情報収集結果
早速、ラーマのギルド長に言われた盗賊ドーラの情報を得るべく情報収集を開始する。
したんだが……。
「やっぱ、捕まらないのは情報が無いからだよな」
「全然尻尾を出さないです」
一向に情報が集まらないことにため息をつく斗和とメル。
現在、二チームに分かれて情報収集を行っているのだが、斗和・メルチームの成果はあまりよろしくない。
この調子だと向こうのミア・リーシャ・コマチチームもあまり情報が集まっていないだろうと思う。
その盗賊ドーラの情報を集める一方、目的である世界情勢についての情報はあっけなく集まった。
まずはそれから話そう。
まず、人間の国マルバーン王国。
この国は人間が主に暮らしており、異種族排他という思想が強い。
他の国に比べると科学技術は進んでいるようだが、魔法技術に関してはエルフの国が、武器などの鍛冶に関してはドワーフの国が、そして武力に関しては獣人の国に負けているという酷い有様だ。
領地の広さに関しても主なその三つの国に負けており、理由は戦争による敗北。
何とか商業の国ラーマで、科学技術の有用さを披露したおかげで生きているという感じだ。
そして、商業の国ラーマについてだが、この国の王は何と元は一般の商業人だったそうだ。
それが他の種族とも縁があり、またその運も良かったことからこの国を建てるための領地を分けてもらいできたとされている。
王の種族は良く分かっていないが、種族による差別をしていないこの国では王の種族など殊更気にしていない。
そして、この国のすごいところは他の国の戦争に関与しないと宣言しているところで、それは地球で言うところの永世中立国がこの世界でも成り立っているということだ。
そのため、この国の中で不穏な動きが見られたら、すぐさま粛清するための武力が振るわれるという怖い一面もある。
次にエルフの国。
この国はこの商業の国から西北の方向に進んだところにある森全体が国となっている。
魔法技術が進んでおり、ラーマの国に売られている魔道具のほとんどがエルフの国から輸入したものなのだとか。
エルフの国にも行ってみたいが、今エルフの国はドワーフの国と戦争中だから止めとけと忠告された。
ドワーフの国。
ドワーフの国は地下にあるらしく、国の広さは不明、もしかしたら他の国の地下まで国が広がっている可能性もあるらしい。
これはテンプレであるが、ドワーフはエルフとの仲がとても悪く、このラーマではエルフとドワーフの喧嘩騒動が毎日起こる。
ついさっきも酒に酔ったドワーフとエルフが殴りあってたぜ、とは酒場のマスターの証言だ。
獣人の国。
一番広い領土を持っている国であり、その領土はほぼ全てが平野。
種族として争い事が大好きなバトルジャンキーが多い国であり、国の戦力は恐ろしく高い。
だが、種族柄魔法が使えない者がほとんどで、その国での名言で『魔法を放つ前に、相手に突進、放たれても耐えればどうということはない』という言葉があるそうで、聞いた時はそれどこの脳筋だと思った。
今のところ世界情勢についてはこの程度が判明している。
残念ながら龍人の国に関しては、龍人自体があまりいないことと、鎖国しているという関係であまり情報は得られなかった。
さて、話は盗賊ドーラに戻るが、この盗賊ドーラはどうも民衆の人気が高く、その謎に包まれたベールははがれたことがない。
情報も交錯しており、話を聞いても種族や性別がばらばら、唯一分かることは姿を現すのは夜。
それも不正な稼ぎをしていたものや、奴隷商人の家などに限られ盗みが行われているらしい。
そしてここからが民衆に人気の高い理由なのだが、その盗んだ金品は貧しい家に届けられる事や、町にばらまかれることもあるそうだ。
異世界のねずみ小僧がいた、と驚愕していたのは俺だけだった。
なんかこののりに付き合える人がいないのが悲しい。
「おーい、トワ様」
ふいに向こうのほうからリーシャの声が聞こえ、見ると遠くにリーシャ、コマチ、ミアがいた。
