新しい仲間
遅くなりました。
そして、翌朝――――。
斗和は今、用意されていた動きやすい服を着て、騎士団専用の修練場に居た。
時間は……わからないが、太陽が顔を見せ始めたころ。
朝のマリルさんの「おはようございます」ニコッという挨拶にドキがムネムネし、よい朝だと思った矢先である。笑顔のままマリルさんが取り出したのは、動きやすそうな服とガスベルさんの朝の鍛錬に来いという手紙。
いやだいやだと駄々をこねようかと思案したとき、マリルさんの特技である『早着替えさせ』が発動し、マリルさんに引きずられ連れてこられて今に至る。
ってかマリルさんの腕力強くないか……。
普通の女性があんなに強かったなら、自分の力はこの世界では最下位に近いのかもしれない。
「よし、では鍛錬を開始する。この武器を使え」
完全フル装備した甲冑姿のガスベルさんから、刃を潰した鉄剣を渡される。
渡された鉄剣はすごく重く、自分ではうまく使えそうにない。
モタモタしていると、ガスベルさんは剣を構え、前に踏み出した右足を強く踏み込んでいるようだ。
「よし、いくぞ!」
「え、ちょっ……」
ガスベルさんの右足が踏んでいる地面が破裂した瞬間、目の前にガスベルさんが現れ、濁流のような殺気に見舞われ、そこから自分の意識が飛んでいくのが分かった。
≪危険察知Lv1を習得しました≫
「はっ」
目が覚めると自分の部屋のベッドの上にいた。
体を触ってみるが、特に痛いところも無く異常はないみたいだ。
それにしても、ガスベルさんの殺気はまじでやばかった、目の前に来たときはまるでライオンのような猛獣と戦っているかのようだった。もちろん、ライオンなどの猛獣と戦ったことなど一度も無いが。
「ご主人さま、おはようございます」
横から声をかけられ、体がビクッとなる。
横を向くとそこにはマリルさんが立っていた。
「ご主人様が起きてもぼーっとしていたので、どこか具合が悪いのか心配していました」
「ああ、すみません。大丈夫です」
「私が修練場に着いた時にはもうすでに、失禁してたおれてましたからとても大変でしたよ」
確かに服装が変わっている。
ってことは――。
「見ちゃいました?」
「ええ、ばっちりと。可愛らしかったですよ」
「あああああああああ……」
マリルさんは笑顔で見ましたよ宣言を突きつける。そう、俺の息子を見たと。
それに対して自分は赤面した顔を隠すように布団の中に潜った。
まじ、恥ずい。
それから、数十分かけてショックから立ち直り、もうすぐで昼食の時間になるため厨房に向かおうとした時、自分の部屋のドアがノックされ、ドアが開く。
「おう、勇者の坊主。さっきはいきなりすまなかった。詫びといっちゃあなんだが、これはメフィア様と俺からだ」
いきなりのガスベルさんの登場で、さきほどの体験が頭によぎり体を強張らせたため、渡された重い袋が手から滑り落ちそうになった。この袋の中を見てみると、金貨がぎっしりと詰まっているのが見える。
「いやぁ、メフィア様にこっぴどく怒られちまったぜ。その袋には300万パラルある。その金を使って奴隷商で奴隷を買うか、魔物商でテイム済みモンスターを買うかして、ちょっとでも自分の身を守れる戦力を手に入れたらいいぞ」
その後、ガスベルさんに聞いて確認すると、1パラル=1円だということが分かった。
つまり、300万円手に入れたということだ。
あまりの大金に冷や汗が出てくる。
「どうしよう、このお金……」
ガスベルさんのちょっとした暴走の償いとしてのお金なのだが、生きてきた中でこんなに大きなお金を持ったことがないため、途惑ってしまう。
「ご主人様が自由に使っていいと思いますよ。買うのなら奴隷の方がおすすめです、モンスターはあまり強くないのに値段だけは高いですから、だいたいは貴族のペットみたいなのしかいません」
マリルさんは自由に使っていいと後押しをしてくれる。
確かにこのままだったら他のクラスメイトの足手まといになるだけだ。それならば、自分のユニークスキルにある『観察者』の実験もかねて、奴隷を買うのもいいかもしれない。
「分かった。奴隷を買いに行きたいんだけど」
