救いの手がかり
「......右大臣様は、なぜ俺を?」
橋立の縁談から、急に自分の縁談になり戸惑う浦風。
「おそらく、我らを完全に自陣営に取り込むためかと思います。我らも最近実力上げてますから」
そう答える橋立。
浦風の一族は、天皇家を中心に多くの人から可愛がられている。それが右大臣側についたなら、もはや敵対する左大臣家も圧倒するだろう。
「なるほど、完璧な政略だな。ちなみに、このことは左大臣家には?」
「知られていません。ばれたら宮中大騒ぎになるからだそうです」
橋立の噂は現代でいうトップアイドル並み。結婚話なんて聞いたら多くの女性が暴動を起こすだろう。
「ちなみに、三宮様も一枚噛んでいるそうです。実現したら、自分の縁談もまとめるという条件付きですが」
「三宮様まで......」
もはや感服としか言いようのない抜かりのなさに思わずため息の出る浦風。
この二つの縁談が実現し、さらに三宮と桜の縁談までまとまったとしたら、右大臣家・浦風一族・天皇家の結びつきは完全なものになる。おそらく、浦風一族から悲願の大臣が出るのも時間の問題だろう。
「一族のために受ければいいんじゃないのか? 俺たちには渡りに船だろ?」
恩人三宮まで関わっているなら、もはや私情を殺すべし、そう考え、賛同の意思を示す浦風。
「けど私は!それは嫌なんです!!!」
「!? なんで?」
突如反対意見を繰り出す橋立に、呆れを通り越した表情をする浦風。固めかけていた覚悟が一気に崩れ去る。
「だって、私は椿の君様と結婚したいんです!!!」
カミングアウト。二の句の継げない浦風。
「お、お前なあ......」
「縁談を持ちかけられる前から、僕たちは文のやり取りをしていました! この通り!!!」
懐から一枚の手紙を出す橋立。浦風、読んでみる。
手紙には、互いの深い愛情のこもった和歌が丁寧な字で書き記されていた。
日時を調べてみると、これは二年前のもの。この時点でこれだけ愛のこもったやり取りをしているのだから、二人の馴れ初めはさらに前だということになる。
「確かに、だいぶ前から相愛のようだな。右大臣様に言ったのか?」
「言おうとしたのですが、白菊の君様に妨害されました......」
半分涙目の橋立。ため息しか出ない浦風。
白菊の君とは、右大臣の長女。一体誰に似たのだろう、性格の悪さは天下一品で、政略結婚で左大臣の長男の権中納言の妻となっている。
「あ、そういや、権中納言殿に会ったかい? 右大臣邸に言ったと思うのだが」
ここまでくると、頼みの綱は浦風の理解者、権中納言である。
「会ってないですね。僕が右大臣邸行ったの遅かったからもので」
「......明日、お前が良ければこの話を権中納言殿に相談したい。あの方なら、白菊の君を止められるはずだ」
もし、橋立が椿の君と結婚することになれば、浦風と椿、橋立と女四宮の縁談はなくなる。
浦風にも、心に秘めた願いを、女四宮との結婚の夢を叶えられるかもしれないのだ。
そうなると、明日が浦風の勝負の日だ。
「ありがとうございます、兄者!」
半泣きになる橋立。歌人とは、やはり感受性が豊かだ。
「よーし! お前のためにもこの縁談は白紙にしてやる! 俺も一肌脱ぐとしよう!」
色々ありすぎて何か吹っ切れたのか、浦風が兄貴肌を開放する。
「兄者ー!」
「はっはっは!」
若干深夜テンションが入っているのか、二人は柄でもなく大声で盛り上ってしまった。
「......」
「......」
当然のことながら、この会話は部屋の外にまで漏れていた。
家人たちは家族団らんだと思い気にも留めなかったが、約二名は耳をそばだてていた。
どんどん行きます。展開は早めになりそうです。
里見レイ




