夜のハント
あかん、迷走しとる自分がいる。
国営の奴隷商に行くと決まった日の夜。
皆寝静まった時に、一人ごそりと身を起こし活動し始める。
「よし、これで大丈夫かな」
斗和はこっそりとベッドから抜け出して、まだ皆が寝ているのを確認した。
誰も起きる気配はない。
そそくさと部屋を抜け出し、そのまま宿屋の外へと出る。
「さてと頑張ってみますか」
気合いっぱいに歩きだした先は、ラーマの外。
今の時間、夜行性の魔物が跋扈している草原へと向かっている。
ギルドランクがゴールドとなっているギルド証を持ち、門の前で見張りをしている門番に外にでる通路を使わせてもらう。
「こんな時間になんのようだろうな?」
「俺が知るかよ、最近有名なゴールドランクになった冒険者だろ」
「ああ、そのようだな」
門番の話声が聞こえる。
どうも、俺達は有名なようだ。
っとそんなことよりも時間は限られている。
魔物のいる草原へと急いで向かう。
そこはラーマの門が見えなくなるぐらいの場所。
「よし、ここでいいだろ」
思いっきり息を吸い込んで――。
「おーーーーーい」
大きな声を出してみた。
この行為はこの夜、またこの時期の夜では自殺行為と言われている。
時期は日本で言うと初夏、これからどんどんと暑くなってくる季節。
その季節に魔物達は気が荒くなる。
なぜ気が荒くなるのかはまだ分かってないらしいが、一つの説としては繁殖期が近いのだろうという説がある。
まず、魔物は繁殖で増えるのか、と言われるとそうではない。
魔物の中にもたくさんの種類がおり、その中でゴブリンなどの人型、ドラゴンなどの大型な魔物だけは繁殖によって増えていくらしい。
その繁殖の中で栄養を多く必要とするために、周りの魔物達や冒険者などを襲う。
なので、この季節に外で討伐の依頼を受けている冒険者は今の斗和みたいに大きな物音を立てたりはしない、絶対。
「グギャアアアアア」
茂みから大きな大蛇が口を開き、丸のみにしようと襲いかかる。
が、それを華麗に回避して追撃。
「そい」
その一撃に痛がる素振りを見せる大蛇。
再度噛みつこうと飛び掛かるが、またしても避けられ頭に強い衝撃を食らわされる。
大蛇はその衝撃により脳震盪を起こしてように静かに崩れ去った。
「よし、こんなもんかな」
すぐに持っている剣によって鱗が傷つかないようにとどめを刺す。
方法としては首の根元辺りに鱗の隙間が大きいところがあるから、そこに剣を刺すのがポイントだ。
これで一匹目。
解体しようとした時、後ろから気配を感じた。
「もう一体、追加か」
そこには手や足が長い猿のような魔物が数百匹待ち構えていた。
大蛇と俺を交互に見て何か考えているように見える。
「もう一体というか、もう数百体ってとこか」
「ウキャアアアア」
先頭の猿みたいな魔物がリーダーのようで、俺に向かって飛び掛かるように指示を飛ばしている。
それに答えるように数十匹が棍棒を振り上げて突進してきた。
それをすぐさま避けるが、攻撃はそこで終わらない。
すぐに残った猿の魔物達が石など投擲物を投げてくる。
狙いもなかなか正確で、まるでマシンガンにでも打たれているかのようだ。
まあ、マシンガンなんて打たれたことはないが。
「っと、こんなに多いしちょっとだめになってもいいか」
すぐさま風の魔法を練りあげる。
イメージは台風。
それは平原にいる猿の魔物達を巻き上げ地面へと叩き落とす。
「それ」
軽やかな声とともに周辺は暴風域となる。
魔法を発動した本人は何食わぬ顔をしながら立っているが、魔法を発動した本人も魔法を受けないわけではない。
斗和自身にも恐ろしいほどの風が当たっているが岩のようにそこに留まっている。
それも単純な筋力により。
「おお、おう。これは想像以上にひどいな」
この世界に来てから魔物とも戦わなくてはいけないから、グロッキー態勢はある程度身に着いたが、今の頭や背中から落ちて、赤い花を咲かしている状況はなかなか堪えるものがある。
これは人間にやってはいけない奴だわ。
まあ、純戦士なら即死に近いだろうと思う。
だがこれで猿の魔物はやっつけたからよし、という間にまた次の魔物が現れる。
「今度はなんだ?」
見渡す限りにはいないが、気配を感じる。
地面にいないということは……空か。
空を見上げると、そこには大きな翼を広げたワイバーンの群れが、獲物を見つけたかというようにぐるぐると旋回している。
「次はワイバーンか。これはゲームでもお世話になったことある魔物だな」
少しゲーオタの気があった斗和は、本物のワイバーンを見れたことにわくわくしている。
この世界でワイバーンの群れを見てわくわくしているのは、斗和を除いて誰もいないだろう。
それほど絶望的な状況なのだ。
だが、そんな事も知らない斗和は。
「少し遠くて見えづらいな、もっと近くに来てくれないかな」
その言葉が聞こえてわけではないだろうが、ワイバーンの一体がこちらへと急接近してくる。
その速度は恐ろしく速い、がそんなもの斗和には関係ない。
「そーれっ」
「ピギュイ」
突っ込んできたワイバーンに対し、当たるか当たらないかの直前で回避、そして翼を掴んでそのまま振り回して地面に叩きつけた。
顔が地面に突き刺さる。
ワイバーンAは永遠の眠りについた。
「クキュルルルル」
二体三体と翼で風を切りながら突っ込んでくるが、誰もが頭を地面に埋め動かなくなる。
それは他の冒険者からみたらありえないと頬を抓るレベルの出来事だ。
