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知識の番人の正体

 「思い出した」


 コマチが伏せていた顔を上げ、知識の番人を正面から見る。

 その目は、どこか温かさを感じるものがあった。


 「それで、私は誰なのかな?」


 知識の番人は期待するように、コマチを見つめる。

 そして、その口から出た名は斗和も知っている者。


 「ヴォルフ、だよね」


 その言葉を聞いて、俺は愕然とした。

 ヴォルフはリヒトの従魔の一人のはずだ。

 それも、確か魔王に特攻攻撃をして爆発し死んでしまった。


 「ヴォルフ、ヴォルフ……何と、何と懐かしい名だ」


 まさか、このおっさんがヴォルフなのか?

 記憶で見たヴォルフとは似ても似つかないが……。

 知識の番人はヴォルフという名を聞いて、とても感極まっている。

 どうも、彼がヴォルフであることは正解だったらしい。


 「でも、なんで知識の番人がヴォルフだと分かったんだ」

 「それは、私と一緒だから」

 「と言うと?」


 コマチが言うには、知識の番人となっているヴォルフはコマチと一緒で、魔法生命体らしい。

 なので、姿かたちは自由、自分を知らない彼はなぜかおっさんのような姿を取っているということなのだろう。

 そして、これに関しては魔女が関わっているのは明確だ。


 「たぶん、あの変態魔術師が生き返らしてくれたんだと思う」

 「けど、会う前にリヒトが死んでしまったと……」

 「うん、残念だけど」


 なので、この日まで知識の番人として自分の記憶の無いまま置いていたのかもしれない。

 それは悲しませないためなのか、他に何か理由があるのかは分からないが記憶を追体験した俺もなぜかうれしさに、心が満たされていく。


 「そうだったんですね」

 「だが、リヒトもレーゲンも、もう……」


 リーシャが言うとおり、リヒトとレーゲンは完全に眠ってしまった。

 俺達に力を託して。

 もし、俺達がリヒト達に会わなかったら彼は会えていたのかもしれない、と思うと胸が締め付けられる。


 「トワ、大丈夫」

 「コマチ」


 その表情を読み取ったのか、手を握ってくれる。

 そして、コマチは俺が落ち着いたのに気が付いたのか、手を離しヴォルフの方へと歩いていく。

 コマチの背が高くなっていき、その容姿は見たことのある者へと変化した。


 「あ、ああああ」

 「ヴォルフ」


 名を聞き、記憶を取り戻したことで、記憶の濁流にのまれるヴォルフにコマチは声をかける。

 その声はいつも聞く可愛らしい声ではなく、ヴォルフにとってもっとも聞きたかった声。

 地面でうずくまっていたヴォルフが顔を上げると、そこにはリヒトが立っていた。

 ぐしゃぐしゃにした顔が長年の悲しみを物語っているように感じる。


 「リ、ヒト様」

 「ああ、そうだよ、ヴォルフ」

 「リヒト様!!」


 ヴォルフは知識の番人の姿から元の銀狼の獣人の姿へと変貌する。

 そして、コマチの腰へと膝をつけ、抱き着いた。


 「会いたかったよ、ヴォルフ。お前が魔王に特攻したことは今でも怒っているんだ」

 「すいません、でも良かった。リヒト様が生きていて……」

 「残念だが、これはリヒトであって、リヒトじゃないんだ。リヒトの記憶の残骸と言った方が正しいのかもしれない」

 「そ、それでは、もうリヒト様は……」


 リヒトとなったコマチは今までのリヒトの道のりを手短に伝えた。

 そして、今は斗和がリヒトの意思を受け継いだことも。


 「すいません、取り乱しました」


 ヴォルフは名残惜しそうにコマチから離れ、こちらに向く。


 「ありがとうございます。私達の夢を継いでくれて、リヒト様と合わせてくれて」


 謝意の言葉とともに、覆っていた世界は解かれていく。


