降参からの投獄
「囲まれたぞ」
日向が回りをきょろきょろと見回すと、そこには完全武装したエルフがざっと100以上。
前衛に兵士を置き、後衛に魔術師を置くという何とも手堅い陣だ。
それゆえに逃げ出すことが難しい。
「我らの同胞を解放してもらおうか」
一人金に光った鎧を身にまとったエルフが響き渡る声で言う。
多分だが、こいつがこの軍隊の将軍的地位にいると思われる。
「おい、そっちから襲撃してきたのにその言い方はないんじゃねえのか?」
「そうだぞ、こっちが被害者なんだぞ」
「その反抗的な態度、人間にしては少し強いように感じる……」
「もしや、人間族の勇者とやらか?」
睨みを利かせ、その顔には幾重ものしわができる。
エルフのなかでは老齢であろう彼の言葉には覇気があった。
「あ、そうだよ。だったらどうだっていうんだ」
「こっちは勇者なんだぞ」
あのバカ二人はどうして。
宗太は青い顔のまま固まっている。
分かるのだ、あの隊長と思しきエルフの桁違いな強さが。
とてもでないが、クラスメイト達では勝てそうにないだろう。
強くなった俺でも戦えばどうなるか分からない。
「そうか、お前たちが人間族の勇者だったか」
「そうだぜ、今回はラーマって国から――」
「なら殺しに行く手間が省けたわい」
老齢なエルフの言葉を聞き取った周りのエルフは一斉に詠唱を開始する。
前衛のエルフ達は逃がさないようにじりじりと近寄ってきた。
「おい、どういうことだよ」
「俺達勇者だろ、なんでこんな歓迎してないんだ」
「それはな、俺達が人間の勇者だからだろ」
三人娘からは日向、充に対して非難が殺到していた。
当たり前のこと、人間の隠された兵器が自分の領地近くにのこのこと現れたのだ。
そんなの地の利があるうちに殺してしまう方が、人間の国の戦力も削れる。
「おい、じゃあどうして俺達はこんなところにいるんだよ」
「まじで危険じゃねえか」
「試されているか。もしくは……」
宗太はその先を言わなかったが、言わなかったほうの理由が当たりだろう。
つまり見捨てられたのだ人間の国に。
あまりに使えなかったからかもしれない、もしくは違った理由があるのか。
それは生きて帰れたら分かることだ。
「トワ様、どうしますか?」
「そうだな、俺はわざと捕まろうと思う」
「ほう、その心はどういうことかのう?」
「まあなんだかな、こんなに早く100人以上の軍隊が来るっていうのに少し疑問があってな」
「じゃあ、お縄頂戴?」
コマチの言う通りお縄頂戴っていう状況だ。
俺達だけで逃げようと思ったらできるだろう。
しかし、クラスメイト達も一緒となると逃亡の確率も劇的に下がる。
そこまで考えての降参&潜入ってことで。
「すまない、降参だ。命だけは助けてくれ」
土下座をして助けをこう。
まさに今魔法がこちらに向けて放たれようとしていた時だった。
魔力の動きがぱったりと消える。
「降参する者は傷つけん。お前らの国の情報を全て話してもらおうか」
そして、俺達は縛られて連れていかれることになった。
さあ、捕虜生活の始まりだ。
場所は変わって、エルフの国の王城に設けられた牢獄の中。
俺は一人優雅に個室で筋トレをしていた。
手には手錠をかけられており、それは魔術の行使を阻止するために魔法の練習はできない。
トイレは壺が用意されており、ベッドはなく、エルフの国は温暖湿潤な気候なため最高にじめじめしている。
なんて――。
「最低な、ところ、だよ」
今は天井にできたくぼみに指を入れて、天井腕立てをしている。
日本にいた頃の俺が見たら、馬鹿馬鹿しい光景に笑うと思う。
まるでアニメの主人公みたいだって。
それは看守の人も同じみたいで。
「お前は人間なのか?本当はトロールの亜種か、ドワーフっていうわけじゃねえんか?」
失礼なれっきとした人間です。
筋トレは続くどこまでも、ただこれは鍛えるためというよりかは暇つぶしという意味合いが大きい。
ざっと牢屋の外を見てみた。
どうもここは俺以外にも捕まっている者がいるらしい。
