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訓練の成果

遅くなりました。どうぞ。

 ダンジョンが崩壊した翌日。

 斗和達は冒険者ギルドにある訓練場に朝早くからいた。

 訓練場は斗和達以外誰もおらず、とても閑散としている。


 「よし、準備はいいな」

 「本当によろしいんですか?」

 「ああ、本気で攻撃してきてくれ」


 斗和はミアと訓練場で向き合っていた。

 他のリーシャとメルはそれを訓練場の端で見守っている。

 斗和が手に入れた力である『統括者』がどれほどのものなのかを試すのだ。

 そのためには一番わかりやすい魔法無しの対戦方式が良いと思い、必然的に一番真向からの勝負に強いミアと戦うこととなった。


 「では、参ります」

 「ああ、来い」


 ミアが宣言と共に足を一歩踏み出したと見えた瞬間、ミアはすでに肉薄している。

 近づく訓練ようの木剣。

 反応できないのか斗和が動こうとしない事に、端で見ているリーシャとメルは危機感を抱く。

 そして、木剣が斗和の脳天めがけ雷のような速さで振り下ろされ、斗和の頭が割れたかのように思えたがすでにそこには斗和がいなかった。

 気配を感じミアは背後を見やる。

 そこにはさっきと同じ姿の斗和が立っていた。

 上からの振りから後ろにいる斗和へ無理やり横に一閃。

 だがそれも当たる感覚は無く、斗和はまたミアの背後に立っていた。


 「まさか、斗和様がここまで強くなっているとは……」

 「俺もびっくりだよ、体が強くなっても精神が追い付くのか心配だったけど攻撃される瞬間周りの動きがとてもゆっくりに見えるから俺でも避けられる」

 「なるほど、それならこれはどうですか?」


 そう言って、ミアはまた上段から剣を振り下ろす。

 だがその攻撃は斗和にとってゆっくりと見え、余裕綽々で横にずれる。

 だが、ミアはそれを見て笑みを深めた。


 「っ!!」


 急に本能がそこにいては危ないと訴えかけているように思え、後ろに跳ぶ。

 すると自分がさっきいた地面が鈍器で殴ったかのように陥没した。


 「もう少しだったのに」

 「あ、危ねえ。なんだったんだ今のは」


 視界が通常の時間へと戻され、ミアはその様子を見て当たらなかったことを悔しそうにしているのが見てとれた。

 ってか地面がいきなり割れるってどういうことだ?

 どんなに早い攻撃も今の自分なら見れる自信があるが、さっきの攻撃は見えなかった。


 「一体何をしたんだ」

 「簡単です。斬撃をそこに置いたんです」

 「斬撃を置く?」


 なんだそれ?

 まず斬撃って置けるものなのか?

 その事をミアに聞くと、よくぞ聞いてくれたという雰囲気で解答してくれた。


 「自分は魔法の適正が無いので魔法が使えない、では体にある魔力は使えないのかというとそういことはなかったんです。その魔力を剣に込め切ると斬撃を飛ばせたり、また剣の切れ味を上げたりできるんですが、斬撃という衝撃をその場に残すということができると分かったんです、それで――」

 「お、おう」


 目を輝かせながら話し続けるミアに少しのけぞる。

 元からこんな性格だったっけと首をかしげた。


 「はいはい、ミアさんそこまでです。トワさんが困ってますよ」

 「あ……すいません、トワ様」

 「いや、いいんだ。それほどミアが努力したんだって分かるし」

 「///」


 ミアを見つめ、頭に乗っていたゴミを取ってあげ、ついでに乱れた髪を少し手ですく。

 ミアは先ほどの自分を思い出したのか頬を染め俯いてしまった。

 うん、分かるぞ。冷静になって興奮した時の事を思い出すと恥ずかしいよな。

 うんうんと頷いている斗和をメルがジト目で見ていた。


 「トワさんはどうも鈍感みたい……」

 「そうじゃのう」

 「うん、鈍感」

 「ん?何か言った?」

 「いや、何でも無いよ」


 メルとリーシャとコマチがなんか言った気がするが、声が小さ過ぎて聞こえなかった。

 ミアとの対決方式の訓練も今日はこれで終わりにし、昼近くになったのでピコちゃんの父親が作ってくれたお弁当を広げて皆で食べる。

 食べていると、続々と他の冒険者達が訓練場にやってきた。

 訓練場は広いので個々の訓練に取り組むことができ、多くの冒険者が訪れ多種多様な戦法が見ることができるので、自分にあったスタイルを探すということにもうってつけである。


