作戦は進み、俺達の番
メルとマールズ王が部屋の中央に作られた道をゆっくりと歩いていく。
その悠然とした態度からは焦りを感じない。
メルはというと、ベールによって顔を隠されているのでどのような表情をしているのか分からないが、どうも下を向いているようだ。
仲間達に確認する。
「メルじゃのう」
「メルです」
「メル」
リーシャ、ミア、コマチがあの花嫁衣裳を着ているのが、メルであると断定した。
どうも偽物ではないようだ。
集まった貴族達は拍手で迎えている。
俺は名誉貴族という設定なので、王の近くによることはできず、後ろの方から拍手をしていた。
俺の目の前を通り過ぎる時、ちらっとこちらをメルが見た気がする。
助けに来た。
心の中でそう言い、次のアクションを待つ。
宗太、日向、充の三人はうまく事を運んでくれていると信じている。
先ほどの振動がその証拠だろう。
そして、次はソルの番だ。
ソルはイールの話を伝えると、すぐにその役を買ってくれた。その出番がもうすぐ来ようとしていた。
「では、マールズ王から一言を貰いたいと思います」
宰相が拡声器の魔導具をマールズ王に渡す。
されを受け取ったマールズ王は満面の笑みで答えた。
「集まっていただき光栄だ。私は王になって初めて妻を娶ることになる、妻と共にこの国の繁栄に努めようと思う、それには、そう力が必要だ。俺は前王のように生温いことなどしない、我らエルフの力を全種族に見せつけようではないか!!」
その言葉には力があった。周りはその言葉を聞き、喝采を上げている。
異常なほどの熱気だ。
確かに彼にはこの国を良くしたいという気持ちがあるのかもしれない、だがやり方があまりにもよろしくない。だから、今回は俺達の手で止めさせてもらう。
マールズ王が拡声器の魔導具を宰相に渡そうとした瞬間、天井にぶら下げてあったシャンデリアの光が一斉に消えた。
「一体何事だ!!」
「真っ暗で何も見えん」
「くそ、誰がこんなことを」
場が騒然となる。
いきなり真っ暗となったのだ、多少なりとも混乱はするだろう。
ソルは役目を果たしてくれたらしい。
次は俺達の番だ。
王国兵達が走る音が聞こえる。
彼らの中には暗闇での戦闘も可能な者達もいることだろう、ここは急がなくては。
「あ、おい、やめろ。逃げるな、誰か入場口の方に怪しい奴がいたぞ」
とコマチがいつもとはかけ離れた男性の声を発する。
もちろん、そんな怪しい影なんて見ていない。
だが、これで少しでも兵士の数を削れたら上出来だ。
その声を聞いた兵士達が入場口の方向に正確に向かって行く。
そして、残った兵士はメルとマールズ王のところで護衛している。
「さあ、俺達の番だ」
暗闇の中、感覚に頼って進んでいく。
魔力を感じぶつからないようにマールズ王のところへ向かって行くのだ。
魔力を感じられるのは俺達だけではない。マールズ王も俺達が近づいていることが分かっているはずだ。
そして、どうもマールズ王を護衛している兵士も気づいたようだ。
「止まれ、お前達は何者だ」
止まれと言われて止まるやつなんていない。
俺達は全速力で駆け、まずは兵士達を蹴散らす。
イールの情報では兵士全員に配られている鎧は魔法の耐性が付いているので、物理攻撃をメインに戦った方がいいということだ。
俺はそのままの拳で兵士の腹を撃ち抜く。
ぼこっ、という音を鳴らして鎧が凹み、その拳は中の体まで突き刺さった。
大丈夫だ、俺の拳でも凹ませることができる。
リーシャは腕を龍の物に変え、ミアはクレイモアで叩き、コマチは後ろから抱き着きバックドロップを決めていた。
コマチの攻撃だけふざけているようにも見えるが、一人一人確実に戦闘不能にしていく。
暗闇からやられるのでたまったものではない。
「そこだよね」
魔法が飛んでくる。
風の玉だ。
危険を感じ、咄嗟に避けたために当たらなかった。
風の玉が当たった床は半円上に削れており、その恐ろしい威力が垣間見える。
暗闇の中で見えたマールズ王の顔は笑みだった。
「まだ、余裕ということか」
もう直接マールズ王に攻撃を加える。
が、風の障壁を張られ、殴った拳が血だらけとなってしまった。
ぽたぽた、と血が床に垂れる。
「君も僕の結婚式を祝いに来てくれたんだろ」
「そんな、訳ねぇだ、ろ」
次は剣に魔力を流しながら切りかかる。
が、やはり剣自体がずたぼろに切り裂かれてしまった。
まずい、このままでは俺達のせいでこの作戦が失敗してしまう。
メルを見る。メルは今も下を向いたままだった。
「ああ、彼女が気になるかい?さあ、こっちへおいで」
メルがゆっくりマールズ王の元へと向かって行く。
その様子はどこか人形じみていた。
あれはメルで間違いないはず、もしやメルは……。
「さあ、挨拶して。僕の可愛いメル」
「私は、メル。マールズ王の、妻」
「うーん、やっぱりこの魔法は改正の余地があるんじゃないかな?」
「そうですな」
王の問いに答えたのは、先ほどまで遠くにいた宰相だった。
まさか本当にメルを洗脳したのか?
