戦略会議
斗和達がダンジョンを攻略し始めて、もう一日が経った。
残された時間は後一日。
ラーマの国の兵隊は獣人の国との国境辺りにすでに配備されている。
そして、互いに牽制し、時が経つのを今か今かと待ちわびていた。
「これは、まずいですなぁ」
一般兵達が外で警備をしている中、その後ろに配備されたテントの中では、各隊長達は偵察からの情報に驚きを隠せずにいた。
あまりにも敵の兵士の数が多いこと、そして、装備の質がこちらを上回っていたこと。
純粋な戦力で負けているということだ。
そして、その一人一人が獣人であるため、人間族より遥かに地上戦でのスペックが高い。
とてもまずい状況だ、それは誰が見ても分かることだった。
「それで、どうしますかな」
「……」
隊長の一人が声を発するが、それに答える者はいない。
いや、答えれる者がいないのだ。
圧倒的不利の状況では奇跡が起きない限り、生き残ることはない。
ましてや、勝つことなど想像もできない。
「私の魔術師団を前線に近いところに配備しましょう」
まず、最初に沈黙を破ったのは魔術師長のシャルだった。
「と、いいますと」
「肉弾戦では相手が格段上、なら相手が使えない手は魔法だけだ」
「確かにそうですな、しかし、なぜ前線に?」
普通の戦略としては、魔術師は後ろから援護するというのが常識である。
それを前戦に持ってくることが理解できない。
それに対し、シャルはその意味が分からないことが大切なんです、と告げた。
「相手の意表を突く戦略というのが今回の戦いで求められると思うんですよ」
「はあ、それで意表を突くために魔術師は前線に出すと?」
「それだけが目的ではありません」
そこからシャルが語ったのは今まで、聞いたことのない戦略。
それは、誰一人しようともしなかったもの。
「魔術師と兵士で組を作り、肉弾戦を有利に進めましょう」
話は簡単、遠くから支援していたのを、近くでするだけだと言ってのける。
言うは易し、だがもしそれで魔術師を失うのはとても痛い。
魔術師は各国に対しての防波堤の役割も担っているのだから。
「それで失敗は許されんぞ」
「確かに斬新な作戦だが、そううまくいきますかね」
「魔術師はもろいから、後ろで支援しているのだろう」
「そうだ、それを前に持ってきて戦ってみろ、すぐ死んでしまうぞ」
散々な言われようだとシャルは思う。
魔術師はもろい?それはいつの時代を言っているのだろう。
確かに昔の魔術師は守られている存在だった。
しかし、今は違う。
「なら、少し試してみますか?」
シャルはあらかじめこうなるだろうと予想し、テントの外で魔術師の一人を待たせていた。
入るよう外に声をかける。
「失礼します」
言葉とは裏腹に明るく元気な声で入ってきた幼い女子。
その名もクエル。
研究員の中では一番年下の彼女だが、魔術の才能はとても優秀であり、戦闘訓練も受けている。
「彼女と兵士の一人を戦わせて、証明しましょう。クエルもそれでいいかな?」
「はーい、わっかりました」
なんともこの空気を感じていないのか、能天気な返事をするクエル。
シャルがこのクエルを選んだ理由は、一番年が低いからという他に、戦闘魔術が研究員のなかでダントツに優れているという理由がある。
まあ、彼ら隊長達には教えはしないが。
「こんな小娘に前線で命を張っている兵士達が劣る訳がない」
「では、戦うんですね」
「ま、待ちなさい。今戦って消費しても意味がないでしょう」
「それはそうなんだけど、じゃあこれ以上の案はあるのかな、勝てそうな案は」
少し煽るかのように言う。
それに対し、老年の隊長は何も言い返せずに唸る。
そんな勝てる戦略なんてあるはずがない、またこれ以上の妙案はないとシャルは思う。
「じゃあ、決闘をすることで決定だな」