 「俺の戦闘スタイルはなんなんだろうな」


 弁当箱に入っていた塩で焼かれた鳥肉を食べながら、冒険者達を眺める。

 斗和は魔物使いという職業で直接戦闘する機会というのはあまりに少なく、なんとなく剣を振り回していたのだが、力を持った今、自分にあった戦闘スタイルというのを見つけるのもいいかもしれない。

 周りにいる冒険者の戦い方や武器を見てもあまりピンとはこないのだが。


 「よし、次は我の番じゃの」


 一足先に食べ終わったリーシャが立ち上がり、柔軟運動などしてウォーミングアップをする。

 今度の相手はリーシャである。

 リーシャは主に魔法主体の戦い方なのだが、その使う魔法は特殊で近接戦闘も可能としてしまうためこの中では一番バランスが良いのかもしれない。


 「よし、俺も準備は完了だ」

 「ではやるかのう」


 リーシャの周りに火の玉が浮かぶ。

 その数はゆうに百を超しているだろう。


 「まじか」

 「これくらいできぬとレーゲンに怒られるからのう」


 レーゲンは確かに炎の魔法を得意としていたように思える。

 そのレーゲンから直々に教えてもらっているのなら油断をしてはならない。

 リーシャが手を下に振り下ろした瞬間、浮かんでいた火の玉がマシンガンの弾のように音速でこちらへと飛んでくる。

 それも普通に飛んでくるわけではなく、途中で火の玉が分かれ点の攻撃から面の攻撃へと変更され回避しづらい。

 それでもまだ避けられる余裕がある。


 「さすがじゃのう、ならこれでどうじゃ」


 残った火の玉全てが一斉にこちらへ飛んでくるが、それを斗和は危なげなく避ける。


 「っと、あぶね」


 避けたと思った火の玉が戻ってくるのが気配で察知し、急な回避行動をとらされる。

 避けても避けても火の玉がついてくる。


 「なるほど、ホーミングか」

 「どうじゃ、ほれほれ」


 楽しげに手を振り火の玉を操るリーシャに、このままではらちが明かないと直接攻撃を試みる。

 が、そのリーシャの前に炎の壁が出現し、リーシャに届きそうなところで退くこととなった。

 なかなか攻めきれない。


 「なら、こっちも魔法を使ってみるか」


 実は『統括者』というユニークスキルを手に入れたことにより、魔法も使えるようになった。

 その使えるようになった魔法から一つの魔法を選び発動する。

 その魔法は氷結魔法。

 氷結魔法はコマチが使えるために自分も使えるようになったのだ。

 その氷結魔法を手と足に宿らせ、迫る火の玉に対し殴る蹴るを繰り返して霧散させていく。

 全ての火の玉を霧散させ、リーシャへと向かう。

 また近づいてきた斗和に対し、リーシャはもう一度炎の壁を作るが斗和は体全体に氷結魔法を宿らせ突破を試みた。


 「なんと、破られてしもうたのう」

 「次はこっちの番だ」

 「そうはいかないのじゃ」


 炎の壁を抜けるとリーシャすでに遠くへと退避しており、リーシャの右腕は龍のそれへと変化していた。

 龍撃魔法の一部開放。

 リーシャの龍への変化をあまり見たことがなかった斗和はそれを見て驚く。


 「龍の手になってる!!」

 「驚くのはここからじゃ」


 その龍の右手を握りしめ前へと突き出すとその右手から青い炎柱がこちらに向かってくる。

 濃密度の青い炎は地面を焼き焦がし、まるで荒れ狂う竜のようだった。


 「これは直撃するとまずいな」


 何とか回避し、氷結魔法を練る。

 その間、リーシャは容赦なく斗和へと攻撃を続けている。

 しかし、このままでは当たらないと思ったのかリーシャは左手も龍化させた。


 「ふむ、これでどうじゃ」

 「うえ、なんじゃそりゃ」


 単純に一定時間の攻撃の回数が二倍に増えたという事だ。

 それにより斗和の回避ができる隙がとても少なくなり、氷結魔法に割いていた集中力を少しだけ回避に用いなくてはならない状況となった。

