リヒト
いや~、長くなってしまいました。(文章量が)
あ、それとPV数15000達成ありがとうございます。
読者様に感謝感謝です。
それでは、お話をどうぞ。
俺は今夢を見ているのだろうか。
目の前には小学校低学年ぐらいの少年が田を耕していた。
恰好はTHE農民という感じだ。
周りにも田んぼが広がっており、そこには少年の他にたくさんの人が農作業をしている。
「おーい、リヒトー」
「うん?あ、ケン」
田畑の向こうの方から少年を呼ぶ声がし、そこにはいかにもやんちゃ坊主といった少年が手を振っていた。
どうも、会話から農作業している子がリヒトで、声をかけた子がケンという名前なのだろう。
リヒトはそのケンの元に向かおうと田んぼから出て、走ってくる。
――ってぶつかる。
『はえ?』
リヒトはこちらに向かって走り出し、ぶつかると思った瞬間体がすり抜けてしまった。
自分の体を触るが実体はある。
不思議に思ってリヒトを追いかけ、触れようとするが触れられない。
それは周りにいる人も同じだった。
「それでどうなったの、ケン」
「ああ、聞いてくれよ、俺騎士育成学校に受かったぞ」
「ほんと!?それはお祝いしなくちゃ」
「するほどでもねえって、頑張るのはこれからだよ」
ケンはうれしさのあまり見えていなかったようだが、リヒトの顔はうれしさと悔しさの混じったような顔をしているように見える。
その表情を見ていると、ふと頭の中に情報が入ってくる。
それはこの村とリヒト、ケンについて。
まずこの村はどこにでもある農村で、名前はバラド村、特に名産品は無く一週間に一回来る行商人と農作物を必要な物と交換して暮らしているようだ。今は十世帯ぐらいが暮らしているため村としては小さい方だろう。
そして、リヒトに関しては元はその村の住人ではなかったが、冒険者である父が村を守った際に育ててくれと村長に預けられたのがリヒトである。
ケンはその村長の孫で、リヒトと同い年だ。
「じゃあ、訓練してくるから、また後で」
「うん、森の中では気を付けて」
そう言って、ケンは鋼鉄製の片手剣を担いで大人達と狩りに出かけた。
この村の近くの森にはあまり強い魔物は生息しておらず、初級冒険者でも十分に魔物を倒す事ができる。
リヒトはそのケンの様子を羨ましそうに眺め、また農作業を開始した。
「僕には騎士は無理だしなぁ」
呟いた独り言は誰にも聞かれることはなく、消え去る。
リヒトは騎士に憧れていた。
物語の中で騎士は悪い奴らにさらわれたお姫様を助けるため、剣を握り勇敢に立ち向かっていく。
その物語を見るたびに自分も騎士になって人の役に立ちたいと夢想していた。
だが、現実は非情である。
この世界の住人は十歳になると教会に行き、自分の天職を教えられる。
そして、ケンには重剣士という天職が与えられ、リヒトには魔物使いという天職が与えられてしまった。
その時点で騎士になるという夢が砕け散ったのだ。
『俺と同じ魔物使いだったのか……』
魔物使いは基本的に自分のステータスはすごく低い。
また、仲間にできる魔物は弱いスライムぐらいだと言われ、はっきり言うと未来がない天職である。
その天職を見たリヒトの反応は絶句だった。
「ふう、これで今日の作業も終了っと」
リヒトは農具を小屋の方に片付け、村長の家へと帰る。
その帰る合間に訓練として自分が作った木剣を振っているのは秘密だ。
しかし、いくら鍛えてもステータスは一向に上がらないために最近は諦めかけているが……。
「おう、お帰り」
「ただいまです」
「どうじゃ、ちゃんと育っておるかのう」
「はい、順調ですよ」
「そうかそうか、リヒトはこの村で一番作物を育てるのがうまいからのう。未来は大農家かのう、ふぉふぉふぉ」
「あ、あははは……」
もちろん、村長もリヒトの天職が魔物使いなのは知っている。
その職はあまりにも不遇職なためだいたいは農家として人生を終わる人も少なくない。
最近の村長との会話はリヒトにとって苦痛でしかなかった。
場面はがらっと変わり三年後。
場所は見慣れた村長の家。
