バンの覚醒
すいません、遅くなりました。
前の週はかぜで倒れていたので、なかなか書くことができず投稿できませんでした。
もう一度、謝罪を。
なにとぞ、許して……。
「さよならだ、エルフとその仲間、それとおまけに貴族さんよ」
そうして、剣を後方に携えたリーダーの男を中心に魔力が渦巻く。
その剣に魔力が集まり、発光し会場が振るえているように感じる。
「まずいな」
自分やその仲間は余裕で回避できるし、受けたとしても死ぬことはないだろう。
では、その後ろにいる人たちはどうか。
確実に死ぬ。
「さあ、これでしまいだ。ここには俺達が求める宝はないからな」
「ラウムシュナイフ」
油断のない構えからの一閃。
シュッという音とともに空間に切れ目が入っていく。
世界がずれる。
「な、ぐはっ」
「あれ?」
「きゃああああああああ」
後ろの逃げ遅れた貴族、平民は差別なく一部が切り取られ、または体がずれ落ちる。
その後に残るのはズチャという嫌な音。
斗和達は避けることができ、実害はない。
あれを受けても死ぬことはないと寸前までは思った。
しかし、技を放つ瞬間背筋が凍りつくような感覚を感じ、本能的に避けてしまう。
それは正解だったわけだが。
「これじゃ、俺でも死んでしまうな」
その剣、その技はまさに空間を切る。
どんなに固いものでも空間がずれてしまえば意味がない。
それが世界の摂理なのだから。
その技を放った本人は剣を地面に刺し、ようよう立っているようだ。
「はあはあ、くそ。てめえらには当たらなかったか」
「トワさん、大丈夫でしたか?」
「ああ、俺は大丈夫だ。他の皆はどうだ?」
見渡すと立っているのはほぼ全て自分の仲間達。
全員無事のようだ。
だが、安心しているのも束の間。
その場にまたも緊張が走る。
「バンよ、失敗した上にこんな失態を見せるとは」
「す、すまねぇ。師匠」
王族が出入りする扉のところにその男は現れた。
ドーラ達と同じ黒っぽい服で全身が覆われており、その顔には目と鼻と口の所に穴が開いただけの簡素な仮面をしている。
その師匠と呼ばれた怪しい男はゆっくりと階段を降りて、少し離れた所で静止した。
「お前は一体……?」
そこで、その男が手に持っているものがちらりと見えてしまう。
「それって」
「ああ、これのことですか。これは少し外でうるさい輩がおりましたから」
そう言って、掲げるのは首。
何も感じずに死んだのか、顔は無表情のまま。
その顔は確かこの国の王族の一人だったはず、ドーラが襲撃してきた際に最初の方に逃げて行った王子の一人だったと思う。
確か護衛がたくさんいたはずだが、その姿は見えない。
「それで、話は戻りますがバンよ。勇者の末裔がこんなところで終わるんですか?」
男は挑発するようにバンに言い、その持っている首を目の前に転がした。
「このままではあなたも、あなたの大事な子も守れずこうなってしまいますよ」
「う、それは、それは嫌だ」
膝を折り、頭を抱え震える獣人族の少年がそこにいた。
先ほどの大技を放った反動で、もう手足には限界がきているのだろう。
威勢の良かった姿はどこへやら、この師匠という男の言葉に打ちのめされている。
「それなら、限界を超えなさい。それが今なんですよ」
「限界を、超える……」
まずい。
直観的にそう思った。
師匠という男がバンを煽ったせいか、彼の魔力の高まりを感じる。
中で何かが変わろうとしているかのように。
「うぐお、ぐがあああああ」
バンは雄叫びをあげ、筋肉が肥大化していく。
獣人族の特徴である体毛もより長く全身を覆う。
「そう、それでいいのです。それが勇者バンが授けた力」
勇者バン。
確か、ドーラとしてこの会場に入ってきた時もそのようなことをバンが言っていた。
そして、その本人自体がバンという名前である。
彼はまさに勇者バンの力を持ち、バンの名を貰った者なのだろう。
「しかし、まだ暴走しているだけですね。これじゃ数分と持ちません」
「お前は一体何者なんだ」
「はあ、私ですか。私は彼の専属の師匠をさせてもらっている者ですよ」
あくまで名前は名乗らないらしい。
「コレガ、オレナノカ」
変身した姿はまるでおとぎ話に出てくる狼人間。
体長はゆうに2メートルを超え、その巨躯は筋肉の鎧をまとっている。
自分の体を確認した後、こちらを見て口を歪めた。
「ソレジャ、イクゾ」
バッ、という風を切る音がする。
「がはっ」
後ろから声が聞こえ、振り返るとミアが壁に埋め込まれていた。
バンの腕はミアの首を掴んでおり、それにミアが抵抗してなんとか首をへし折られずにすんでいる。
バンはそれが気に食わないのか。もう片方の手をミアの首に持っていき。
「やらせません」
メルの風魔法の刃がバンの腕を切り裂くように飛んでいく。
詠唱なしだが、威力は十分。
これでバンが避けた時にミアが逃げることが出来る。
「キエロ」