なんかすすり泣く音が聞こえる。
「ぐすん、ぐ、ぐふぅ……」
他にも動く音や、鎖だ立てる音がなっている。
どうもここは俺達と同じように他から捕まった人達が入れられる区画だと思われる。
どうも、共謀などを図られないようにクラスメイト達や仲間達とは違う区画に入れられているようだが。
看守は全部で五人体制で見張っているようだ。
牢屋の数は推測になるが、全部で20とちょっとぐらいあるので、なかなかの広さだと思う。
「おい、次は俺様の番だな。どけよ」
「はいい、分かったっぺ」
なんか田舎臭いしゃべり方のエルフが順番が終わったために、立ち去るのが聞こえる。
そして、新しく入ってきた男は何とも粗雑そうな男だ。
無精ひげを生やしたエルフか?と疑問に思うほどの巨漢。
「よしよし、今日も大量に入ってきたようだな」
とてもうれしそうに舌なめずりをしている。
その極悪そうな面によく似合った動作だ。
「お、ここに女がいるじゃねぇか」
それは先ほどすすり泣く声が聞こえてきた牢屋の方向。
あの声は確かに女性特有の高い声だった。
「ちょっと味見しようかな」
「ひ、いや、やめてください」
「そんな怖がらなくても、優しくしてあげるから大丈夫だって」
何とも下品な笑い声が聞こえてくる。
がちゃがちゃと牢屋のカギを開ける音が聞こえてきた。
む、さすがにこれは見過ごせない。
目の前で女性が毒牙にかかることはあってはならない、そう思って手錠を壊そうとしたのだが。
「ぐげっ」
聞こえてきたのは女性の悲鳴ではなく、看守の何とも間抜けな声だった。
「ちっ、本当に汚いやつだぜ、まったく」
なんか雰囲気が全然さっきと違う。
二重人格みたいな変わりようだ。
牢屋の外の暗がりを目を凝らしてみると、そこには伸びた看守と一人の小柄な女性が立っていた。
どうも彼女が看守をのしたらしい。
「さて、どうするかな」
看守から奪ったカギを振り回しながら思案している。
「俺達も開けてくれぇ」
「俺もだ、早く外に出てぇよ」
「助けてくれたら、何でも欲しい物をくれてやるから出してくれ」
「おうおう、なかなか元気がいい犯罪者どもだな、こりゃあ」
牢獄の中から複数の声が飛び出てくる。
それを横目で見ながらゆっくりと牢獄の前を歩いていく彼女。
俺は自力で脱出できるため、別に開けてもらわなくても結構です。
筋トレを続ける。
「お、面白いやつがいるじゃねえか。何て、ばけもんが牢屋に入ってんだ」
へーそんなやつもいるのか、そいつはなんとも出したら危険そうだな。
俺は暇つぶしに忙しいんで、そいつがどんな奴か会話を聞いてみようと思う。
「面白れぇ、俺が話しかけてんのに見向きもしねぇなんて」
おう、何とも強気な奴のようだ。
見向きもしないとはこの状況に興味がないのだろうか?
「うん?お前は人間族なのか?」
ほう、まさかこの牢屋に俺以外の人間がいるとは、少し気になるな……。
「お、やっとこっち見たぜ」
「あれ、もしかして俺のこと?」
天井から降りると檻を隔てて一人の少女が立っていた。
その華奢な体からどうやって看守をぶちのめしたのかがすごい気になる。
人間っぽくもないし、耳も尖っていないのでエルフでもないな。
「おい、お前、仲間になって力を貸せよ。そしたらここから出してやるぜ」
「あ、結構です」
「はあ?」
自分で脱出しようと思ったらできないこともないし。
仲間になるメリットが一個もない。
ここは丁重にお断りさせていただく。
「ああ、出れなくていいってことかよ」
「今は出れなくてもいいかな」
「変な奴だな……ますます気に入った」
いや、気に入られても仲間にはなりませんよ。
すでに私にはかけがえのない仲間がいるし、後クラスメイト達も。
と思考している間に、前の鍵が開く音がした。
「おっと、手が滑って開けてしまった。ということで、手を貸してくれよ」
「え、嫌なんですけど」
「即答かよ。まあまあ、俺の話を聞いてくれよ」
「まあ、話ぐらいなら」
「実はよ。俺は――悪魔族っつう、そらぁ珍しい種族なんだぜ」




