ラーマの魔術研究所
真っ暗な廊下を進んでいく。
「結構長いなー」
斗和達は長く一直線の廊下をもうかれこれ十分ほど歩いている。
城の構造ではこんな空間はないはずなのだが。
「もしかしたら、魔法で空間を歪ませているのかもしれません」
「そうじゃのう、魔力があちらこちらから感じられるしの」
「閉じ込められた?」
コマチが不吉な事を言う。
そんな事はないと思いたいが、もしもそうなら実力行使にでるしかない。
「そうですね、それなら実力行使しかないですね」
あ、ミアと意見が被った。
最近、より一層脳筋化が進んでいるミア。
自分もミアに毒さえているのではないかと思う。
「ま、まあ、それは最終手段だな。まだ、そうと決まったわけじゃないし――」
『あ、ごめん。たどり着かないよね、防衛装置作動してたわ、てへっ』
あの扉から聞こえてきた声が廊下全体に響く。
ってか、防衛装置が作動していたからたどり着かなかったのかー。
そういう事なら。
「ぶっ壊そうか」
「そうしちゃいましょう、トワ様」
ミアと同時に拳を構え、その拳に魔力を込める。
イメージは爆発。
拳が壁に触れた瞬間に粉砕するぐらいのものを食らわしてやる。
『やー、ちょっと待って、ちょっと待って!?今すぐ解くから、ね、ね』
「早くしてくれよ、拳が壁を貫通するぞ」
『ひっ』
相手からこちらが観察できるなら、俺の拳に込めている魔力の量が分かるはずだ。
ミアは持っている魔力が少ないが、それでも普通の魔術師より魔力は多く保有している。
『これでかーいーじょ、ぽちっと』
警戒して周りを見ると、すぐに変化し始める。
空間がぐにゃりと歪み、目の前に扉が出現した。
廊下自体はあまり変わらないが、後ろを振り返ると入ってきた扉が見える。
「案外廊下が短かったんだな」
「空間を伸ばされていたということなんでしょうか」
俺のパーティーの中で空間魔法を扱えるメルがそういうのだから、間違いないだろう。
自分も空間魔法はスキルといして保有しているが、あまりの扱いの難しさに実戦では使えない。
なるほど、勉強になります。
とメルはアイテムポーチから出したメモ帳に何かを書いていた。
「それで、この扉を開けたらいいのか?」
また何かあるかもしれないと思うと、少し戸惑う。
警戒して開けないでいると向こうから勝手に扉が開いた。
「もう、開けるのが遅いですよー」
扉の影からぴょこっと頭がこちらを覗く。
その声は、さっきまで聞いていた声と同じ。
「早く入って入って」
急かされ、扉の中に全員入っていく。
部屋の中の眩しい光に目を細めて、辺りを見渡す。
そこには、白衣を着た人が六人作業をしていた。
何かを煮込んでいたり、魔法陣を描いたり、紙に研究内容を書き込んだりと大忙しである。
そして、自分達の前には同じく白衣を着たちびっ娘が一人。
「もう、早くしてくださいね」
腕を組んで立っていた。
「お前がやったのか、あの無限に続く廊下を……」
「私達が来ると分かっていたはず、それなのに」
「防衛装置とやらを作動しておったのう」
コマチも顔には出ていないが、怒っているのだろう。
だって、あんな目に遭わされたのに、なぜかこのちびっ娘が怒っているのだから。
「あ、いや、その……いたっ」
「すみませんね、この子が迷惑をかけたみたいで」
ちびっ子の頭に拳骨を振り下ろし、そのままちびっ子の頭を下げさせる。
今も拳骨をそのちびっ娘の頭の上に置いているこの女性も白衣を着ているので、ここの研究員の一人なのだろう。
笑顔で対応しているが、なんでだろう怖い感じがするのは。
ちびっ娘が逃げようと画策しても、手を広げ頭を鷲掴みにして逃がさない。
この女性、恐ろしい。
「あ、あはは。まあ、大丈夫ですよ」
何だか今も逃げられず頭を鷲掴みにされ宙吊りにされているちびっ娘が不憫になってきた。
もう、話してあげても。
ほら、ちびっ娘の顔が無我の境地に達したかのようになってる。
「そうですか、許してくれますか。ありがとうございます、ほらクエルも謝って」
「すいませんでした、許してくださって感謝しています」
「よくできました、もう、ほんとにこの子は素直に謝ったらいいのに」
いや、見てくださいちびっ娘もといクエルを、真顔ですよ。
まるで洗脳されたかのような。
あまりの変わりっぷりに他の皆も何もしゃべらない。
「じゃ、これぐらいでいっかな、ほいっと」
そう言って、クエルの頭をそっと叩く。
変化は歴然だった。
ぼーっとしたような感じだったクエルの目に光が灯り、きょろきょろと周りを確認して横にいる白衣を着た女性を見る。
「また、やりやがったな!今度こそは許さんかんな、この~」
クエルが殴りかかるが、それを華麗に回避。
クエルは壁に激突する。
撃沈。
白目をむいて倒れた。