 「先に進んでください、あなた達はこの上の奴隷達を救いに来たのでしょう?」

 「ヴォルフはどうするんだ」

 「私は一度、魔女の所に話をしに行こうと思います。彼女もリヒトの事を知りたいでしょうから」

 「そうか」


 ヴォルフはその事を伝えるとともに、ダンジョンの壁へと近づき、その体を壁の中へと滑らしていった。

 すぐにその姿は見えなくなる。


 「会えてよかった」


 コマチが少女の姿へと戻り、ポツリとつぶやいた。

 その言葉はコマチが言ったというよりかは、中に残滓として存在するリヒトがつぶやいたかのように見えた。


 「お、ここに階段があった」


 ミアが指さした先には、さっきまで無かった階段があった。

 どうも、ヴォルフは置き土産を残してくれていたようだ。


 「じゃあ、俺達は急いで奴隷達を助けにいこうか」


 また、ヴォルフには落ち着いた時に会いに行けばいい。

 そして、俺達はヴォルフがくれた階段で次の層へと移った。

















 獣人族の陣地にて。


 「なあ、まだ戦争は始まらないのかよ」

 「……」


 メフィルは悠太に話しかけるが、悠太は何も話さない。

 身動きもせず、座ったまま何もしようとしなかった。


 「暇だよな。もう俺達から仕掛けちゃったらいけないかな」


 その声は外で見張っていた獣人族の兵士達に聞こえるような声で言う。

 何か、慌てたかのような音が聞こえたが、それでもメフィルと悠太がいるテントの中には入ろうとはしなかった。

 なぜなら、入った瞬間に死んでしまうから。

 愚かな獣人の兵士の一人が死んでいったのを見たため。


 「そうだ、ちょっと遊んでこようかな」


 メフィルはテントの外に出る。

 外には獣人族の兵士が二人立っていた。

 そして、中から出てきたメフィルを見て、その目に恐怖を浮かべる。


 「何もしないよー、君たちには。邪魔をするならどうかは分からないけど」


 それでも死への恐怖が消えない兵士を無視して、空へと浮遊する。

 向かう先は商業の国が構えている陣地。

 ちょっと気になったのだ、どのようなものなのか。


 「うーん、こちらはなんか弱弱しいね」


 獣人のような数はなく、ステータスもそこまで高くない。

 これは正面からぶつかったら、すぐに前線が崩れてしまうだろう。

 なんともあっけない勝敗になるかも。

 それは面白くない。


 「そうだな、ラーマには先制攻撃の機会をあげることに決定!!」


 すぐに下にいる命令を出している隊長の一人に魔法をかける。

 すぐにその隊長は目の光を失い、するはずの無かった命令を下す。


 「魔道砲を持ってこい!!」


 一般兵に魔道砲を持ってこさせ、その砲口を獣人族の陣地へと向けさせる。

 この距離で撃ったとしても獣人族の陣地までは届かない。


 「では、練習をする」


 そう言って、魔道砲に魔力を込めさせる。

 命令された兵士は戸惑っている様子だった。

 それは獣人族への威嚇になるのではないか、と危惧している者もいたが、彼らは一般兵であり異議を唱える権限はない。


 「打て!!」


 隊長の合図とともに放たれた魔道砲は、何もない草原へと落ちていくのだろうと兵士達は想像していた。

 だが、魔道砲から放たれた鉄の玉は勢いを緩めない。

 物理法則に逆らうかのように、そのまま獣人族の陣地へと突き刺さった。


 「何事だ!?」


 各隊長達が駆けつけてきた時には、すでに手遅れで。

 放たれた砲弾は戻らない。

 その攻撃により、あと少し先だった開戦が始まろうとしていた。

 その様子を見てメフィルはほくそ笑む。


 「ああ、楽しかった。これからもっと楽しそうだから見逃せないね」


 くすくすと笑いながら悪魔は、獣人族の陣地へと戻った。



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