エルフの森にて
朝。
眠い眼をこすりながら、テントから出る。
俺の仲間達はすでに起きていたようで、テントから出てきた俺に気が付いた。
「おはようございます。斗和さん」
「おはよう、ふぁ~」
メルは最後の夜の番で、朝まで起きていたらしい。
そして、他のミア達は今、三人娘達と水浴び中だという。
「なので、ふらふらせずここにいてくださいね、私の時の二の舞になりますよ」
確かにメルと会った時は覗いた感じになってしまったが、あれは不可抗力だ。
不可抗力でも覗いたことには変わらないため、強く言えないのだが。
一人気まずく感じていると、他のテントから這い出る影が見える。
「くぅう、もう朝か」
「ね、眠い」
「ほら、起きろ」
どうも勇者(男性)達もようやく起きてきたようだ。
朝から宗太の苦労は絶えない。
「あれ、三人娘達は?」
充は辺りを見渡すが、三人娘達の姿は見えない。
日向は見えないことについて、「はっ!?」と目をかっ開いた。
「おい、充、これはあの定番イベント開催ってやつだぜ」
「うん?朝からテンション高いな日向。それで、何のイベントだって?」
「ここには、女子の姿がごっそりと消えている、メルちゃんは番だったから残っても不思議ではない。ここから推測するに、ターゲットは今、近くの水場にいると思われるでござる」
「まさか!?」
「ああ、そのまさかさ」
日向がすごく悪い顔をしている。
そして、それに便乗しようと充が魔法を使いだした。
「この魔法を使うときが来たようだな」
魔法が完成した瞬間、日向と充の存在感というものが薄れていって認識しずらくなった。
そこにいるのに、なにかいないように感じるみたいに。
何かの漫画でみたような光景だ。
「よし、ここら辺の地形で水場は少ない、やるぞ日向」
「見つけるのも容易いというわけだな、充」
そして、すぐさま向かおうとしている二人に制止の声がかかった。
そう苦労が絶えない宗太だ。
「やめとけ、そんなのでチームワークを崩したくない」
「はあ?俺達は三人娘を見たいんじゃなくて、リーシャちゃん、ミアちゃん、ついでにコマチちゃんを拝みたいんだよ」
「そうだぜ、三人娘の貧相な物を見て誰が得するんだよ」
結構言いたい放題だが、このまま続けると本当に死にかねないので止めてやることにする。
彼らの名誉のためにも。
「日向、充」
「なんだよ、斗和。お前も止めるつもりか?」
「自分だけイチャイチャしやがって、俺達にもその幸せがあってもいいだろうがよ」
「いや、そうじゃなくて。後ろを見てみ」
「「ああ?」」
訝し気にゆっくりと後ろを振り向く二人。
そこには修羅のごとき怒りを露わにした亜里沙と、呆れている芽衣、美貴。
ミア達は特に気にしていないようだ。
「お、おおおおお」
「ふうふう」
亜里沙の目が怒りの臨界点に近いことを物語っている。
「あんたたち、覗こうとか思っていないわよねぇ」
「「ひ、ひぃぃぃ」」
腰が抜けその場に尻餅をつく。
亜里沙のものすごい迫力に、二人とも顔が真っ青だ。
そして、問題はどこから彼女達は聞いていたのかということだが、答えはほぼ全てだ。
魔法を使っての計画的犯行もばればれというわけ。
「罪は重いからな」
悲しきことかな、彼らは実行に移せず有罪判決を受けてしまった。
こちらに助けを求める目線を向ける。
だがしかしすまないが、俺には助けられそうになさそうだ。
宗太も目を合わさないように背けていた。
「一度死んで来い!!」
「「ぎゃああああああああ」」
電気が走ったかのように痙攣してその場に倒れこむ。
あとで亜里沙に何をしたのか聞いたが、どうも回復魔法の応用らしく、それで体に激痛が走るのだとか。
一種の拷問魔法だと本人は言っていた。
そんな朝の一件もあり少し遅れたが、エルフの森へと再出発する。
今だ気を失っている日向と充は、宗太と俺が運ぶこととなった。
「斗和様、私が運びましょうか?」
「いや、いいよ。こいつら何気に重いし、何よりミアに触れてほしくないからな」
「そ、そうですか///」
こいつらが清潔だという確証はない、汚いこいつらをミア達に触れさせるのは気が引けるしな。
ミアは納得したのか、少し顔を赤くしながらゆっくりと俺の後ろへと下がっていく。
「そうなのかのう、それは私も同じかのう?」
「うん?そりゃあ、リーシャもメルも仲間には触れてほしくないだろ(汚物に)」