そこにはケンとリヒトが村長の前に立っていた。
『どういう状況だ?』
村長の家では緊迫した空気が漂っている。
リヒトが口を開く。
「村長、僕はこの村を出て冒険者となり世界を冒険します」
「それはならん!お主が冒険者となってもすぐ死んでしまうだけじゃ」
「俺からも頼むよ、リヒトの夢を叶えてあげたいんだよ」
「お前は黙っとれ!」
リヒトは騎士になるという夢を諦めた後、それならば冒険者となり世界を冒険したいという夢を持ったのだ。
しかし、それを村長は良しとしない。
村の住人も村長と同じ考えのようで、リヒトには村に残ってほしいと言っていた。
「私は冒険者として生きていきます。今までありがとうございました、では」
「行ってはならん!」
「じゃ、俺も騎士育成学校に行く準備をするから」
そう言ってケンは自分の住居へと帰っていく。
それに連れ添ってリヒトも村長の家を去る。
「それでリヒトはいつこの村を出るんだ?」
「もう今日の内に出ようと思うよ。準備はできてるしね」
「そうか、もう会えなくなるかもしれないな、俺たち」
「いや、冒険者で活躍して会いに行くよ。その時はケンも騎士長になってるかもな」
「はは、そうなってるようがんばるぜ」
リヒトとケンは拳を突き合わせ、自分の進む道へと向かう。
リヒトは必需品をまとめて入れた袋を背負って冒険者ギルドのある町へ。
ケンは明日の騎士育成学校に行く準備のために自分の家へ。
リヒトは村から出た事が無かったため、昂揚感を感じながら町へと歩を進めた。
また場面が飛ぶ、今度は二年後。
リヒトは冒険者として活動していた。
冒険者としての拠点はマルバーンという王国である。
最初のほうは先輩冒険者に騙されたり、魔物の集団に遭い死にかけたりと悲惨だったが今は軌道に乗ってきた頃だった。
横には従魔となったシルバーウルフとレッドスライムがいる。
この二体はマルバーン王国の近くの森に生息しており、シルバーウルフは飢えて死んでしまいそうなところを助けると懐かれ従魔となった。レッドスライムはどうも人間の声が分かるらしくこっちには危害を加える気は無いと伝え長く接したことで従魔となってくれた。
レッドスライムの名前はレーゲン、シルバーウルフの名前はヴォルフにした。
今ではこの二体の従魔が大体の魔物を狩ってくれるので、依頼も楽に達成できる。
「リヒトさん、こんにちは。今日は試験ですよね」
「はい、いつから開始ですか?」
「もう少しお待ちください。試験官を連れてまいります」
受付嬢の言葉通りそこら辺の椅子に座って試験官を待つ。
今日はゴールドランクの試験を受けるつもりだ。
今も昔と変わらずランクの上から順にオリハルコン→ゴールド→シルバー→ブロンズ→紙というランク分けであり、ゴールドランクとなるとその国の主要冒険者に仲間入りとなる。
二年でゴールドランクまで上り詰める冒険者は一握りしかおらず、リヒトは今もっとも注目されている冒険者と言って過言ではない。
椅子に座り、果汁水を飲みながら待っているとギルドの奥から高身長ゴリマッチョの男が受付嬢と共に現れた。
「おう、坊主が試験を受ける奴か」
「はい、リヒトって言います、よろしくお願いします」
「この方は元ゴールドランク冒険者のガジャさんです」
お互いの自己紹介も終え、受付嬢から試験の内容を聞かされる。
内容はこのガジャさんとの戦闘。
勝利条件はガジャさんから五分逃げ切ったら勝ちというものだった。
「俺は元ゴールドランクだからな、引退したっていっても油断するんじゃねえぞ」
「いえ、油断はしません。油断は冒険者にとって命とりですから」
「よく分かってるじゃねえか、坊主」
「では、訓練場に案内します」
訓練場に案内され、双方向かいあう。
俺は天職が魔物使いなので、レッドスライムのレーゲンとシルバーウルフのヴォルフが一緒に戦ってくれる。
「それでは開始してください」
受付嬢の言葉と共にガジャさんが自分に向かって突進してくる。
が、それは予測されていた行動の一つだった。
