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鍛錬の日々

いろいろな事情で遅くなりました。

すみません。


 「ふぁぁ~、よし」


 まだ、朝日が出ていない頃、目が覚める。

 自分で起きたわけではなく、魔法によるものだ。日本にいた時の目覚まし時計で起こされる不快感はなく、スッと目が開く感じである。

 魔法をかけてくれたのはマリルさんで、メイド魔法という職業がメイドじゃないと使えない魔法らしい。

 横を向くとリーシャとミアが仲良く同じベッドで寝ているのが見えた。

 なぜ、俺がこの時間に起きたのかというと、ガスベルさんによる特別訓練の続きを開始するためなのだ。前はさすがに最初からやりすぎたと反省しており、今回は懇切丁寧に教えてくれるそうだ。

 少しトラウマになっているが、強くならなくてはこの世界では生きていけない。

 動きやすい服装に着替え終わったと同時に、ドアがノックされる。


 「トワ様。お迎えに上がりました」


 メイドのマリルさんに連れられ、またあの修練場に行く。

 もちろん修練場で待っているのはガスベルさんだ。


 「おう、トワ来たか」


 修練場に着くとそこには、すでに準備万端フルメイルのガスベルさんが素振りをしていた。

 さっそくやる気が失せる。


 「今日からはまず基礎的な体力をつけてもらおうと思う」


 ガスベルさんいわく、スタミナという面はステータスには載ってないが、戦闘では大切な要素の一つであり、ある程度の体力をつけてやっと戦闘訓練をするそうだ。


 「まずはこの修練場を20周だな、ほら走ってこい」

 「まじか……」


 修練場は団体訓練もできるよう広く造られており、一周するだけでも辛そうだ。

 それを20周とか。考えただけで吐きそう。

 それから地獄の持久走が始まった。


 走り始めてから何分経ったのだろうか、太陽は昇りきっており、気温も起きたときより大分高くなってきている。10周走り終えたところで、ガスベルさんも持久走に参加し、他のクラスメイトも今日から訓練なのか修練場に集まってきていた。


 「大変そうじゃねぇか」

 「うわ、辛そう」「まじやば」「それな~」

 「俺らもあれやんの?」

 「俺、炎術の魔導師だからやらなくていいだろ」


 素直にこの地獄の仲間入りしてくれるのはうれしい。


 「よし、お前らも20周だ、がんばれよ。この世界で生き抜くためにもな」


 不平不満が走っている俺のところまで聞こえてくる。

 特にゲームオタクの日向と充は、猛抗議していた。


 「もういいから、走れ」


 ガスベルさんの大声にひるんだ二人は、しぶしぶ走ることに決めたようだ。

 ガスベルさんはそれに満足したのか、走るのを再開する。甲冑がガチャガチャとうるさいが走る速さは恐ろしく速い。

 そして、その後も腕立てやスクワット、素振りなどを男子だけ体の限界が来るまでやらされた。



 「やっと帰ってきたか、トワよ」

 「お帰りなさいませ、トワ様」


 自分の部屋に帰ってくると、リーシャとミアが出迎えてくれる。

 体がもうボロボロなのでそのまま下の布団に寝転がった。


 「トワ様は私たちの主人なのだからベッドで寝ればよいのに」

 「いいよ、こっちの方が慣れてるし」


 実際、いつも布団で寝ていたためにベッドで寝ると、寝起きがあまり良くないのだ。

 それに、奴隷やモンスターだからといって女性が床で寝て、自分だけベッドで寝るというのはなんだか間違っている気がする。女性は大切に、それ大事。


 「ふ~ん、トワは変わっとるの」


 リーシャは腕を組み、その豊満な胸が変形する。それをついじっと見てしまった。

 おっと、いけない。一つ聞きたいことがあるんだった。座ってリーシャに向き直る。


 「そうだ、その答えにくかった話さなくていいけど、リーシャはなんで……その、龍人族の里から追い出されたの?」

 「っ、そうじゃな。これからのこともあるのだから、話すしかないかの」


 一瞬リーシャが睨みを利かせるが、観念したのか理由を話してくれることになった。

 リーシャは龍人族の中で高貴な生まれで、生まれた時から一部を除いてステータスが高かったらしい。

 唯一ステータスの中でMPが低く、生まれた時は1という欠点があった。しかし、小さい頃は同年代では一番強く、負け無しだったのだが、体が成長するにつれ、またレベルが上がるにつれて同年代の者から実力は引き離されていった。理由としてはMP不足による龍撃魔法が使えないこと。リーシャは血のにじむような努力をし、戦闘の技術を磨くが圧倒的な力である龍撃魔法には太刀打ちできず、力の無い者に用は無いと追い出されてしまったのだ。


 「そういうわけで、龍撃魔法は使えんからあまり期待してほしくないのう」


 話していたリーシャの拳は固く握られていた。

 自分の想像しているのよりもずっと悔しいのだろうと思う。そして、またその欠点は自分と行動することにより解決するかもしれないと思った。だから――。


 「自分にならその欠点を直せるかもしれない」

 「どうやって、この欠点を直せると思っているのじゃ。MPは歳をとるたびに伸びが悪くなる、儂に関してはレベルが上がったとしてももう上がりもせんなった」


 完全に諦めきっているな。

 しかし、自分にはユニークスキル『観察者』があるため、自分以外は強くなるはず。


 「『観察者』ってスキルを持ってるんだが――」


 『観察者』についてリーシャに説明する。その説明を聞いていくたびにリーシャの目には希望の炎が灯ったかのように見える。自分を凝視し、リーシャの頭ではいろいろな思いが駆け巡っているのだろう。


