魔女との対話
ボスのがいる部屋へとつながる扉を開く。
「うん?」
いつものダンジョンなら目の前にいるはずのボスの姿が見当たらない。
動く気配が一つもないのだ。
「これはどういうことだ?」
「たぶん、出てくると思う」
コマチがそう言った瞬間に、部屋の中心から光が溢れだした。
「もう、めんどくさいわね」
「では、私をこのダンジョンから出してください」
「それは無理って言ってるでしょ!!」
目の前に現れたのは、ヴォルフの謎の女性。
「あ、変態魔術師」
「だーれが、変態魔術師か!!」
どうも彼女がこのダンジョンを作った変態魔術師らしい。
「だから、変態魔術師じゃねえ」
「びくっ」
心の声が漏れてしまっていたのだろうか。
「あんたの心を読むのなんか私にとって朝飯前よ」
「おい、変態魔術師。私をこのダンジョンから出せと言っているだろうが」
「お前もうるさいわね、ちょっとだまってな」
その一言でヴォルフの体に魔法が絡みつき、身動きが取れず声も出せなくなってしまう。
見たこともない魔術だ。
横にいるメルに聞いてみるが、メルでさえ知らないらしい。
「それで、次はこっちだな」
変態魔術師がこっちを向いて、用件を告げる。
「お前達も帰ってくれないか、私も忙しいんだ」
「えっと、帰してくれるならそれで嬉しいんだが」
帰らしてくれるならそれは願ったり叶ったりだ。
「じゃあ、ちゃんと下まで送ってやるからな――」
「待って」
コマチが退きとめる。
どうもコマチ、というよりかはその中のリヒトが話したいらしい。
変態魔術師が振り向いてコマチをじろじろと見る。
その相貌が見開かれた。
「お、お前はリヒトじゃないのか?」
「違う、リヒトの複製体といったところ」
どうも眼中に無かった相手を観察したところ、コマチの中にリヒトを感じたようだ。
驚きながら、よたよたと歩きコマチへと近づいていく。
顔を触る、体を触る、そして目をつむり中にある者を探っているかのようだった。
「リヒトの魔力だ、そうか、リヒトはここに生きているのか」
「ああ、それなんだが」
「うん?お前からもリヒトの魔力を感じる」
「実はな……」
あまり時間もないため、端的に事実を述べる。
話を聞いている魔女は悲しそうだったり、苦しそうだったりと顔を顰めていた。
リヒトの事を伝え終わり、次はコマチが説明を求める番だ。
「どうして、魔王討伐の時に居なかったの?」
「それは、仕方なかったんだ。この世界の生き物たちを守るためには」
「それはどういうことかのう」
「お前達は知らなくてもいい」
それで話は終わりだと、空中に魔法陣を張る。
それはこのダンジョンの入り口につながるものなんだろう。
早く行けと催促する。
「最後に聞かせてくれ。合わなかったのは最善だったのか?」
魔法陣に入る間際、俺は魔女に問う。
「ああ、最善だったとも世界にとっては」
その声を聴き、俺は魔法陣に吸い込まれていった。
その場に静寂が渦巻く。
ヴォルフが未だに抵抗を続けているのが見える。
「もういいか」
ヴォルフの拘束を解いた。
そして、床に尻もちをついたヴォルフはすぐに魔女へと駆け寄った。
次に出た言葉は自分をダンジョンから出せ、ではない。
「なぜ、真実を伝えなかったのだ」
「伝えても意味がなかったから」
「彼も勇者に選ばれてしまったんだぞ」
「そうさ、彼も勇者に選ばれた。けど、だからなんだっていうんだい、それはどうしようもないことなんだよ」
悲しみをこらえるように、顔を伏せる。
その様子を見て、ヴォルフは彼らが進むであろう方角を見た。
彼らがこれから知る事実を、彼らがそれを受け止められることを信じて。
知識の番人は祈った。
魔法陣に入るとそこは、ダンジョン前に入り口だった。
周りを見るとちゃんと全員いることが分かる。
無事なことを確認して、ラーマへと戻ることを告げる。
「最速で帰るぞ」
メルの回復魔法を多用し、最速で帰ることにする。
身体にかかる疲労は回復魔法により、取り除けるために休むことなく進む。
「はあはあ」
「メル回復魔法をかけてやってくれ」
「分かりました」
メルが奴隷一人一人に回復魔法をかけていく。
俺達はステータスが少し通常より秀でているためか、未だ疲れることはない。
だが、彼らは一般人に近いためにかなり消耗しているようだ。
そして、一人が倒れてしまう。
体にある疲労は取り除けても、精神にある疲労は取り除くことができないため気絶してしまった。
そいつをおんぶして運びながら、十分ほど走る。
もうそろそろラーマの近くだと思うのだが。
遠くでは砂煙が立っているのが見えた。
「おい、まさか」
よく目をこらして見てみると、そこではすでに戦争が勃発している。
戦死したのだろう、倒れている人、人、人。
約束どおりならまだ戦い初めてそこまで経っていないはずだ。
なのにやけに戦死者が多すぎる。
「血の匂いがすごいのう」
「あ」
ダリルは自分の同胞が倒れていくのを見て、口が開く。
誰もが目の前の相手を殺すことに必死だ。
ラーマの軍勢は魔術師を前に押し出し、獣人の身体能力の良さを無視している。
前に飛び出した者はすぐさま燃える、凍る、切り刻まれる。
そして出来上がるのは無残な死体だ。
「ひどい」
元は魔物であったミアでさえ、この光景はひどく見えるらしい。
その国の当事者であるダリルは余計にそうだろう。
これが悪魔が引き起こしたことなのかは分からないが、関与していないとも言えない。
なんとも恐ろしい。
「止めよう」
ダリルが戻ってきたら、戦争は止む可能性がある。
獣人の国には悪魔がいるらしいので、そいつは殺した方がよいが。
「ダリル、この戦争を止めるのに力を貸してくれないか」
「私、ですか?」
「ああ、お前がいたら止まるかもしれない」
もしかしたら、殺した殺されたという恨みは重なり、止まれないところまで来てしまっているのかもしれない。
だが、リヒトの願い、俺の願いを叶えるためにもここは止めて見せよう。
世界を救うのだ。
皆が手を取り合える世界を作るためにも。
「皆準備は良いか?」
「大丈夫です」
「いつでも行ける」
「我は大丈夫じゃ」
俺の仲間達は準備できている。
後はダリルや他の奴隷達なのだが、俯いてうんともすんとも言わない。
「ふう、すまないダリル」
「え、きゃ」
ダリルを肩に抱える。
他の奴隷は知ったことではないために、そのままだ。
「これからすることを許してくれ」
「あ、あばばば」
そして、そのまま戦場へ全速力で向かった。