 容赦なく続く攻撃に焦りを抱く。

 あともう少し……。


 「あとちょっとだな…………よし、これで」


 回避と並行して魔法を練っていくのはとても難しかったが、ようやく完成した。

 その名も、氷結地獄(コキュートス)

 全てを凍てつかせ何人もその氷から抜け出せないと言われている。


 「む……」

 「くらえ、氷結地獄」


 青い炎の円柱を放っていたリーシャだが、魔法を発動させる瞬間に感づいたのか、氷結地獄の範囲から逃れていた。

 そして、今まで放っていた青い炎はその姿のまま凍てついてしまう。

 意図的に氷結地獄の範囲を狭めたとはいえ、リーシャの戦闘での勘は侮れない。


 「ここまでにしようか」

 「そうじゃのう、うん、視線を感じるようじゃが」


 戦闘が終わったということで氷結地獄を解除し、周りを見てみると、訓練していた冒険者全員がこちらを呆けた顔で見ていた。


 「おい、あいつらのこと知っているか」

 「いや、俺は知らねえ」

 「何者だよ、あの女も男もやべえ」

 「上位の冒険者にあんな奴いたか……?」


 どうやら注目の的になっているらしい。

 どうしようか、とリーシャ達に尋ねると。


 「このまま訓練を続けましょう、私だけトワさんに披露できてません」

 「そうじゃのう、周りなんて気にせんでもええじゃろ」

 「そうです、トワ様の力を知らしめましょう」


 どうやら訓練続行に賛成なようなので、次はメルとの訓練となる。

 メルは純粋な魔法使いタイプで近接戦闘はそこまで得意ではない。

 その点が弱点と言えるので、今回の模擬戦はそこを突いていこうと思う。


 「では、始めるか」

 「はい、始めましょう」


 フードを深めにかぶったメルが手を前に突き出すと、斗和に向けて暴風が吹き荒れる。

 普通の人であれば立っているのもつらいほどの暴風に、斗和は平然とメルに向かって突き進む。


 「風神」


 風の塊がこちらへと向かってくる。

 暴風のなかで風による攻撃は見えずらい上に、避けずらい。

 まるで大きな拳のような風の塊が横を通りぬけていくのを見て、冷や汗が出る。

 だが、避けられないものではない。

 避けながらもメルに接近し、訓練ようの木剣をメルに向かって振り下ろす。


 「風神・鎧の型」

 「んなっ」


 自分に吹いていた風が消えたと思ったら、次の瞬間にはメルを中心に渦巻く暴風が吹き荒れていた。

 周りの土や石などを巻き込んだその風は、剣を弾く。

 そして、風の塊が反撃してきた。

 攻防一体となったこの魔法は恐ろしいと思う。


 「く、攻めきれないな」

 「よ、避けられるよ。どうしたらいいかな……」


 メルも攻めきれないようだ。

 そこで、ユニークスキル『統括者』があるからこそできる裏技を使う。


 「龍撃魔法、一部開放」


 右腕と左腕、肘から先が鱗に覆われて龍の手となる。

 リーシャの龍の鱗は綺麗な赤色だったが、俺の龍の鱗はどうも鈍い黒色らしい。


 「は?」

 「え、どういうことだ?」

 「トワ様は龍人族だったかのう」

 「……」


 『統括者』の効果をあまり知らないリーシャ達三人はとても驚いているが、コマチだけ当然だと少しだけドヤ顔をしている。

 先ほどのリーシャの戦いで学んだことを用い、両手から炎の円柱を放つ。

 リーシャのように火力の高い青い炎ではなく、普通の赤い炎だ。所詮付け焼刃なのでうまくコントロールもできず、メルの風によっていなされる。


 「トワさんはいつ龍人族になったんですか」

 「いや、俺人間なんだけど……統括者の能力でね」


 実はコマチに説明されるまでは知らなかったことなのだが、この『統括者』というユニークスキルは仲間の能力も使うことが出来る、そして、それは種族特有の能力であったとしてもだ。

