昔の終わりの話
どうぞ、楽しんでーーーーください。
「いや、やめて」
先にあるドワーフ族長の家から聞き覚えのある声がする。
もうすでに襲撃がドワーフの集落まで及んでいたのだろう。
ライオットだけは助けたい。
「待ってて、今助けに行くから」
中にいるだろう悪党にばれないように、足音を立てないように家に近づいていく。
途中窓が開いていたために、そこから中の様子を覗き見た。
「!!」
「いやああ、やめてええ」
ライオットの周りにはエルフ族、ドワーフ族、人間族の男性が三人。
その男達の輪の中でライオットは一糸まとわない姿となっていた。
その目に映るのは女性としてのライオットだ。今まで気づかなかった女性的な部分が公に晒され、こんな非常時だったがとても美しく見えた。
さて、鑑賞するのももう終わりだ。
メフィルはすぐに手に持っている包丁を窓の近くにいるエルフの背中に向け投擲する。
いつものメフィルの力では重症を与えることはできるが、死ぬことまでは至らないはずだ。
しかし、精神的なショックにより覚醒してしまったメフィルの力はすでに人外を超えていた。
「あぎゃ」
「ぐべっ」
エルフの背中に当たった瞬間、エルフは爆ぜ包丁の勢いは収まらず人間族の腹へ深々と突き刺さった。
時が止まる。
ライオットも生き残ったドワーフの男性でさえ目の前の光景に思考が停止する。
「こんにちは~、楽しいことしてるとこ悪いんだけど」
正面のドアから堂々と登場した少年に。
ライオットは止まった思考が動きだし、助けに来てくれてうれしいような逃げてほしかったという悲しいような複雑な表情をしていた。
それに対しドワーフの男性はいきなり現れた人間族の少年に驚きを隠せない。
「おい、ここは、ドワーフの里だ、ぞ。何で、お前はこんなところに居るんだ?」
「ごめんね、本当はドワーフの里にお邪魔するつもりはなかったんだけど、友達の助けてほしいって声が聞こえてきたから」
「……お前がやったのか」
「うん?」
「こいつらをこんな肉塊に変えたのはお前がやったのかって聞いてるんだ!!」
喚き散らすドワーフに呆れたような視線を向ける。
なぜなら、ドワーフはその目に怯えを宿らしていたからだ。
その視線は床で肉となってしまった哀れな襲撃者と自分とをいったりきたりしている。
あまりに無様だ。
やけくその特攻を仕掛けてくるが、そんな直球の攻撃なんて避けられない方がおかしいのに。
彼も仲良くお仲間と同じく赤く染まってしまった。
「メフィル、なの?」
「うん、そうだよ。助けに来たんだ」
彼女の目にも怯えが見てとれる。
ああ、そうか、そりゃそうだ。
だって自分は目の前で三人も殺した殺人者じゃないか。
ライオットの裸体を見ないように目をそらしながら告げる。
「助かってよかったよ。僕はこれで行くから、じゃ」
「あ、待って、ちょっと待って俺も一緒に行くから」
振り返らないように答える。
「いいよ、無理しないで。僕が怖いよね、いいんだよ無理しなくても」
「いやだ、お前も無理してるから、俺がついてやらないとだめだ」
そういって、肩を掴まれ強制的に顔を見つめ合う構図にされてしまう。
ライオットの顔が近い。
よく見るとライオットの顔は整っており、女性らしい表情の柔らかさが備わっていた。
「こっちを見て、メフィルは無理をしてる」
「僕は無理してなんて」
ライオットの顔を見るとなぜか涙が溢れてきた。
なぜ、僕は泣いているんだ。
目からこぼれおちた涙を手で拭う彼女を見て、また涙が溢れる。
「ほら、もう泣くな。な、無理してるじゃねえか」
「ぼぐは、ぶり、なんて、じてないぃ」
「はいはい」
そっと抱きしめてくれる。
その体は温かった。
このままずっと……と願うがそれは体の温もりが離れ、叶わないものだと知らされる。
再び見合ったライオットの顔は真っ赤だった。
自分が裸であったことに気づいたこともあるだろうし、安堵してしまって涙が出そうになっているのをこらえているからかもしれない。