「はい。馬車の用意をしてきますね」
マリルさんが王族専用の馬車を用意して、どうぞと言われたときは自分との場違い感が半端なく普通の馬車を用意してもらった。注目も浴びたくないしね。
城門を出て、馬車から町の様子を見ていると、前に座っているマリルさんが町について説明してくれた。
簡単にまとめると、この町は同心円状にできており、中心が王城、その周りの第一区画が貴族や王族の親戚の居住区で一般の人は入れない、またその周りの第二区画は庶民の居住区で主な商業地域であるそうだ、そして第三区画は治安が悪く、前科もちや犯罪者などが蔓延っておりスラム化しているようだ。
マリルさんの説明を聞いているうちに、馬車が一つの店の前に停まる。
どうやら、貴族御用達の奴隷商店についたようだ。
「いらっしゃいませ。今日はどういった御用でしょうか」
糸目、小太りの中年の男性が店から出てきて笑顔で接客をする。
「えっと、今日は奴隷を買いに来たんです」
「そうですか、では、ささこちらへ」
中年の男性――奴隷商人は中にどうぞと丁寧に対応してくれている。
マリルさんをちらちら見ているため、貴族だと思ったのだろう。マリルさんがメイド服を着ているため。
奴隷商店の中に入り、奴隷商人と向かい合わせで座る。
「私はリブックと申します、以後お見知りおきを。それで、お求めの奴隷はどのような奴隷でしょうか。労働奴隷や、性奴隷など、うちは豊富に取り揃えております」
「えっと、戦闘のための奴隷が欲しいんですが」
「わかりました、少しお待ちください。おい、戦闘奴隷を連れてこい」
リブックさんの横にいる三人の男たちが部屋の奥に消えていく。
数分して、男の後ろにぞろぞろと首に鎖をつけ、全身を覆う長いローブを着た人達が続いて部屋の奥から姿を見せる。
奴隷の姿は想像していたのとは違い、顔や手などやに乱暴された傷のようなものは無く、衛生管理も十分行き届いているようだ。そのことをリブックさんに聞いてみると、商品を大切に扱うのは当たり前で、また法律で奴隷に過度な暴力などは禁止されているらしい。
最後尾にいる奴隷に目が留まる。
「まず、こちらの奴隷は――」
自分から見て右から奴隷の紹介が始まった。没落貴族の三男坊で――とか、剣術スキルがLv3で――などのその奴隷の長所を一人ずつ言っていたが、自分の興味は一番左の奴隷にあり、あまり紹介の言葉が耳に入らなかった。そして、ようやく自分が一番興味を持った奴隷の紹介の番となる。
「そして、こっちの奴隷は……耐久力だけはあります」
俺は、あまりの簡素な紹介にずっこけそうになった。
なぜ自分が一番興味を抱いていたかというと、野郎のなかで一人だけの女性だったからだ。紅くさらさらとした長い髪に、きめ細やかな白い肌、少し釣り目だが整った顔立ちであり、どストライクである。
マリルさんはそんな斗和を冷え切った眼で見ていたが、斗和は気づかない。
「最後の奴隷が気になるんですが」
「最後の奴隷はですね、何度も買った方から返却されるんですよ。攻撃が使えないや、夜のご奉仕を強要してあそこを潰された方もいて。そして、彼女は人間じゃないんですよ。おい、ローブを脱げ」
彼女はローブを脱ぎ、全身が見れるようになる。半袖短パンという格好のため魅力的なふとももがあらわになるが、それよりも気になったのが手や足の方に生えた赤い鱗と彼女の臀部から伸びている赤い鱗で覆われた尾である。
「彼女は竜人族のおちこぼれで、竜人族に捨てられたところを奴隷にされたわけです」
竜人娘来たーーー。
すごく異世界に来たという実感が感じられたのではないのだろうかと思う。
即、買うことにする。
「この娘を買いたいです」
「ですが、戦闘の役にたたないと思いますが」
「いえ、大丈夫です」
スキル『観察者』を試すにはもってこいだ。別に他意はない、ないったらない。
マリルさんの視線がより一層突き刺さる。
その後は、契約書にサインして買うことに同意する。返却しないのを約束に安くしてもらい、120万パラルで購入した。
「我はリーシャと申す。ご主人、よろしく頼む」
「うん、よろしく」
リーシャが仲間に加わった。