奴隷達との会合
奴隷達はすぐに見つけることができた。
「大丈夫か!?」
この層でのセーフティゾーンはたった一つだけ。
ボスの部屋の一歩手前しかないらしく、迷うこともなく来れた。
「助けに、来てくれた……」
意識が朦朧としながらも、こちらを見た子が獣人族の宝――王家の娘なんだろう。
そして、その周りには同じく奴隷達が寝ている。
手遅れとなった者が一人と、意識を手放しているが何とか命は手放していない者が二人。
「もう、俺が来たからには大丈夫だからな」
「は、はい。あり、がとうございます……」
まずは奴隷全員に回復魔法をかけてやる。
「コマチ、メル頼めるか?」
「任せてください」
「合点承知」
回復魔法をかけてもらっている間に、俺はまずこれからどうするのかを考えなくてはいけない。
どうやって、ここから脱出しようか?
天井を突き破って行くという強硬手段は、奴隷達には耐えれそうにないし、もしもの時に対処が難しくなる。
かといって、ゆっくりとしていられないのが現実だ。
悩んでいる間にも回復魔法である程度まで治療が進み、歩けるまでは回復できた。
「というか、攻略を始めてからどれくらい経った?」
「我の体内時計で言うたら、もうすぐで二日になりそうじゃのう」
「私もそれぐらいです」
ミアは魔物の時の野生の勘、リーシャは培った経験から時間を予測する。
そして、それは大いに間違っていなかった。
もうすぐで二日経つ。
「あ、あの」
「ん、どうしたんだ?」
どうすれば間に合うか、考えていると獣人族の宝と呼ばれる子が声をかけてきた。
「えっと、助けに来てくれてありがとうございます。私の名はダリルと言います」
そう言って、お辞儀をする。
綺麗なお辞儀をしているのに、俺はつい後ろでゆらゆらと動いている尻尾を見てしまった。
すごく、もふもふしたい尻尾だ。
王族なので、したら権力で殺されそうだが。
見られていることに相手も気づいたのだろうが、その事は指摘せずに話を進める。
「すいませんが、ここから私達を出してくれたらその後どうするおつもりですか?」
彼女の目は真剣だった。
奴隷の中で仲間意識があるのかもしれない、そして、獣人族は仲間をとても大切にする種族だ、と聞いたことがある。
「ここから、出れた後のことか?」
「はい、そうです」
結論から言えば、彼女は獣人族の国へと返され、彼ら奴隷達は奴隷商の手元に戻されるだろう。
いつまでも騙しとおせるわけでもないので、そのまま答える。
「私はあの国に戻りたくありません」
それが第一声だった。
顔が暗く曇る。
自分の国に帰りたくないとは、何かあったのだろうか。
「だが、さっきも言ったとおりだが、戦争が終わらない」
厳しいことを言うのだが、わがままで帰りたくないと言われたら、その分何千人という人が死ぬだろう。
そして、それは回り回って国に影響が出ることになり、他の人の生活までもが影響されてくる。
それを分からないダリルではないと思うが。
「分かってます。しかし、あの国には悪魔がいる」
悪魔。
リヒトの記憶の中で出てきたのも悪魔と呼ばれていた気がする。
しかし、悪魔がいた場合国は混乱に陥り、戦争どころではないはず。
「悪魔ってのはどういうやつなんだ?」
「人の皮を被った化け物です。そいつは唐突に現れました」
最初は良い顔をして、近づいてきた。
誰もなぜか気づかずにそいつを受け入れてしまう。
「私はメフィルと申します。以後お見知りおきを」
そう名乗った悪魔は正体をばらさず、うまく獣人の国へと潜り込んだ。
貴族はそいつのいいなりとなり、王族はそのためにそいつを無視できず言葉を聞き入れる。
私はおかしいと言ったのだが、聞き入れてくれなかった。
唯一私に賛同してくれたのは、侍女のバーバラだけ。
だから、私はそいつが悪者である証拠を掴もうと、そいつが寝泊まりしている部屋の前で聞き耳を立てた。
すると、中からは会話声が聞こえてきたのだ。
「作戦はうまくいっているよ。ああ、そちらもうまくいっているようだね」
「 」
誰と話しているのかは、分からなかったがそんなことは大切ではなかった。
話し相手が言った一言が耳に残ってしまう。
彼は悪魔であると。
「はっ」
気づけば話し声が止んでしまっている。
足音がこちらへと向かっているのが、分かった。
「王女様はなんでこんなところにいるのかな?」
扉を開ける前に急いで逃げなくては、と足音を立てず戻ろうとした時。
目の前にはその男がいた。
部屋にいたはずなのに、一体どうやって。
「もしかして、今のを聞かれたのかな?」
「……」
その時に何か言えていれば、何とかなっていたのかもしれないが言葉が出てこなかった。
それを見て前の悪魔はほくそ笑む。
とてもとても愉快だというように。
「しられちゃったら、しょうがないよね」
今だ、今あいつが油断している時が好機。
そう思い、すぐに後ろに向け駆ける。
獣人族の足の速さはどの種族よりも劣らない。
実際にそれはどの種族も認めていることで、純善たる事実だった。
悪魔族を除いては。
「どうしてそんなに急いでいるの?」
「きゃっ」
横から平行して走っている悪魔に驚き、躓く。
まずい、早くここから逃げなくては。
「そんなに急いでもいいことはないよ。すでに君の人生は決定されたんだからさ」
辺り一面が暗くなる。
夜ではあるのだが、獣人族にとって闇の中であっても十分に活動ができるが、今ここにある闇は夜の暗さを超えていた。
何も見えない。何も聞こえない。
あの悪魔の声でさえ聞こえなくなる不気味さに体が震える。
「あ」
体の震えが頂点まで来て、そして、彼女の意識がプツンと切れた。
そこからは何も覚えていない。
ただ、起き上がったら自分はぼろぼろの布きれを着て、檻の中に入っていた。
「だから、あの国に戻る前にその悪魔をどうにかしなくてはいけない」
聞いた限りでは、リヒトの記憶にある悪魔とは一致しない。
リヒトの中で出てきた悪魔はあまり理性的ではなかった。
それに対し、獣人の国にいるという悪魔はとても賢そうだ。
「今回の戦争もそいつが企んで起こしたことだと私は思います」
もし、そうであればそいつを倒した方がよさそうだが、どんな奴なのかも分からない。
それに、俺達で倒せるのかも怪しいところだ。
「ふむ、そこまで言うのであったらトワ様よ、確かめてもいいと思うんじゃが」
「いや、確かめるにしてもまずこのダンジョンから抜け出せないことにはな」
「大丈夫、私がここの変態魔術師と話をつけるから」
コマチが上を向きながら答える。
確かにリヒトの記憶を持っているコマチなら、話も聞いてもらえそうだ。
その方がダンジョンから抜けるのが早そうだし。
「じゃあ、上を目指すか」
ダリルと他の奴隷達も承諾し、この階層のボス戦へと挑む。
今回は奴隷の護衛を着けなくてはいけないので、戦闘要員が最低でも一人減る。
「では、メルが奴隷達を守ります」
「じゃ、後は戦闘に参加ということで」
そう取決め、ボスが居る部屋へとつながる扉を開いた。