「僕はまだやらなくちゃいけないことがある」
ライオットに背中を向けて話しかける。
今気づいたことだから遅いかもしれないが、女性の着替えは見てはいけないと思ったからだ。
「黒幕を倒す。そのためにこんな力を手に入れたんだと思うんだ」
ライオットから返事はない。
後ろから衣が擦れる音が聞こえているためまだ着替え中なのだろう。
「これ以上被害を増やさないためにも、奴らを殺さなくちゃいけないんだ」
音が消える。
「そか、じゃ行くか」
「へ?」
肩を叩かれ振り向くと、そこにはフル装備のライオットが立っていた。
ドワーフ族の宝と言っていいほどの魔道具をありったけ身に着け、進行方向を指さす。
「じゃ、次はエルフの集落を救いに行こうぜ」
彼女はためらいもなく歩き始める。
その後ろ姿に自分は少しためらいを覚えた。
「な、なんで。危ないのに着いてくるの」
「それはお前も一緒じゃねえか」
「で、でも僕には力があるから」
「それでも、お前が危険てことには変わりねえよ」
「それは……」
何も言い返すことはできない。
それから何度も言い合いをしたが、彼女に口で勝てる訳もなく着いてくることを許してしまった。
エルフの村がある森へと行く。
エルフの森は自然のいい匂いがして、エルフの人からはよくおいしい果物を分けてもらってたっけ。
だが、そんな美しい森も……。
「これは、ひどいな」
「ああ、なんでこんなことを」
木々は焼かれ、炭化しているものもある。
木の上にあった家も全てが焼かれ崩れ、ここで起こったことを物語っていた。
黒く染まった森の奥から複数の足音が聞こえてくる。
「やばい、隠れなきゃ」
「いや、もう遅いよ、相手はすでに気が付いている」
こっちに向かって音が近づく。
姿がだんだんと見えてきた。
「おやおや、何事かと思いきや。人間の子供とドワーフの子供が生き残っているじゃーあーりませんか」
「あ、すいやせん。あいつら何をやっているんだ、あとで言っときますんで」
「いやいや、いいのですよ。これもまた余興ですからねぇ」
「は、はい」
黒い服に黒い髪、浅黒い肌に黒い翼が生えておりいかにも黒幕っぽい。
ふざけているような恰好だが、従っている人間族とエルフ族、ドワーフ族はそいつに対し畏敬の念を抱いているかのようだった。
何かがおかしい。
「あいつ、魔力反応がない」
「あっ」
そうだ、何かがおかしいと思えば魔力を一切感じないんだ。
あいつからは魔力とは違うもっとまがまがしいものを感じる。
これはなんだろうか。
人間の魔力にも似ているような。
「あの人見たことあるよ」
「え、メフィルあるの?」
「ああ、元は人間だよ。今は違うようだけど」
なぜあんな姿になったのかは分からない。
相手の目からは恨みなどの負の感情が漏れ出していた。
こんな強大な力を持つ者に勝てるか不安に駆られる。
「大丈夫だよ。俺達なら勝てるって」
「ああ、僕もライオットがいれば百人力だよ」
「うざいうざい。これだからガキは困りますねえー」
そう強気に答えたものの相手の正体が分からないまま戦っても、勝ち目は薄いだろう。
そして、その黒い男が手を振り下ろした瞬間、戦いが始まった。
「――そして、ライオットとメフィルはその悪魔族との戦いに勝ち、ここに人間の国を作ったという話じゃ」
「「……」」
聞いたことがない歴史だった。
その話からするとメフィルはこの国の初代国王なのだろう。
そして、その事件による他種族との不和は消えそうにないと思えるほど深く、修復は不可能に近いとまで言える。
そして、今の時代に起きている戦争はこの争いが元となっているのだろうと皆は思った。
納得、理解。
ただし、一人をのぞいては。
「え、でもその悪魔族の男を倒したって、その後にどうやって国が建つの……?」
話からは人間族は大きな痛手を負い、存続不可能なぐらいだったのに。
回復魔術師である柏原亜里沙はその疑問を喉の奥に押し込めた。
なぜならクラスメイト達が疑問に思っていない顔をしていたからだ。