すぐに横にいたレーゲンが自分の前に炎の壁を作り、ヴォルフがガジャさんに向かって風の刃を三つ飛ばしていた。
「おっと、危ねえな」
「動きを止めたら狙われますよ」
ガジャさんにできた一瞬の隙に、ナイフを投擲する。
残念ながらガジャさんはその攻撃を見切り片手に持った盾で防いでしまう。
よくシルバーウルフとレッドスライムは中級冒険者にとっては獲物でしかないので、雑魚だと見下すがレーゲンとヴォルフは違った。
レベルはすでに八十を超え、ステータスに関してはほぼだいたいの数値が千を超えている。
「こっちからも攻撃さしてもらうぞ」
ガジャさんは一度離れると、片手剣を上に持ち上げ振り下ろした。
この動きは冒険者をしていて何回も見てきたために、避けることができる。
すぐさま横に回避をすると自分がいた場所に風が凪いだ。
「ふう、危なかっ、ぐっ」
いつも見ていた冒険者の飛ぶ斬撃はだいたい多くても三個ぐらいだったが、ガジャさんは違った。
危険を感じ、前に剣を構えたために直接受けることはなかったが、ぎりぎりである。
見たところガジャさんのさっきとばした斬撃の数は五個。
一振りでそれぐらい飛ばすのだから、やはり元ゴールドランクであったことが分かる。
「今のを受けてよく耐えることができたな」
「それぐらいできないと自分は生きていけないので、ねっ」
お返しにナイフを三つ投擲して牽制する。
だが、やはり盾により弾かれた。
レーゲンが炎のランスを数十個飛ばしてもすべて斬撃により撃ち落とされ、ヴォルフの風の魔法を纏った突進もいなされる。
ここで万事休すか、と思われたが受付嬢により戦闘終了の笛が鳴らされた。
「終了です、五分が経ちましたのでリヒトさんの勝利です」
「おう、もう経ったのか。もう少し戦いたかったがしょうがない、今日からゴールドランクの仲間入りだな」
「あ、五分経ちましたか……ふぅ、疲れました」
ヴォルフは動き足りないのかまだ臨戦状態になっているが、レーゲンは疲れたのかぐにゃっと地面に広がっている。
ヴォルフを落ち着かせ、レーゲンを拾って冒険者ギルドへと戻った。
「はい、これが新しいギルドカードです」
冒険者ギルドに戻って手続きを終え、数分後に金でできたカードが渡された。
そこには自分の名前が記されており、ゴールドランクになれた喜びがあふれてくる。
そして、その日の夜は泊まっている宿で祝賀パーティを開き、先輩冒険者や後輩冒険者から祝福され楽しい一日が終わりを告げた。
『騎士にはなれなかったが、冒険者としてすごく強くなったんだなぁ。俺も魔物使いとして負けてられねえな』
どんなに喋ろうがやはりそこにいる人たちには声は届かない。
これは何かの誰かの記憶か自分の夢なのかもしれないと思った。
そして、またも時は飛び二年後の事。
場所は変わらず冒険者ギルド。
しかし、いつものゆったりとした冒険者ギルドではなく、今は職員や冒険者全員がとても慌ただしげに動いていた。
「魔王が現れました。魔王軍が攻めてきます」
「やべえ、この国ももう終わりか」
「俺はまだ死にたくねえ、逃げさしてもらうぜ」
受付嬢達は魔王軍の襲来を知らせ、冒険者達に対処してもらえるよう呼びかけている。
しかし、一方で冒険者達はランクに関わらず他の国へと逃げようと準備をしていた。
その騒動の中で動じず、魔王軍が攻めてくる方向を睨んでいる者が一人。
「俺は魔王軍と戦いたい、皆俺と一緒に来てくれるか?」
「いいよ」
「しょうがないですね」
俺は従魔であるレーゲンとヴォルフに魔王に挑むことを伝える。
俺達は二年ですごく強くなった。
まず、従魔であるレーゲンとヴォルフだが魔石を食べらせていると人型へと進化するということが起き、ステータスはすでにオリハルコンランクの冒険者に対し片手で勝てるぐらいのものになっている。
俺?俺はゴールドランクの底辺ぐらいだ。
『それでも、ゴールドランクの底辺ぐらいのステータスまで鍛えたのはすごいな』
斗和はリヒトの努力が恐ろしくすごいものだと理解できる。
自分は平和な日本に暮らしてきて、血のにじむ努力というのはしたことがない。
