのまま曲がり角を曲がってった。
「......なんなんだ、あの子?」
質問したいことは山ほどあるが、それしか口には出せなかった。
さて、この大きな扉。見るからに怪しさしかない装飾が施されている。
ただ、ここに案内されたからには、ここに呼び主がいるのだろう。
「さて......ごめんくださーい! 私、右中将の浦風と申します。入ってもよろしいでしょうかー?」
いきなり扉を開けて入るのは失礼だと思い、まずは外から声をかける。
「お入りください。お待ちしておりました、浦風様」
中から、艶っぽい女性の声がする。
許可を得たので、扉に手をかける浦風。見た目の割に、非常に動かしやすい扉だった。
「ようこそ、次なる国家の一翼となるお方よ」
扉を開けた先には、先ほどの幼女と同じような衣装の女性が、整然と立っていた。
「私は、都合により素性は明かせませんが、どうぞ、『黒牡丹』とお呼びください。卑しき身分の私ですが、浦風様のお役に立てると自負しておりますゆえ、勝手ながら、夢を通じてここにご招待した次第でございます」
深々と礼をする謎の女、黒牡丹。本人は、身分が低いと言っていたが、仕草は非常に洗練されている。
「協力をすると言っていたようですが、あなたは私の望みをご存じなのですか?」
もしかしたら、出まかせを言っているかもしれないと思った浦風、確認作業に入る。
「ええ、もちろん。なんなら、申しましょうか?」
「......頼みます」
正直、あまり言ってほしくはないが、目的のためお願いする浦風。
「あなた様と女四宮様、三宮様と妹君の桜様、弁中将様ともう一人の妹君の紅葉様、そして、従弟の橋立様と椿様のご縁談を全て成立させること、ですよね?」
「......はい、合ってます」
恥ずかしいが、否定してはいけないので彼は肯定の返事をする。
「そして、その障害となっているのが左大臣様と帝、ですよね?」
「そこまで知っていましたか......」
もはや、付け足しの必要はないようだ。
「で、この実現不可能なこの縁談をどうやって成立させようというのです?」
話が分かると考え、本題に入る浦風。
「ふふ、簡単なことですよ......」
そう言って、浦風の耳元にそっと近づく黒牡丹。
「ずばり、三宮様をご即位させるのです......」
浦風は、自分のの背後の冷気が、少し強まった気がした。
謎の人物、黒牡丹。敵か味方かまだ秘密です。
里見レイ