どうも考えに没頭しすぎて気づかなかったらしい。
「そっちはどうでしたか?トワ様」
「あまり、芳しくないな」
「やはりそんなに情報は集まりませんでしたか」
ミアの話を聞くと、やはり得られた情報はどれもが信憑性に欠けており、確かな情報は一切無かったようだ。
まあ、座ってから話し合おうという事で、近くの喫茶店みたいな店に入り飲み物を頼む。
俺はが頼んだのはコーヒーのような飲み物で、名前はキューズというらしい。
そのままブラックで飲むのが自分は好きだが、この世界の人たちは大体ミルクを入れたり砂糖を入れたりするらしい。
「それで、これからどうするかなんだが……」
まず情報収集については失敗。
有益な情報はあまり集めることが出来ず、何も足取りを掴めないままである。
しかし、皆の情報を持ち合わせて分かったことが一つだけある。
「それは、次盗賊ラーマが襲う可能性が高い場所だ」
「と、言うと?」
コマチが首をかしげて問う。
「それは、奴隷商人の家だ」
「いや、でも奴隷商人の家ってたくさんあると思うけど」
「確かにメルのいうとおり奴隷商人の家はたくさんある、だが一つの奴隷商だけまだ盗賊ドーラが盗みに入ってないんだよ」
盗賊ドーラの情報では、盗みに入るところは不正な稼ぎをしている家か、奴隷商人の家。
そして、全ての奴隷商人の家に盗賊ドーラについて聞くと、盗みに入られたといったが多くを占めていたが、一つだけ盗みに入られたことが無い、という所があった。
それは、国営の奴隷商。
そこでは奴隷の売買を国が商人として行っており、売買方法はオークション形式。
商品となる奴隷も最上級のものばかりだそうだ。
「なるほど、国営の奴隷商ですか」
「確かに国営の奴隷商には盗みに入ったという情報は聞いておらんのう」
「でも、国営の奴隷商は警備もとても厳しいのでは」
「うーん、でも後はそこだけなんだよな」
傾向で見ても、奴隷商に関しては各一回しか盗みをしていない。
それなら、最後に国営の奴隷商に盗みに入るのではないかと予想したのだが。
憶測の域を出ない答えに考えが煮詰まり、ふと窓から外の様子を見る。
「うん、なんだあれ?」
「どうしたんですか?」
横にいるメルには自分の声が聞こえたらしく、メルも窓の外を覗く。
そこには檻を引く馬車が見えた。
それもただの檻ではなく、豪奢に飾られた檻で、その中には手足に鎖を巻かれたエルフや、ドワーフなどの種族がいる。
ミア達も俺とメルが窓の外を見ているのが気になったのか、覗いてみる。
「あ、あれは国営の奴隷商です」
「うん?あれを知ってるのか、ミア」
「それが、話を聞いているなかで知ったのですが、国営の奴隷商はあのように商品である奴隷達を見せつけるようにして、宣伝しているそうです」
「なるほど、あれが、国営の……」
流れていく檻の群れを見ていると、一つだけ目が引き寄せられるようにその檻の中の奴隷に視線が向く。
中に入っていたのは獣人の奴隷。
だが、その獣人の奴隷は他の奴隷とは少し違うように思えた。
「どうしたのじゃ?トワ様」
言葉が詰まった斗和に対し、リーシャは言葉をかけるが返事は無い。
「あ、ああ、いや少し気になることがあってな」
「奴隷かのう。あそこに入れられておる奴隷はオークションでものすごい価値が付くからのう、我らでは到底及ばん額じゃと思うぞ」
「え、奴隷が欲しいんですか?」
「いや、欲しいわけではないんだが……」
その獣人の奴隷は薄紅色の髪をした虎の獣人で、なぜか分からないが視線があった気がする。
そして、微笑んでいた。
気のせいかもしれないが、その姿が忘れられない。
あの獣人の奴隷の彼女は、どこかで見たことがあるようなないような。
「ま、まあ一度国営の奴隷商に行ってみようと思う」
仲間達の疑惑の目が突き刺さるが、異論はないようだ。
ちょうど明日の夜にオークションをやるそうなので、その日に行くことに決めた。