 「トワ様、それは私にも効果があるんでしょうか」

 「ああ、あると思うよ、だって仲間だろ」


 静観していたミアからの疑問に答える。

 ミアも強くなりたいのだろう、俺も強くなって無双したいがこのユニークスキルは自分には適応外である。


 「ほんとに、ぬしと一緒に戦うと龍撃魔法を使えるようになるのじゃな」

 「ああ、絶対使えるようにしてあげるよ、そのためにも明日からはリーシャも訓練に参加した方がいいぞ」

 「了解した。明日からよろしく頼む」

 「私も参加します」


 リーシャもミアも気合十分だった。二人には悪いがあの地獄の特訓に仲間がまた増えてくれるのはすごくうれしい、その後もう何もする気が起きず、だらだらと過ごした。


 ――翌日。


 朝起きると右横にリーシャ、左横にミアが寝ており、心臓が止まるかと思った。

 リーシャの整った顔が近くにあったためと、ミアのトカゲ顔があったために。


 「お、おい。ベッドで寝てたんじゃ……」

 「ん、もう朝か」

 「おはようございます、トワ様」


 二人に聞くとそのスキルの恩恵は近くにいるほど強く効くんじゃないか、という理由で近くで寝ようと決まったらしい。リーシャが少し顔が赤い、恥ずかしいなら止めればいいのに。ミアは相変わらずどういう表情なのか読みづらいが、尾が右へ左へと動いているのは見えた。

 起きてからはマリルさんの持ってきてくれた朝食を部屋で食べ、三人とも動きやすい服装に着替えて修練場へと向かった。


 修練場ではガスベルさんや他の騎士の方達が模擬戦をしたり、筋トレをしていた。

 うっ、行きたくねぇ。

 気持ちを変え、ガスベルさんのところに行く。

 ガスベルさんは自分と同じくらい長いクレイモアで素振りをしていた。本当に人間なのだろうか……。


 「お、今日も来てくれたか。そっちの龍人族と白いリザードマンは」


 ガスベルさんに二人も訓練に参加させてほしいことをお願いする。あと、魔法を使う許可を貰った。


 「一緒に訓練してもいいが、部下の中には亜人やモンスターのことをあまり良く思ってないのがいるから、魔法を使う際は端の方で俺がいる時にしてくれ」


 ガスベルさんと話し終えると、他のクラスメイトが修練場に到着したのが見えた。

 俺、いやリーシャの方を見て、日向と充が駆け寄ってきた。


 「お、おい。この美女は、伝説の亜人娘ってやつじゃないか」

 「ああ、それに戦闘力が計り知れないな」


 二人とも目は大きな胸へと向いている。

 駆けだした二人を追って、他のクラスメイトも到着した。

 クラスのまとめ役の悠太はガスベルさんの所へ行き、何かを話している。

 他の俺と宗太を除く男子はリーシャが気になってしょうがないらしい。男の性ってやつだ。

 それを見て、女子グループの亜里沙、芽衣、美貴の目は冷え切っている。

 その後は、リーシャが自分の奴隷だということが判明し、女子達の冷え切った目は自分の方に向くは、日向や充から怨嗟の言葉が飛んでくるは、で大変だった。

 そして、修練場10周持久走が始まり、ある変化があった。それは、自分以外のクラスメイトが余裕の顔して、昨日よりも速く走っている。それに負けじとリーシャやミアが追いかけているが、なかなか追いつかない、勇者補正というやつだろうか。

 それにしては自分は昨日とあまり変わっていない気がする。

 不思議に思い、皆から3周遅れて終了した。


 「なぜか、まだ余裕があるな」

 「ああ、昨日の持久走が嘘のようだぜ」


 宗太と和也が話しているのが聞こえてくる。まだ余裕があるらしい。

 俺はもう無理だ、死にそう。

 次は、リーシャの魔力を使う訓練である。端の方へと移動する。


 「リーシャ、魔力を使うことってできる?魔法を使うんじゃなくて」

 「分かった、やってみよう」


 リーシャは目を閉じた。

 すると、リーシャは手を前に突き出すし、その手の平に何かが出ているのが少しだけ感じられ。


 「あっ」


 リーシャはそのまま倒れそうになったので、慌てて支える。


 「すまない、やはり龍撃魔法は使えないか……」


 そのままリーシャは気を失ったため、リーシャを部屋に連れて行き、自分の訓練も切り上げさせてもらった。


 そして、この日から2週間ほどリーシャは無理の龍撃魔法を使うのでは無く、魔力を無駄に消費するという訓練を続け、自分とミアはその間二人でタッグを組み、対人戦を繰り返し行った。

 いわなくても分かると思うが、この期間でミアに勝てたことは一度もない。


 そして、ユニークスキルの『観察者』の効果がどれほどのものなのか、リーシャとミアのステータスを確認する。

 そこには――。


 「……へ?」

 「「えっ」」


 異常な成長を遂げたステータスがあった。

 

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