救出作戦は順調
クラスメイトを助けた後、俺達は武器を取り戻すことに成功した。
その際に、クラスメイト達がまた見つかって捕まりそうになる、という事態も発生したがどうやら逃げ切れたようだ。
「結婚式の準備ができたようじゃのう」
隠れながら、王城のホールまで向かうと、そこは前に見た時よりも綺麗に飾られていた。
テーブルと、そこにはおいしそうな料理が所せましと並んでいる。
もう始まる寸前なんだろう、外からホールへと繋がる大門は開かれ、メイド達は来客が来るのを待っている様子だ。
俺達は庭にある雑木に隠れながらその様子を伺っていた。
「続々と集まりだしたら、その波に乗って俺達も中に入るぞ」
リーシャ達は了解の意志を示してくれた。
そして、イールが構えてくれた衣装に着替える。
俺はエルフの男性貴族が着る正服に、リーシャ、ミア、コマチはドレスを着る。
そして、ばれないように頭にかつらをかぶった。
耳を尖らせるのは難しいので、耳を隠す方向にしたのだ。
隠れながら準備を進めていると、エルフの貴族を乗せた馬車が王城へと向かって来ていた。
そのまま、馬車を降りて受付をしているメイドの前まで向かって行く。
王の結婚式なので、人数がとても多い。
「よし、行くぞ」
すぐさまばれないようにその列の最後尾に並ぶ。
俺達の設定としては、俺が当主で、その妻のミアとリーシャ、そしてその子供のコマチという感じでいこうと思っている。
話している言葉も気を付けなくてはいけない。
そのまま次々と貴族が中に入っていき、俺達の番が来た。
「お名前を聞かせてもらってもいいですか?」
「カムラだ」
「カムラですか?聞いたことないですね」
「知らぬのも同然じゃ、中央より遠く離れたところに領地があるのでな、位も最底辺に近い」
「…………」
メイドが沈黙する。
これはばれてしまったか?
緊張で手の中が湿る。
「そうですか、失礼しました。中へどうぞ」
「ああ、そうさせてもらう」
ふー。
心の中で息を吐き出す。危なかったぁ。
イールの話ではエルフの貴族は結構数があり、そして、王様が変わるごとに貴族の数も増えたりしているので、あまり把握できていないらしい。
なので、今回は一代限りの名誉貴族という設定だ。
一番下の位の貴族であるため、家紋のようなものは持っておらず、受付を通る際に確認されずに済むという利点がある。
誰もしゃべらないまま、会場を歩く。
貴族が優雅にしゃべりながら結婚式が始まるのを待っている。
「おや、見ない顔ですね?」
「!!」
後ろから声をかけられ、つい振り返ってしまった。
そこには長身の男性が立っている。俺に声をかけたのは間違いない。
平静を装い、会話へと移る。
「ええ、最近貴族となったのでね。知られていないのもしょうがないと思われますな」
「なんとでは名誉貴族ですか。なんの功績を立てたのでしょう?」
「土地を開墾したので、そこの領地を任されました。ここからは遠いのでなかなか中央へ来る機会もなく、初めてこの機会にと来た次第です」
「ほう、そうですか。そこの綺麗なお嬢さんも初めましてですね」
そう言って、コマチに礼をする。
彼の服装を見ると、一見地味なように見えるが服の素材がとても良く、位はとても高いのではないかと思う。
あまり目立ってしまってはいけない。
すぐさま、話を終わらせようと仕向ける。
「では、私達は挨拶がありますので」
「そうですか。では楽しんでください」
そう言って、男は背を向け談笑している貴族の輪の中へと入っていった。
声をかけられた時はどうしようか、と思ったがなんとかばれずに済んだようだ。
次は声をかけられても大丈夫なように、話すことを事細かく考えておかなくては。
危機が去って、数分した頃、ホールへつながる大門が閉じる音が聞こえた。
どうも、全員集まったのか、時間が来たようだ。
「お集まりいただきありがとうございます。どうぞ、新王妃様と我らが王を祝福していただくようお願いします」
正服をピッシリと着た三十代後半の見た目をした男性が、ホールの奥で司会を務める。
彼は宰相の右腕と呼ばれる男らしい。
ひそひそと貴族達が話している声から、そう判断する。
そして、結婚式が始まった。
「おい、ここで大丈夫なのか?」
「ああ、ここが一番被害が出ないと思う」
斗和達が王城の中へと侵入していた頃、クラスメイト(男性だけ)達は王城の裏へと来ていた。
斗和から頼まれたことは、混乱を助長させること。
そして、逃げ道を作っておくこと。
その二つが主に言われたことで、条件としてあまり人的被害を出さないでほしいと言われている。
なので、彼らは人的被害が出ない場所として、焼却炉の近くまで来ていた。
「よし、俺達は結婚式が始まるまでここで待機だ」
「でもよぉ、神野。見つかっちまうんじゃねぇか?さっきみたいに」
「今度こそ大丈夫だ。もし見つかってもここなら増援を呼ぶことが難しい」
「なるほどな。それで俺の力を解放する時はいつなんだ?」
こいつ、斗和に言われたことを忘れてやがる。
神野は日向の馬鹿さ加減に頭を抱えながら、斗和の説明を伝えた。
