対面
こうして、長い夜を終えた浦風。布団にもぐるとすぐに眠りにつくことができ、次の日の睡眠不足はほとんどなかった。
日中の仕事も滞りなく終わり、今日も元気に残業なし。
近衛府を後にして、とりあえず宮中をうろうろする浦風。こうしていれば、向こうのほうから声をかけてくることが多いのだ。
しかし。
「おかしいな? 今日は探しても探しても見つからないぞ......」
探しているのは権中納言、頼みたいことがあるのだが、今回はうまくいってない。
「おや浦風殿、どうされました?」
ここにきて、後ろからひょこっと現れたのはお目当ての権中納言......の父の左大臣。登場の仕方は息子そっくりである。
「これは、左大臣様。実はご子息の権中納言殿を探しているのですが......」
彼なら知っているだろうと思い、尋ねてみる浦風。
「ああ。そういえば、今日は会議以来一度も見かけておりませんなあ。会議が終わるや、すぐにどっかに行ってしまって」
なんと、権中納言はもう帰ってしまったのだろうか。口癖のように「妻より宮中。実家より宮中」と言っている権中納言にしてはなかなか珍しいことである。
「ありがとうございます。では、宮中の外を探してみますので、私はこれにて」
貴重な情報に礼を言い、すぐに出口に向かう浦風。
「あ、浦風殿!」
そこを呼び止める左大臣。
「はい、何でございましょう?」
仕方なく足を止め、振り向く浦風。
「貴殿は、弁中将と妹君の縁談をどう思われます?」
突如、もう一人の息子の結婚話を持ち出す左大臣。
「どうって、本人たちが望んでいれば別によろしいのでは?」
この縁談を妨害している張本人が何を言うのかと思う浦風。とりあえず、一般論を述べる。
「はは、相変わらず合理的ですなあ」
笑い声を出す左大臣。しかし、目は笑っていない。
「しかしですな、この縁談がまとまると、貴殿の力が我が左大臣家の力添えにより大きくなる。ともなれば、貴殿が我らの権威を脅かす存在になるのは時間の問題になる」
どうやら、左大臣は浦風が力を持つのを望んでいないらしい。
「私が左大臣家を上回ることなどあり得ませぬ。買い被りです」
そんなこと、左大臣が死んでも不可能だろう。浦風は本気でそう考えている。彼が権中納言にかなうとは思っていないのだ。
「ま、貴殿がそう思うのも無理はない。しかしですな......」
そう言って、浦風に近寄る左大臣。
「貴様が我が息子と同格だということだけで私は虫唾が走るのだよ!」
浦風の耳元でそう力強く罵り、左大臣はそのまま去っていった。
(あなたが私と同世代の人間だったら、私はあなたに出世競争で負けることなどないでしょうけど!)
心の中でそう返事をする浦風。
左大臣は、摂関家の嫡流出身である。しかし、他に取り柄は一切ない、うぬぼれ貴族の典型でもある。
政治能力においても、彼は右大臣の足元にも及ばない。それを浦風は知っている。
(とにかく、権中納言殿と橋立と会議だ。俺の考える作戦に協力してくれれば、万事うまくいく)
そう思い、左大臣の言葉を脳内から消去する浦風。彼の力は琴の腕だけではないことは、こういう時に証明されるのだ。
左大臣の性格は、今後登場予定の娘、大君に色濃く受け継がれています。弁中将は、そこまででもありません。彼は、母似です。
里見レイ