それを平然とそして、なぜか綺麗に一直線に首を埋めている斗和はもう人間を止めている。
そして、最後の一匹も尽く頭を地面に埋められ、シュールな花壇が出来上がった。
「よし、これで完了」
その後は丁寧に頭を切り落とし、今までに倒した魔物と一緒に固めて置いておく。
そして、この作業をした後もまた魔物が出現して襲ってくる、撃退、死亡確認を繰り返す。
それを一時間ちょっと繰り返した時にはすでに魔物の山(死骸)が出来上がっていた。
「これぐらいあったらいいだろ」
斗和は魔物の山を入るだけアイテムポーチの中に入れ、入らなかった分はアイテムポーチに入れていた縄で括り付けて持っていく。
アイテムポーチに入らなかった分でもなかなかな量があるため、傍から見ると小さな山が動いているかのようにも見える。
ゆっくりと素材が傷まないように運びながら、ラーマの門の前までやってきた。
「すいませーん」
門番の人に入り口を開けてもらおうと声をかけると、眠たそうな眼をこすりながら門番が小窓を開く。
「ん、なんだ」
「あの、門を開けてくれませんか」
どうもさっきまでの門番とは違う人らしく、いぶかしげな顔で見られている。
そのため、ギルドカードを見せて門を開けてもらうようにお願いした。
「おお、お前が噂のゴールドランクか。門だな、しょうがない魔物もいるから早く入れよ」
「ありがとうございます」
門が少しずつ開かれていき、人一人分通れるくらいの隙間ができた。
だが、それではこの魔物の山が通らない。
「すいませんが、もう少し開けてくれませんか?」
「なぜだ……へっ?」
なぜもう少し開かないといけないのか疑問に思った門番が、門の隙間から顔を覗かした時、そこには魔物の山を背負った少年が目に移った。
門番さんフリーズ。
斗和さんは口が閉まらない門番を見て後ろに何かいるのか確認。
うん、誰もいない。
「ど、どうしたんですか」
「はっ、いや、なんでもない。何か見てはいけないものを見た気がしたんだが」
門番さんの防衛機能がフルに活用され、一切魔物の山を見ようとはしない。
いや、彼にはもう見えないのかもしれない。
「門をもっと開ければ良かったのかな」
「はい、そうですけど」
「分かった。少し待ってください」
逃げるかのように門を開きに行く門番。
最後まで門番の奇行がなぜなのか分からなかったが、何とか開いてくれるらしい。
その後のこと、言うまでもないが他の門番も驚きに目を見開き固まる。
町を歩いていると夜も活動している住民達が、何か得体の知れない者が歩いていると、一人また一人とすぐさま建物の中に入っていく。
自警団の人達からも質問されることが何度かあったが、自分が狩ったと言っても信じてもらえず、最後にゴールドランクのギルドカードを見せて納得してもらった。
そして、目的地に到着する。
「よしよし、さてどうなるかな」
到着した場所は冒険者ギルド。
冒険者ギルドは何かあった際に対応できるように夜でも開いている。
「すいません、魔物の素材を買い取ってもらいたいんですけどー」
「は、あ、い?」
うん、門番さんと一緒の反応をしている。
ギルド嬢の硬直が解けるのを待ってから、再度買い取りのお願いをする。
お願いを聞きいれたギルド嬢は、他のギルド職員にも応援を要請し解体所へと案内される。
そこで、アイテムポーチから出るわ出るわ魔物達が。
アイテムポーチの容量がおかしいことに気が付かないほど、ギルド職員はその魔物の山に目がいき驚きに固まっている。
「えと、それで買い取ってもらえますか」
「あ、はい、少し待ってください。こちらで少し計算してみます」
集められたギルド職員達による仕分けが始まった。
中にはワイバーンのような大型の魔物もいるため魔法を用いての作業となっている。
なんとか魔物を種類別に分けて一段階目は終了。
次は損壊状況などを見て買い取れる値段を決めるのだが。
「すごい、こんな大型な魔物がほぼ無傷のままだ」
「おい、こっちもだぞ」
「こっちもだ」
もちろん、傷がついて値段が落ちないように工夫はした。
少し、ワイバーンのように遊んだこともあったが。
それでも綺麗な状態であると自負している。
ギルド職員が作業を開始して数十分が経過した。
「な、なんとか。計算し、終わりました」
一人の眼鏡をかけたギルド職員がよろよろとしながらこちらへと歩いてくる。
疲労によってよろめいているわけではなく、それは紙に書かれた数字によってのことだとこの時斗和は知らなかった。
「それで、買い取り金額は、一、十、百……え、ちょっと待てよ」
何回か数えなおしたが、やはり数値は変わらない。
その額、なんと3億パラル。
日本円との価値があまり変わらないために、一時間で3億円を稼いだようなものだ。
これには斗和も少しよろめく。
「こ、この額でよろしいでしょうか」
「はい、よろしいです」
驚きのあまり言葉もおかしくなっているが、本人は気づかない。
ぼけーっとしながら3億パラルを金貨3000枚分として受け取り、それをアイテムポーチに入れてそのままふらふらと宿へと帰っていく。
気づけば部屋に着いており、そこには未だ気持ちよさそうに寝ているミア達がいた。
さっと自分も寝るために開いているスペースに潜り込み、強引に興奮した気持ちを抑え込む。
そして、斗和は目を閉じ眠りに――。
「寝れるかーーー!!」
少ししか寝れませんでした。