メルは魔法抵抗力なども仲間の中で断トツで高い。
並大抵の魔法では彼女をどうこうすることはできないだろう。
「あは、でもまあ、これで目的自体は達成できるし、いっか」
メルの頭を乱雑に撫でるマールズ王。
「貴様ぁ、メルを放せっ」
ミアが怒りを込めた一撃を王にお見舞いした。
重いクレイモアが空気の層を破り、その速さのまま王を両断する勢いで振り降ろされる。
ダンッという音とともに、王が後ずさりをした。
流石に先ほどの一撃は耐えきれなかったらしく、俺は風の障壁が歪むのを目撃する。
王もびっくりしている様子だ。
「何だい、その武器は?まさか私の障壁で壊せないなんて」
ただ重いだけのクレイモアかと思ったが、どうも何か他の武器とは違うらしい。
今回はそれで活路が見出せた。
「ミア、さっきのをまたやってくれ」
「分かりましたっ」
ミアがもう一度先ほどの渾身の一撃を食らわせようと飛び掛かる。
だが、やはりそれを阻もうとする者が一人、宰相が王の前に立っていた。
「そう、何回も同じことをやらせませんよ」
「だろうなっ」
「ぐほっ」
王の前に立った宰相をすぐさま、リーシャが蹴り飛ばす。
宰相はそこまで強くないのか、そのままの勢いで壁へと激突した。
そして、またミアのクレイモアが風の障壁へと当たる。
「くっ」
「今だ」
その瞬間に俺、コマチ、リーシャで全方向から一斉に攻撃を加える。
次は拳を削られないように、より魔力を拳に込めて。
パン。
障壁が割れる音がする。
すかさず無力化するために俺は殴り掛かった。
「な、メルっ」
殴ろうとした矢先、目の前にはメルが立っていた。
吹き飛ばされる。
「ぐふっ」
吹き飛ばされ、混乱の渦にある貴族の一人とぶつかり、そのままの勢いで並べられた机に衝突する。
メルが、攻撃してきた……。
メルの表情に変化はない。
容赦のない攻撃に、受けた箇所の骨にひびが入ったようだ。
動くたびにじんじんと痛んでくる。
そこに、後ろの方から王国兵が近づいてきた。さきほど追い払ったのが戻ってきたのだ。
すぐさま回避行動に出る。
すでに彼らから殺気が迸っていたので、避けることができた。
「これは、まずいな」
「大丈夫?」
コマチが近くに寄ってきてくれた。
リーシャとミアは王と対峙していて動けそうにない。
俺が立ち上がる頃には兵士に周りを囲まれていた。逃げ場はない。
数は十人ちょっとぐらいか。それに対し俺とコマチの二人だけ、また俺は先ほどの攻撃で動きが鈍くなっている。
どうしたものか。
じりじりと兵士の円は狭くなっていく。
「ウインドプレスっ」
もう少しで兵士全員から攻撃されそうになったが、そこで助けが入った。
一体誰が。
俺は声の聞こえた入口の方に顔を向けた。