 龍の腕となったおかげで腕力も上がり、剣を振るのもすごく軽い。

 しかし、それに対して消費魔力はとても大きいので、ここぞという時でしか使ってはいけないと分かる。

 龍撃魔法で牽制し、自分の膂力でメルに近づく。

 メルはその近づいてきた斗和に風魔法による大砲のような衝撃で近づけさせないように攻撃する。

 なかなか勝負が決まらず、消耗戦となり数分が過ぎた。


 「そろそろ、最後にしようか」

 「そうですね、最後に私も大技を見せようかな」

 「……?」


 そのメルの言葉とともにリーシャ達はすぐに距離を取り始めた。

 どのようなものなのか検討もつかないが、危険なのは確かだろう。

 斗和とメルも互いに距離をとり向かいあう。

 周りの冒険者は不穏な空気に反応し、斗和とメルから距離をとり傍観する。


 「いきますよ、雷神」

 「へ?」


 風がメルに向かって集まりだしたので、風による攻撃でと思っていたが、メルの頭の上には電撃が密集しているのが見てとれる。

 この現象は地球に居た頃に見たことがあった。

 それはプラズマ。

 科学に関する番組で見たことがあり、子供のころに見ていてすごく印象に残っている実験映像だった。

 それを科学の発達していないこの異世界で作り出したメル。


 「少しまずいな、だがプラズマには少しだけ弱点がある、はず」


 記憶の限りではプラズマは真空状態で引き起こされていたはず、それを崩すことが出来れば自然と消え去っていくのではと考えられる。

 そのため、さっきまで詠唱していた氷結地獄をキャンセルし、こちらも風魔法を用いる。


 「やっちゃえ、雷神」


 メルの掛け声とともに雷神が空から降ってくる。

 斗和は冷静にその様子を観察し、今までにない集中力で周りに被害がでないようにプラズマを解除していく。

 プラズマが当たるまでもう残された時間は少ない。

 もっと集中しろ、俺。

 自分を奮起させ、思考速度を数倍に引き上げる。

 あと五メートル。

 引き伸ばされた時間の中プラズマがゆっくりと落ちてくるのを見て、構築された魔法をいち早く理解、解除していき、そして残り三メートルとなったところで全ての解除に成功する。


 「これで、終わりだ」


 斗和が手を振り下ろした瞬間、上空のプラズマは跡形も無く消え去ってしまった。

 消えたことで思考時間は通常に戻り、緊張からか地面に座り込んでしまう。


 「あ、危なかった」


 あのままではこの訓練場に相当な被害が出ていたと思う。

 それを未然に防ぐことができたので本当に良かった。


 「おい、メルその技はなんだ」

 「新技だよ。名付けて雷神、風神と相まっていいでしょ」


 ミアがメルに近づいて聞くあたりミア達も知らなかったのだろう。

 プラズマについてつっこめばいいのか、風神雷神についてなぜそのネーミング?とつっこめばいいのか分からない。

 これで皆の力も確認できたし、ダンジョン攻略?祝いでピコちゃんの宿に頼んでちょっとした豪勢な食事を食べようという話になった。

 宿まではここが良かったやここは改善の余地があるね、とさきほどの訓練での話をしながら帰った。

 そして、次の日にはこんなうわさが流される。

 訓練場に現れた人外の四人組パーティ。その四人の素性は不明、種族も不明、分かることは関わるのなら死ぬ覚悟をしろ、というあんまりなうわさが流れるのだが本人たちはまだ知らない。



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