「あ、申し遅れました。私はへリナと申します」
何事も無かったかのようにへリナさんは会話を進める。
へリナさんが頭を下げると、頭に着いている耳に目が留まった。
「あれ、失礼ですが、ヘリナさんは獣人族なんですか?」
「ああ、はいそうですよ。獣人族なんですが、腕っぷしより魔法が得意なんで、この研究所で働いているんです」
「へー、珍しいですね」
「はい、私達もあなた達パーティーが異種族で構成されているのを見て、すごく珍しいと噂していたところなんですよ」
改めて、部屋にいる研究員たちを見るとドワーフであったり、小人族や人形のような者までいた。
皆、こちらに興味津々なのかちらちらと様子を伺っているのが分かる。
あ、目があって視線を逸らした。
「あ、そういえば、自己紹介がまだでした」
「あなたはトワさんですよね、で、エルフの方がメルさん、龍人族の二人がリーシャさんとミアさん、トワさんと同じ人間族のあなたはコマチさんでよろしかったかしら」
「はい、あってます」
どうも、この城に呼ばれた時点で名前などの情報が広まっているようだ。
まあ、さすがにコマチが魔法生命体であるとか、実はミアがリザードマンであるとかはばれていないらしい。
「そろそろ、魔術師長が来ると思いますので、どうぞこちらに掛けてください」
案内された椅子に座る。
用意された果汁水を飲んで、一休みする。
「魔術師長が来るまでに、ちょっとお話ししませんか?」
対面にヘリナさんが座り、その横の長椅子には未だ気絶中のクエルが寝かされた。
断る理由も無かったのでヘリナさんと話すことにする。
「突然なんですが、トワさんは人間族の勇者の一人ですよね」
「あ、ええと……そうですね、はい」
ここでうそをついたとしても、相手はお見通しのようだし正直に頷く。
だが、なぜ知っているのだろうか。
「実はここだけの話、商業の国ラーマには他の国を偵察する部隊がありまして、世界各地からいろいろな情報を手に入れているんですよ」
「ふむ、龍人族の国にもいるのかの?」
「いや、それが龍人族の国は鎖国状態なので入れないんです」
「確かにそうじゃ、あの国は外には厳しいからのう」
そういえば、あまり龍人族の国の話を聞かないな、と思ったがそういう事情があるのか。
一度リーシャの故郷も見てみたい気がするが、なかなか厳しそうだ。
「それで、話は戻りますが、ある日人間族の国に勇者が現れたという情報が入ったので、現地の部隊に最重要事項として、調べてもらったんです。トワさん、あなたはこの世界の人じゃないですよね」
「まあ、そうですね」
この世界に来て、もう何か月か経ったと思う。
いろいろなことがあったために、なんだか気分的には数年経ったかのように思えるが。
ヘレナさんが目を輝かせて、こちらを見る。
「それで、トワさんがいた世界の話を聞きたいんですよ!」
「確かにあまり聞いたことないです」
「私も気になります」
「気になるのう」
「私はいっぱい見た」
あまりにヘリナさんが興奮し鼻息荒くして、顔を近づけるためすぐさま了解する。
ヘリナさんもすごく整った顔をしているから、見られているこっちがすごく恥ずかしくなってきてしまう。
若干一名知ってる者もいるが、この際なので詳しく話す。
それは、自分の世界には魔法がないこと。
人間しかいないこと。
科学という技術が発展していること。
自分がこの世界に来るまでの生活など、長い時間話したと思う。
「す、すばらしい。なんてすばらしい世界なんですか!!そこは!!」
「まあ、この世界より安全だと思いますね」
「行ってみたいな、行けないかな」
恍惚とした表情で妄想を膨らませるヘリナさん。
後ろで作業していた研究員も動きが止まって、こちらの話を聞いていた。
あ、動き出した。
話が終わったことを確認して、また作業に戻る。
「んがっ、ここはどこだ?」
「あ、おはよう」
「おはよう?はっ」
クエルが起き、意識も覚醒する。
ぱっと起きたと思うと、ヘリナから距離をとった。
「って、ヘリナ。なんだその顔」
今、絶賛妄想中のヘリナさん。
クエルにも一応、説明しておく。
「え、お前この世界の人間じゃないのか!?」
どうも、クエルにだけ知らされていなかったらしい。
そんなの聞いてねえぞ、と周りの研究員に視線を向けるが誰も知らんぷりだ。
怒り眼で周りを見渡すクエル。
突然、部屋の中心が光り出す。
「目が、目が~~」
あ、なんかそれ見たことあるな。
クエルは目の痛みから床で、目を押さえて転がっている。
そして、光が収まるとそこには、廊下で会った魔術師長が立っていた。
皆が注目するなか、魔術師長は口を開く。
「帰って来たよ。それでなんだけど、やっぱり獣人族の国と戦争になっちったわ」




