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レーゲン

 場面がリヒトからレーゲンへと移る。



 主人であるリヒトが死んだ。

 主人が死んだ従魔はどうなるのか。

 普通であれば従魔の契約が消え、野生の魔物へと戻ってしまうのだが。


 「リヒト様、私はどうすればいいのでしょうか」


 レーゲンは魔物にして知性を手に入れてしまったためか野生へと戻らず、リヒトの遺体をアイテムポーチに入れ、王国を目指して進んでいた。

 近づいてくる魔物はおらず、ただ歩き続ける。

 それから王国に着いたのは五日後のことだった。


 王城前にて。


 「通してください、王に魔王を倒したと報告しなくてはいけません」

 「だめだ、従魔でもないお前を通してはならぬ」

 「薄汚い魔物め、この王国から出ていけ」


 リヒトとその仲間達の活躍を知ってもらおうと王の元へ行きたかったが、門番がそれを許さない。

 リヒトと来た時と対応がまったく違う。

 抗議を続けていると、後ろから一つの馬車が王城に近づいてきた。


 「どけ、魔物が!」

 「どうぞ、お入りください」


 門番に言われるでもなく、馬車が来たので道の脇によると、その馬車の窓からでっぷりと太った男が顔を出し、こちらを笑っていた。


 「ほほほ、何か臭うと思えばあの弱きものの従魔か、いや、そのなりを見るにもう畜生に落ちたか」

 「くっ」


 そいつは他種族排斥を推進していた元締めだった。

 王国にいる時によくリヒトとその仲間の邪魔をし、こすいいじめを繰り返していたのを覚えている。

 もう自分には守るものもないのでここで殺してやろうか、とも思ったがリヒトが言っていた言葉を思い出した。


 『こんな事する奴は相手にするだけ無駄だ』


 やり返すのに能力を使うのではなく、今大切な事に全力に取り組むのが一番とよくリヒト様が言っていた。


 「ふん、くたばれデブが」


 やり返しはしない、しないがちょっとした事ならいいだろう。

 王城には入れそうにないのでまた明日来ようとこの場を去る。

 後ろから怒声が聞こえてきたが無視した。


 次の朝。

 今日は正面から王城へと入るのではなく、教えられている秘密の入り口から入る事にした。

 王城の裏にある空き家に入り、隠し扉を見つけ入るとそこには王城へと繋がる道が現れる。

 その道を進み、光があるところに出るとそこは謁見の間だった。


 「ここは、謁見の間ですか」


 すぐに気配を殺し、王の住む部屋へと見つからないように進む。

 メイドが掃除をしていたり通路で会話していたが気づかれず横を通っていく。


 「失礼します」


 ドアをノックし、王の部屋へと入る。

 部屋は豪華に飾られているわけでもなく、きれいに整頓されているといった印象を受けた。

 王はその部屋のベッドに座っている。


 「王よ、報告に上がりました」

 「あ、ああ、レーゲンか」

 「はい、私以外戦死してしまいましたが魔王を倒すことができました」

 「そうか、死んでしもうたか。――それは良かった」

 「は?」


 王は今何と――。


 「処分する手間が省けたわ」

 「一体何を言って……」

 「簡単なことだ。お前達は処分するために魔王軍と戦わせたんだ、我が国の勇者が魔物を引き連れていたなど恥でしかない、確かリヒトだったか?魔王を追うと提案してまさか相打ちになるとはいろいろと手間が省けたよ、感謝する」

 「…………」


 動揺する。

 他種族に寛容であると噂されていた王は、実は他種族排斥派であった。

 では一体自分達は何のために戦っていたのかが分からない。

 仲間の顔が浮かんでは消えていく。


 「ひっ」


 遠くで悲鳴のようなものが聞こえるような気がした。

 だが、それは近くにいる王が引きつった顔で出した声だと理解する。


 「敵襲だ、儂の部屋に早く来い」


 遠くに声を届けられる魔道具を使い、騎士達を呼ぶ。

 王の顔は醜悪に歪んで見えた。


 「お前達はこの国にいらないんだよ、俺の国に入ってくるのは許さない」


 怒りを通り越してもはや何も考えることが出来なかった。

 騎士の鎧を鳴らす音が聞こえてくる。

 レーゲンは王の部屋の窓を割り、王国を去ることに決めた。


 王国から離れた地にて。

 レーゲンは王国から離れた村の近くに来ていた。

 この村はリヒトが育てられた村で、バラド村という名前だったと思う。

 その村の近くにあるレーゲンがいる場所は、今の季節に花が咲き誇り綺麗なところだった。

 花を一瞥し、そこにある大きな木の下にリヒトの遺体を埋める。

 埋めながら思うのはさきほどの王の態度、自分達は人間を守るために戦ってきたがその人間は感謝することもなく、ただ毎日を生きている。中には王のように貶してくる奴までいた。