「はい、それでそちらが戦う兵士を準備してほしいのですが……」
「そんなもん用意する必要もねぇ、俺が戦ってやるよ」
そう言ったのは隊長の中では一番の若輩者。
年若いがゆえに血気盛んであり、確かにこの中では上位に位置する力を有するだろう。
腕力で言えばだが。
「なんと、隊長格自らがお相手して頂けると」
「ああ、その方が俺も安心できるからな」
「では、すぐにでも決闘の準備をさせてもらいます」
そう言って、会議に使われているテントのすぐそばに決闘の場を設ける。
気が変わらない内にすぐにやるのがよい、と思ってこれまた用意をしていた。
「ずいぶん準備が良いですな、シャル殿」
「あはは、たまたまですよ」
まるでここまで話が進むというのが分かっていたかのように、と隊長達はそれぞれ思う。
若輩者を除いては。
「よし、ここで戦うという訳か」
広さはそこまで広くはない。
この広さだと魔術師にとっては不利に近いはずだ。
「では、準備をお願いします」
「俺は大丈夫だぜ」
「クエルも準備万端でーす」
クエルと若輩の隊長は互いに距離を開け、留まる。
魔術師にとっては近すぎて、戦士にとっては少し遠い距離。
「では、始めてください」
シャルが開始の合図を言った瞬間、地面が爆ぜる音が聞こえた。
飛び出たのは若輩の隊長。
まるで距離が無かったかのようにクエルとの距離は掻き消える。
息つく間に剣を振り下ろした。
もらった――。
「甘いのでーす」
剣が振り下ろしたが、そこには空気があるだけ。
気が付けばクエルは後方に立っていた。
「次はこっちの番だよー」
「だが、そうはさせねぇ」
有り余る反射神経と運動神経をフル活動し、後方へと剣を届かせる。
が、そこにはいない。
一体どこに……。
「はい、ドーン」
背中に衝撃が走り、前のめりにずっこけそうになる。
また、後ろを取られた。
振り返るもそこにはすでにクエルの姿はいない。
「ぐがっ」
次は横から衝撃が飛んできた。
だが、姿が一向に見えない。
そこで彼は透明化の魔法を使っているのだ、と予想する。
「やられっぱなしはちょっと駄目だぜぇ」
目を閉じて、視覚以外の感覚を研ぎ澄ませる。
風を感じる、流れる土の匂いを感じる、かすかな跳ねる足音を感じた。
そして、奇妙な風の揺らぎを感知する。
「そこだ」
足音が止まり、衝撃を放ったところに剣を突き立てる。
衝撃を切り裂き、それを放った本体もろとも突き刺そうと剣は一直線に伸びる。
ガギンッ。
何か固い物に阻まれた音が響いた。
「あたりのようだな」
「ありゃりゃ、ばれちゃいましたかー」
そして、透明化を解いたクエルが姿を現した。
そのクエルの上には6つの火球というおまけつきで。
「はい、受け取ってくださいね」
「んなっ、そんなんありかよ」
そして、火球が降り注ぐと思われた時、シャルの止めの声が聞こえた。
これ以上やったとしても無意味で、けが人がでそうだったからだ。
それに隊長の彼も直接戦って、理解しただろう。
「どうでしたか、騎士隊長の皆さん。我ら魔術師団は彼女のように戦うことが出来ます」
昔からあった魔術師像を払しょくするかのように。
俊敏で接近戦を得意とする魔術師もいるのだと伝えるかのように。
シャルは微笑んで言う。
それに対し、先ほどの戦いを観戦していた隊長達は言い返す言葉はなかった。
「それで、私の戦略はどうですかね」
これは頷くほかないだろう。
魔術師は今、接近戦が苦手という弱みを握りつぶしたのだ。
反対の意見は出ようもない。
「そうじゃのう……ではさっそく編成について会議を始めようかの」
編成についての会議は、流暢に進みシャルの言うとおりの陣となる。
それは、歴史上初となる魔術師、兵士一体の陣。
それが本番で効力を発揮するのかは、まだ誰も分からない。