「結婚式が始まって少し経ってからだ。お前達は派手に暴れたらいい」
「なるほどな、その時こそ俺の活躍の場ってわけか」
「俺の魔法剣も活躍するぜ」
本当に分かっているのだろうか。
あ、頭が痛い。
もうこいつらと行動を共にするのはごめんだ、と思いながら誰が来ても対応できるようにしておく。
神野は錬金術師だ。罠を設置するのは朝飯前。と言っても今持っている材料ではそこまで威力があるものは作れない。
なので、この二人がメインとして行動してもらう。
「バタンッ」
門が閉められた音が聞こえた。
結婚式が始まる合図だ。
すぐさま、準備を始めることにした。
日向と充は詠唱の準備、俺は周りの警戒に徹する。
「よし、俺は大丈夫だぜ」
「俺も大丈夫だ」
周囲の魔力が彼ら二人に吸い寄せられていくようだ。
魔力の渦がそこにはできていた。
「まだ全力で魔法を使ったこと無かったから、これが初めてだぜ」
「本当にな、まじで俺達の力はこの世界ではチートだからよ」
日向の手の平の上には小さな太陽が浮かんでいた。
いつも日向が使っている火球よりも一回り小さい。
そして、充はいつも愛用している剣が七色に光っていた。
どうも彼は剣に全ての属性を付与してみせたらしい。
これは俺も負けられないな。
俺は王城の壁に特殊な塗料で魔法陣を描く。
この魔法陣はこの城の魔法抵抗力を下げる効果を持っている。
そうでもしないと、この城の一部を崩壊させることはできないだろう。俺は錬金術師としていろいろな素材を見てきたが、この城の素材は見たことがない。
ただ、魔法や物理によるダメージを減らすように組まれていることが、見て分かった。
「よし、できた。じゃあやってくれ」
「「了解」」
小さな太陽が壁に近づいていく。
そして、壁に触れた瞬間壁が焼き爛れていった。
どんどん壁を削っていき、ついに壁の向こう側が見え始める。
日向はその結果に不満を思ったのか、眉をひそめた。
「くそ、意外と固いじゃねぇか」
「次は俺の番だな」
空いた穴を起点として、七色に光る剣を突き入れそのまま横に薙ぐ。
思っていたよりもするすると切れず、より力を込めて切っていく。
「確かにこれは固いな」
「よし、もっと強度を下げるか」
魔法陣の重ね掛けという高等技術を用いて壁の強度をより一層低くする。
連発して小さな太陽が穴を開けていく。
「何事だ!!」
鎧を纏った兵士がたくさんお出ましだ。
まあ、あんなに大きな音を立てていたらここがばれるのもしょうがない。
彼らの顔には怒りが浮かんでいる。
だが、俺達の仕事はもう終わりを迎えようとしていた。
「最後の仕上げだな」
「な、一体何を」
開けられた穴から穴へとひびが走る。
そして、小さかった穴が広がり大きな穴になった。
充はそれを確認して中へと入っていく。
「ええい、かかれ」
たくさんの兵士達が近づいてくるが、大丈夫。
「そこら辺に罠がいっぱいあるから気を付けて」
踏み出した兵士が一人ずつ落とし穴にかかる。
中には下半身を石化された兵士もいた。
その様子を見てだろうか、兵士達に戸惑いが生まれる。
「くそ、卑怯者。お前達はなぜこんなことをするんだ」
「それは言ってもしょうがないだろ。俺達は意味もなく捕まってたんだぜ、ああん?お前達は話も聞かなかった。なら、実力行使だ、おらぁ」
日向が切れたように魔法を連発するが、それらは兵士に当たっていない。
切れているのは演技で、実は冷静に対応しているようだ。
充が城の中から戻って来た。
「城の中は頑丈じゃねぇみたいだな。これで俺達の仕事は終わりだ」
「じゃあ、退散だ」
「させると思っているのか!!」
兵士の隊長自ら突っ込んでくる。
実は罠はそこまで多く仕掛けていない。
先ほどかかったので全部だと思われる。
「見ろ、この道は罠がない。ここを通って来い」
とても怒っている様子なので、すぐさま逃亡。
全速力で町の方向へと向かって行く。
後ろからは複数の魔法が飛んできていた。そして、怒りの声も。
「後は任せたぞ、斗和」
城が揺れる。
どうも、作戦の第一段階は成功したらしい。
何食わぬ顔でホールで王子が登場するのを待つ。
「これは一体……」
「何が起こっているんだ」
「お静まりください、今王国兵の者達が確認しにいっています」
場は混乱が起きていた。
大きな音と振動。
これで結婚式に影響が出てしまうが、王子は結婚式を止めにはしないだろう。
イールは王子の性格からそうなるだろうと言っていた。
そして、それは当たることとなる。
「皆の者、待たせた。これから結婚式を始める」
「ホールの奥から宰相が現れて、結婚式の始まりの音楽が流れ始める」
さあ、入場だ。
宰相が現れた扉から王子と、その後ろにメルがいるはずだ。
エルフ流の結婚式はそうなっているため、今回も違いはないだろう。
「王と新王妃の入場です!!」
宰相が登場した扉の横にある、両開きの扉をメイドが開ける。
そこにはマールズ王と、その後ろに控えたメルがいた。
つい、メルと言いそうになる。
そこを我慢して見届けた。ここではまだ十分とはいえない。
もう少し機を待つのだ。
式は異変が起きたにも関わらず、順調に進んでいく。