 自分達の夢だった全部の種族が手を取り合える世界というのはとても遠いと感じる。

 そんなことを思いながら、リヒトの遺体を埋め終えて悲しさにリヒトが眠っている地面を見つめた。


 「自分はこれからどうしたらいいんでしょうか」


 眠り冷たくなった彼の主人からの返答はない。

 うなだれていると、ふと一陣の風が自分の頬をなでるかのように去って行った。


 「今のは……」


 その風はただの風ではないと気づく。

 魔力を多く含み、リヒトが眠っているところに向け吹いている。

 辺り一面にある魔力がかき集められ、リヒトの墓に魔力だまりが発生していた。


 「まずい」


 魔力だまりはまだ研究が進んでおらず、何が原因で起こるのか、魔力だまりで何が起こってしまうのかが判明していなかった。

 魔力だまりで起こった一例としては大きな竜巻が起こり、国に人的、物的被害が多くでたという例だ。

 このままでは巻き込まれてしまうと離れると、次は地が揺れ始めた。


 「一体何が起きるんだ」


 リヒトの眠る場所が隆起していく。

 そして、数分後には揺れも収まりそこには土でできた入り口があった。


 『レーゲン、俺はどうなっている』

 「その声は……リヒト様!」


 頭の中にリヒト様の声が聞こえてくる。

 しかし、この声は本当にリヒト様の声なのかが分からない。


 『俺は死んでしまったはずだが』

 「リヒト様、ですよね」

 『ああ、俺はリヒトだが、自分の体が見えない。どこか暗い場所は見える』


 それは前にある入り口の中にいるということなのだろうか。

 すぐに、リヒト様を探すために中へと入っていく。

 中は暗く、人間にはほとんど見えない暗さだった。

 だが、レーゲンは目以外に周りの状況を感知する能力があり、暗くて何も見えなくても問題ない。


 「どこにいるのですか?」

 『おお、レーゲンが見える。ここだよ』


 周りを見るが何も存在しない。

 しかし、リヒト様の気配を感じるのは確かだ。

 もしかして……。


 「リヒト様、もしかしてこれ全体がリヒト様の体なんじゃ」

 『全体?何を言って……そういえば見えている位置がおかしいような』

 「やはり、これ全体がリヒト様……」


 魔力だまりにより起こされたのは、リヒトの蘇生。

 しかし、それはそのままでの蘇生ではなくダンジョンという形でだった。

 レーゲンはそれでもうれしかった、自分が仕える主が死んで自分も生きる道を失っていたがまた仕えることができる。


 『そうか、俺は生き返ったのかこんな形で』


 その声には後悔が滲んでいるようだった。


 「私はリヒト様が生き返ってくれてうれしいです」

 『俺は夢を叶えたかったがな』

 「それなら……その、夢を託せる人物を探すのはどうですか」

 『夢を、託す』


 リヒトはすごく悩んだが、最終的にはレーゲンの案に賛成する。

 それからは自分が夢を託せる人物を探すため、ダンジョンとしての発見、運営をさせるための誘導を王国のほうで行う。

 計画は順調に進み、王国では冒険者が主にダンジョンへと来るようになったが夢を託せそうな人物とは会えずにいた。

 それから長い時間が過ぎる。

 ダンジョンは最初二十階層ぐらいしかなかったのが、五十階層まで成長し、レーゲンは二十階層で階層主になった。

 冒険者も二十階層より先に進める強者が増え、レーゲンは戦うことはせずに質問に答えたら次の階層に進めるようにした。それは、冒険者や冒険者の家族への情けであり、質問により夢を託せるのか見るという目的もある。

 待ち続けて、待ち続けて、待ち続けて。


 そして――――。


 『君が来たというわけだ』

 「……ああ、そうか」


 頭の中に声が響くが、もうそれには不気味に感じていたものはない。

 見てきた記憶により彼――リヒトの気持ちがよく伝わってきた。


 「俺はその夢を託せる人物に選ばれたというわけか」

 『ああそうさ、押し付けるようで悪いが叶えてくれないか』

 「俺もこの夢は叶えたいと思った、だが、俺にはリヒトみたいな力や覚悟がない。だから違う人をあたってくれ」

 『すまないがそれももう無理だ。ダンジョンにも寿命があるしそれはもう近い。力なら俺が与えようと思う、配下も一人つける、覚悟は頑張って付けてくれ』


 そう言うと暗かった世界が光り輝いた。


 『起きる時だ、最後にお前に合えたことに感謝する。これで俺は迷いなくあの世に待つ仲間の元へ行ける』




 そして、俺は目覚めた。




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