「んなっ、そんなばかな」
バンがその伸びた爪でそっと空を切るように振ると、風魔法が逆に切られた。
そして、霧散する。
爪の一振りで空間がずれた。
それを見たバンが、次はその爪をミアの方に向ける。
「やらせるか」
「やらせはせん」
リーシャは両腕を龍化し、俺は全力を出して突っ込む。
「君はちょっと危ないから、私が相手をしよう」
全力で攻撃を仕掛けようとした手前、バンの師匠が目の前に入り蹴りを放ってくる。
こんな時に……。
蹴りを避けて、バンの所に向かおうと間延びした世界で横に避けた瞬間。
「ぐがっ」
蹴りが顔を叩いた。
その衝撃で壁に衝突する。
ちゃんと避けたはずのなのに。
「どうして避けられなかったのか、という顔をしていますね」
「くっ」
「まあ、確かにあなたは速い。私より遥かにね、しかし未熟で動きが読みやすい」
バンの師匠に蹴られ態勢を崩されている中、リーシャがバンに龍化した腕で攻撃を加えた様子が見えた。
あの様子だとミアも大丈夫だろう。
あっちはミア、メル、リーシャ、それに加えコマチがいる。
勝てないことはないだろう。
「問題はこっちだな」
確かにバンの師匠が言っていることは理解している。
俺は確かに誰にも負けないほどの力を手に入れたのかもしれない、だが手に入れた俺自体は普通にそこら辺にいる人間で、戦闘センスは人並みしかない。
地球にいた頃も武術や武道をやってたわけでもなく、戦うことにはあまりなれていないのだ。
「特に対人戦闘はあまり経験していないしな」
相手はただこちらをじっと見て、構えを取っているわけではない。
が、隙はないように見える。
「そっちから来ないのでしたら、こっちから行きますよ」
またも蹴りを放ってくる。
俺からは遅く見える蹴り。
避けるのは簡単のように見える。
「がはっ」
だが、気づけば当たっている。
何度も何度も繰り返し蹴られる。
「強い力はあるのに積み上げた技術がない。なにか存在がちぐはぐですね」
喋りながらも攻撃の手は緩めない。
俺は避けることから受ける事に専念し、蹴りをなんとか防ぐ。
見えている、だが蹴られる瞬間に速度と軌道が変化する。
「おかしい動きをするな」
「おや、気づかれましたか。まあ、それだけですと及第点ですが」
相手は足しか使ってないのに、押されている。
「これだと、まだ彼女達の方が相手になるかもしれませんね」
「くそっ」
その言葉が胸に刺さる。
怒りに任せ反撃に出たが、軽く拳をいなされ腕に蹴りを入れられる。
腕を蹴られた反動で横を向かされ、背中を強く蹴られた。
「がはっ」
肺の中の空気が口から抜けていく。
酸素が欲しいと口があえぐ。
「どんなに強くなろうと、人間の構造をしているなら弱点はあります。残念ながらね」
喋れない、苦しい。
酸素が足りない、目の前が白くなる。
「まあ、ここまでのようですが」
向こうではミア達がバンを囲んで、攻撃している。
一緒に戦ってきたこともあり、連携がとれ、覚醒したバンに一歩も引いていない。
そのバンなのだが、ある境に動きが緩慢になってきた。
「ナンダ、カラダガオカシイ」
体毛が抜け始め、2メートルあった体格は元に戻る。
覚醒したバンの限界。
そして、元の状態に戻るなり白目をむいて倒れた。
「彼は回収していきますよ」
気が付けば、目の前にいたバンの師匠がバンの所に駆け寄っており、バンを肩に背負っていた。
逃がさないように、ミア達が攻撃しようとするが全ての攻撃は当たらず、彼が三歩歩いた所で姿が消える。
「トワさん、大丈夫ですか」
「大丈夫かのう」
「トワ様!!」
「大丈夫?」
もう完全に気配が消え去り、去ったのを確認して仲間達が駆け寄ってきた。
だが、体が傷んで動かせない。
「ああ、なかなか派手にやられてしまったな」
「今、回復魔法をかけますね」
メルが手をかざし、回復魔法をかける。
淡い光が全身を包み、痛みを遠ざけてくれる。
「だいぶよくなったよ。ありがとう」
そのあと、ミアの肩を借りて立ち上がる。
周りを見てみると、切られ絶命した人の死体が転がり、観客席は血に染まってしまっていた。
その中に俺達が気絶させたドーラ一味の姿が見当たらない。
「やられたな」
そっとつぶやく。
負けたことは悔しい。
それに守れず、殺された人もいるのが悲しい。
「これは、どういうことだ!!」
会場の入り口から鎧を着た兵士達が姿を見せる。
この騒ぎに呼ばれたのだろう。
ラーマの国の治安維持隊がこの惨状に驚きを隠せずにいた。
「お前達は大丈夫か、む」
隊長と思しき人物が近づき、俺達の近くに落ちている首に目がいった。
その首はこのラーマの国の王子の一人。
それが無残にも床に転がっている。
少しだけ目を見開き固まったが、すぐに落ち着きこちらを見た。
「すまないが、話を聞かせてもらってもよろしいかな」
部下に首の回収を任せ、俺達はその人に連れられ城へと向かった。




