知識の番人
天井を切る、治る前に飛ぶ。
切る、飛ぶ、切る、飛ぶ。
何度も繰り返しながらダンジョンの最上階付近を目指す。
「なんか、変わり映えしないな」
このダンジョン、上に行けども階層の雰囲気は変わらない。
景色も変わり映えしないために、進んでいるのかが分からなくなりそうだ。
そして、このダンジョンの一番の特徴である罠なんだが、時に天井を破壊し進もうとすると発動することがある。
それでも、普通に攻略するよりかはましなのだが。
「よし、次々」
「了解です!」
いつも通りの掛け声で、いつものように天井を切るために抜刀の構えをするミア。
それを眺める俺達。
と謎のおっさん。
「いや、お前だれだよ!」
気配に一切気づけなかった。
それはリーシャ達も同じようで、すぐさま距離を取る。
「そんなに警戒しなくても、危害は加えませんて。危害は」
何か含みのある言い方だ。
そして、その鼻の下の立派な髭を右手でなでる仕草が胡散臭さを醸し出す。
おっさんはこちらを見て、たんたんと足を踏む。
「警戒心が強いことは良い事だ。だが、時には人を信じることを覚えたほうが良い」
「で、誰なんだよ」
「自分から名乗るのが礼儀ってもんじゃないかな」
言い負かしてやったぜ、という風にドヤ顔をする。
実にうざい。
このままじゃ拉致があきそうにないので、こちらから自己紹介をする。
「トワだよ。で、お前は?」
「お前とは、敬語ってもんを知らないのかね、最近の若い者は」
こちらに向かってゆったりと歩き、俺の攻撃範囲ぎりぎりのところで止まる。
そして、仰々しく手を広げ。
「まあ、名乗ってやろう。それが礼儀であるからな、私の名前は知識の番人、このダンジョンの主に助けてと懇願されたのでな、私自ら君たちを食い止めに来たんだよ」
「知識の番人、面倒くさいのが出てきた」
「コマチ知ってるのかのう」
「こいつは変態魔術師に封印されていたはず、その主が意図的に開放したのか……」
「こらこら、人の目の前でこそこそ話はいけないねえ」
怒ったかのように睨みつけるが、仕草が嘘くさい。
なんともこの知識の番人の行動一つ一つが作り物のように見えてくる。
コマチとリーシャがこそこそ話をしている事に怒っている間に、メルと目配せをした。
それは、こいつを一瞬で叩きのめすという合図。
「はっ」
「ふっ」
メルは風の刃を合計で8つ生成、一息つく前に知識の番人目掛けて放つ。
それを確認した俺は、知識の番人が風の刃を防いだ隙を見て攻撃を入れるよう、風の刃の後ろを追随する。
風の刃が飛んできていることに気が付いたのか、こちらを見て呆れ顔を作った。
「はあ、君たちは野蛮人かね。もっと知識を大切に使うことはできんのかな」
こちらに気づいたが、もう風の刃は知識の番人に届くため防ぐしかない。
防げず、そのまま倒れ伏すなら万々歳なのだが。
どうも、現実はそんなに甘くないようだ。
「知識はいつだって、力に劣らないのだよ」
俺の前を飛んでいた風の刃は知識の番人に触れた瞬間に、消える。
まるで何もなかったかのように。
防いだところを追撃しようとしたが、これは無理そうだ。
素直に後退する。
「やっぱり無理」
「どういうことだ、コマチ」
「私達はこいつの世界に巻き込まれた。つまり、ザワ―○ドを使われた」
「それじゃ、俺達の時間は止まってるはずだがな」
つまりはコマチの言いたいことは、こいつの世界に連れ込まれたから、さっきのような不可思議な現象が起こったということだ。
しかし、いつの間に。
周りを見るがどこか変わったところもなく、いつものダンジョンの風景。
「どこにも変わらないように見えるけど」
「知識の番人特有の不可思議エネルギー?がここを覆ってる」
「そうなのかの?」
「私には全然感じれないということは、魔力ではないという事ですか?」
「そう」
そして、この空間に連れてこられたのは、最初にあいつが足を二度踏んだ時ではないかとコマチは推測する。
その事について、知識の番人にも聞こえるような声で話す。
「まさにそのとおり、そこの少女の推測どおりです。良い知識を持ってますね、しかし、さっきまでの話ぶりからすると、私をお知りでしたかな?」
とぼけるような態度で聞いてくる。
コマチはその問いに関しては、無言を貫いた。
「ああ、悲しきかな。嫌われてしまったのですな、では、遊びもこれまでにするとしましょうか」
知識の番人の今まで浮かべていた薄ら笑いが消える。
まるで、ここからが本番だと言うように辺りに緊張感が漂う。
そして、知識の番人は右手の人差し指を上に向かって振り上げた。
来る。
それは魔法攻撃か、それともその不可思議なエネルギーによる攻撃なのかは分からない。
なので警戒を最大限まで引き上げた。
「第一回、魔女の塔クイズ大会!!」
真剣な表情で放たれたその声はこの空間を響かせる。
「はあ?」
あまりの展開に、俺の口からこぼれたのは疑問の声だった。
商業の国ラーマと獣人族の国との間の平原にて。
そこでは、獣人族の国の兵士達が野営の準備をしていた。
次の日にはラーマの国と戦わなくてはいけないために、強襲を防ぐ意味合いも込めて平原一帯を広く使っている。
広く使っていると言っても、その兵士の数は恐ろしいもので、強襲を受けた際の迎撃システムもちゃんと用意されていた。
それを、使い魔を使って確認したラーマの魔術師は歯噛みする。
あまりに想定していた数より多い。
獣人の国は他の国とも戦争を繰り返しているため、国の防衛のためにも多くても1万ぐらいだと思っていたのだが……。
予想は外れ、相手の兵士の数は全部で約3万ぐらいいることが確認できる。
「王に報告せねば」
すぐに使い魔との通信を切り、急いで王のいる会議室に向かう。
着いてすぐにノックもせずに入ると、そこには各大臣や部隊長が今回の戦いの作戦を練っている最中だった。
その中にはラーマ王の姿も見える。
「おい、お前。ノックもせずに無礼ではないか」
近くにいた農業を担当している大臣が、こちらを睨むように見る。
すぐに、片膝を着き頭を垂れてから謝罪。
そして、今回の敵のおおよその数を王に伝えに来たことを言う。
「ご苦労、してその数はどれくらいだ」
「はい、それが予想より多く3万以上かと思われます」
「な、なんと」
王の近くにいた部隊長の一人が驚きに、声を上げる。
他の部隊長や大臣も声を上げなかったにしろ、その言伝に驚きを隠せなかった。
それは、王も例外ではない。
しかし、一国を治める王であるからこそ動揺すれど、平静をすぐに取り戻す。
「報告をありがとう。君はすぐに持ち場に戻ってくれ」
「はっ、失礼します」
その魔術師はすぐさま元来た扉に戻っていった。
王が口を開く。
「我らの国と獣人族の国、数はあちらが多いがこちらにはさっきの彼のような魔術師がいる」
そうだな、と魔術師長に目を向ける。
魔術師長のシャルはその視線に任せてくださいと、頷いた。
それから、何時間も会議は続いていく。
獣人族との戦争まで、もうそんなに時間は残っていないのだ。