「そ、そうなのかの……」
何やら嬉しそうにミアのところに行くリーシャ。
確認することでもないだろうに。
リーシャも笑みが零れていた。
「おい、ここから気を引き締めていこう。テリトリーに入る」
先頭で歩いていた宗太が、木に括り付けている赤い布を見て注意喚起する。
この布はここからがエルフ領であるという印だ。
実は俺達がエルフの森と呼んでいたのは、全てがエルフの領地というわけではなく、半分以上は空白地帯で、誰の権力下にもない土地である。
なぜこのような空白地帯があるのかというと、まず魔物の強さが並みのものの数倍強いということがあげられる。
つまり、領地を広げてしまうと防衛が薄くなり、魔物に攻められる可能性が高くなるということだ。
そんな森だが、俺達はその魔物を無視して進むことができる。
「宗太の発明品はすごいな」
「そんなたいしたものではない。これも日本の商品のパクリみたいなものだからな」
そうして取り出したのは、フラスコに入った液体。
その液体はからは独特の匂いが発せられている。
その匂いを嗅いだミアは鼻を掴んで悶絶していたから、魔物にはとても効くということが証明された。
「はやぐ、ぞれをじべてぐだざい」
俺の後ろにいるミアだが、匂いがきついらしく鼻を速攻で押さえている。
ミアには悪いが、これを使わないと魔物が近づいてしまうため我慢してもらっている。
「では、俺が作ったもう一つの発明品を見せようか」
そう言って取り出したのは、何も入っていない小瓶。
「それは?」
「これはな、こうやって使うんだ」
背負っていた日向を地面に横たえ、蓋を開けた小瓶を日向の鼻へと近づけていく。
「ぐがっ」
あ、日向が起きた。
続けて充にも処方する。
「おえっ」
えずきながらも起きる。
すごい効果だ。
「これは、いわゆる目覚め薬だな。刺激を与えて起こすタイプの」
日向と充は鼻を押さえて悶絶する。
こいつら今日は特に災難だな、と思う。まあ、さっきやったのは俺と宗太なんだが。
「こ、ここは、確か俺は……」
「うん?」
悶絶から戻ってくると、周りを見て状況を確認しているようだった。
「でも、なんで最初に使わなかったんだ?」
「気を失ってすぐに使ってもあまり効果ないし、エルフのテリトリーに入るからな。使うなら今だと思ったんだ」
そういう理由なら納得ができる。
そして、日向と充に事の顛末を聞かせると、亜里沙を見て一歩後ずさった。
「もう反省しているなら、許してあげるわよ」
「それなー」
「もう覗きをしようとかやめてくださいね」
「ごめんなさい、もうしません」
「許してくれるのか、ありがたやー」
良かった、亜里沙ももう怒ってないようだしこの件はこれで終了だ。
次に問題になるのは、周りの状況になってくるな。
「囲まれてます」
ミアがこそっと耳打ちする。
俺も気配を感じていたが、やはり何者かに囲まれているようだ。
まあ、大体想像はつくが。
「お前たちは何者だ!!」
どこかから声が聞こえてきた。
声からして女性のようだが、声が辺りを反響しているようで位置を特定できない。
「どうしますか?トワさん」
メルは同胞であるために、この状態について焦ったりしていない。
クラスメイト達はどこにいるのか分からないため、円となって周囲を警戒していた。
「俺達は決して怪しい者じゃない、ラーマ国からの使者だ」
宗太が意を決して姿の見えない相手に答える。
「ラーマ国?なぜラーマ国の使者がこんなところにいる」
「人がこんなところに来れるはずがない」
「そうだ、お前たちは実は人間ではないのであろう」
最初に聞こえた女性の他に、男性の声も聞こえてくる。
どうも疑り深いというか、戦争の真っただ中であるためしょうがないのかもしれない。
「おとなしく帰るのなら、命までは取らない。食料や武器は置いて行ってもらうがな」
「私たちはラーマの使者として、手紙を届けに来ただけなんです」
「そうであってもこちらの要求は変わらない、聞かない場合は命が無いと思え」
判断を急かすように、周りから濃密な殺気が放たれる。
ここで帰ってしまってはお使いもできない勇者という烙印を押されてしまうだろう。
俺は一向にかまわないが、彼ら彼女らはその烙印でこれから過ごしづらくなる可能性があるため、ここは何が何でもエルフの長に手紙を渡さなくてはいけない。
「さて、どうしたものかな」
斗和は一人つぶやいた。




