天職
ドレスを着た美少女に歓迎の言葉を貰い、そのあとは自己紹介が始まった。
「私はこの国の第二王女メフィア・マルバーンです。そしてこっちは――」
お姫様(仮)は思った通り、お姫様でした。そして、ゴリマッチョの男はこの国の騎士団団長で、ローブを着たご老人は魔法騎士団団長兼魔法開発局長だった。
今はいないが、さっきまで膝を地面についてこうべを垂れていた甲冑の騎士達は、ゴリマッチョ――ガスベルさんの部下だそうで、今は防衛任務に戻っている。
そして、自分達の自己紹介も何事もなく終わり、話は今のこの国の状況について移っていく。
「神様から聞いていると思いますが――」
メフィアさん(メフィアと呼んでくださいと言われ、メフィアさんに納まった)の話を聞くに、この世界の人類はまさに滅亡という文字が目の前に迫ってきている状態だということが分かった。
昔は他種族との交流が盛んで、大きな争いも無く、平和な毎日だったという。しかし、何があったのか知らないが、交流のあったエルフ族、ドワーフ族、獣人族が戦争を始め、その争いの火が人類にも燃え移ったというわけだ。今でもなぜ戦争が起こったのかは不明で、人間は他の種族よりいろいろな面で劣っていたために今防衛で精一杯、他の大陸の人間の国とも連絡が取れないらしくまさに絶望的と言わざるを得ない。
「そのとき、勇者が来てくださると神託が下りたんです」
そして、僕達が選ばれ呼ばれたというわけか。
なぜ、自分達なのかは不明だが、神様から強力なスキルを貰っているのだからこの危機的状況を打破しなくてはいけないのだろう。
考えるだけで辛くなってきた。
「ま、俺様にまかせてみな。この世界最強チート主人公である日向様にな」
「どかんと一発かましてやるぜ」
ゲームオタクの日向と充はやる気満々のようだ。
「おう、全員ぶっとばせば済む話だろ、簡単じゃねえか」
と今までおとなしかった和也も乗り気である。
「この戦争を終わらしたら帰れるのでしょう、ならできるだけ早く終わらして帰りましょう」
「うん、そのほうがこの国の人達のためになるしね」
とこれまた今までおとなしかった宗太とクラスのまとめ役の悠太もその案に賛成と声を上げる。
「私も早く帰りたいけどぉ、戦うのは絶対無理」「だよねぇ」「私はがんばる」
女子三人組は二対一で意見が分かれているようだ。
ってか結構皆強気だなぁ。自分は戦闘向けのスキルが無いためにすごく不安なのに。もしかしたら皆戦闘に特化したスキルを手に入れたのかもしれない。
「皆さん、お話の途中よろしいでしょうか」
話すのに夢中になって周りが見えなくなっていた時、メフィアさんの一声がかかる。
その一声で自然とメフィアさんに視線が集まる。
「まず、皆さんにあった天職に就いてもらいたいと思います」
そう言って、洗練された動きでメイド達がバレーボールぐらいの大きさの白い球体を持ってきて、一人一人に渡していく。
「使い方は簡単です。その天職玉を持って、ステータスを開いてください、そうするだけで自分にあった天職に就けます」
早速天職玉に手を触れ、ステータスを開く。
〈ステータス及び職業欄が変更されました〉
無機質な声が頭に響き、開いた自分のステータスの内容が変わっていく。
スミヤマ トワ
職業:魔物使いLv1
ユニークスキル
気配遮断、観察者、言語理解
スキル
なし
自分の天職は魔物使いだったらしい。
それと、ええと……。
ユニークスキルが3つで、スキルはなし。
え、スキルってこれだけなの?
想像していた異世界物俺TUEEEEEEと違うような。
ショックで固まっている時に、周りから話し声が聞こえてくる。
「よっし、俺は今日から炎術の魔導師だぜ」
「ふふ、俺は魔法戦士となった者だ」
日向と充はなかなか強そうな天職に巡り合えたようだ。
他の人は……。
「僕は光勇者だったよ」
「俺は狂戦士か、悪くねえ」
悠太はまあ妥当なところだろう。だが、和也、お前はそれでいいのか。本人が納得しているならいいが。
そのあと、メフィアさんとガスベルさんを交え、ステータスの発表会が行われた。
残りの芽衣が応援者というバフを得意とする天職で、亜里沙が回復術師、美貴が狩人、宗太が錬金術師であった。
そして、やはり自分のステータスは圧倒的に低いことが分かった。
他の人のステータスは二桁を超えているのが普通で、自分の職業によって、秀でた部分は三桁を超えている人もいた。
自分のステータスを見せた時の周りの反応は、沈黙だった。気まずい空気が漂う。
宗太とメフィアさん二人に慰められた。
「皆さんの天職も分かったことですし、この世界に来ていろいろとお疲れでしょうから、今日はお部屋でおやすみなさってください」
メフィアさんが手を叩くと同時に部屋への案内役兼お世話役のメイドさんが人数分参上した。
今日はこれでお開きになるようだ。
自分の担当のメイドさんはマリルという人だった。
「マリルと申します。どうぞ何でもおっしゃってください」
マリルさんは小柄な体格の美少女メイドだった。
最後に自分の職業がこの世界でどんな評価なのかガスベル騎士団長に聞いていく。
「すみません、ガスベルさん。自分の天職の事についてのことなんですが――」
「勇者の小僧の天職は『魔物使い』だったか……。そりゃあ運がなかったな」
ガスベルさんによると、魔物使いは不遇職の一つでステータスの伸びは悪いために自身の戦闘力は見込めないこと、仲間にできる魔物も低級の魔物ぐらいらしい。それならば普通の戦士などの職業の方が極めれば、一騎当千も夢じゃないらしい。
「よし、勇者の小僧にはこの世界を生き抜くためにも魔法学校に通ってもらった方がいいかもしれんな」
うんうんと頷くガスベルさん。
そして、ガシッと肩を掴まれ。
「それに加えて俺が鍛えてやることにするか、明日の朝から鍛錬を開始するからな」
じゃあ、と勝手にいろいろなことを決め、満足して帰っていく。
「俺、明日死ぬかも……」
「がんばってください、ご主人様」
マリルさんの笑顔に少し癒される。
そのあとは、部屋に案内されベッドで横になるとすぐ寝てしまった。
思ったより疲労がたまっていたようだ。
そして、翌朝――――。