それは想像もできないものなんだろう。
そして、リヒト達は召集がかけられている王宮へと向かった。
「集まってくれて有難い。我はアイル・マルバーンこの国の王である、ここに集まってもらったそなた達は未来勇者として伝えられるだろう」
王宮に来ているのは、自分を含めて五人。
主人が王に忠誠を誓っているため、連れてこられた奴隷のエルフ。
リヒトと同じくこの国を守ろうと参上したトラの獣人の冒険者。
友好国である龍人の国から送られてきた龍人族の武人。
王の命令で参上したドワーフの武器職人。
そして、俺。
この五人で魔王軍を迎え撃つらしい。
偶然のことだが全員が違う種族だった。
この人間の国の貴族は他種族が嫌いなのが多い、憎しみを持つ者も少なくない。
今も王宮にいる貴族が俺以外に憎しみを込めた視線を送っている。
本当にくだらない。能力でいえば人間よりはるかに上なのに。
「あ、私クルルと言います。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。俺――じゃなくては私はリヒトって言います」
「敬語を使わなくてもいいですよ」
奴隷であるエルフの少女の自己紹介で皆の自己紹介が始まった。
「俺はラオンだ。よろしく頼む」
獣人のラオンさんは顔は怖いが話をすると気さくな人だと分かり、打ち解けた。
「私はダースです。以後お見知りおきを」
龍人のダースさんは世界にある武芸を学ぶために冒険をしていたらしい。
「儂はゴズだ。よろしくのう」
ドワーフのゴズさんは王宮で武器の手入れを任されていたらしく、鍛冶に関しては王国一だと自負していた。
自己紹介も終わり、王からはバックアップとして上級のポーションと魔法が付与された武器、防具、マジックアイテムなどが下賜された。
王は特に他種族に関して差別はせず、全員平等に配られた。
「勇者達よ、この国を頼んだぞ。我はそなたらが魔王に打ち勝つことを信じておる」
王のその言葉とともに各自の準備へと入り、配置へと着く。
魔王軍は王国の東側から攻めてくるようで残り時間はそう多くない。
そして、準備して待つこと数十分後、遠くから煙を上げて魔物と暗黒騎士の集団が迫ってきた。
迫ってきた魔王軍に対し、王国は砲弾による先制攻撃をする。
そして、俺達は魔王軍とぶつかった。
それはひどいものだった、戦場は魔法の応酬に剣撃と怒声が飛び交う。
集められた王国騎士達の中には何もできずに散っていた者も少なくはないだろう。
それほど激しい交戦だった。
仲間達も無傷とはいかず、先頭で戦っていたラオンはたくさんの切り傷を作り、同じくダースも酷い火傷を負った。
俺は奇跡的にもそこまで大きな傷を負うことはなかったが、いつ死ぬかもしれない戦場に恐怖しながら必死に戦うのに精神がすり減る。
従魔のレーゲンとヴォルフもそこまで酷い怪我はなく、善戦していた。
それからも戦いは続き、すでに十日たった頃仲間に初めての死者が出た。
それは獣人であるラオンだった。
彼はこの戦いが終わったら報酬として獣人の国と交易を開きいつか獣人と人間、いや全種族が手を取り合える世界を作りたいと話していたのを思い出す。
その夢はいつしか全員の夢にもなっていて、ラオンを筆頭に頑張ろうと決めていたのに……。
「なんで、死んでしまうんだよ……」
「ラオンは魔族の罠にはまって死んだんだ」
それは非道な罠だった。
魔族に親族を人質に取られた獣人の子供を戦場の真っただ中に置き、近づき守ろうとしたラオンを子供に埋め込んだ爆弾でもろとも爆破したらしい。
それは許せるものではなかった。
リヒトは怒りをおしこめ、明日の戦闘のために恨みを残しておく。
ラオンの分も殺せるように。
そして、魔王軍との戦闘からまた十日経った頃、魔王軍に対し油断はせず状況としてはこちらが勝っていた。
将軍の首もすでに三つ討っており、残りは奥に潜んで居る魔王と数名の将軍だけだ。
こちらの被害も相当でているため、早く終わらせないといけない。
そのため、今日がこの戦いの最後となる予定である。
「終わらせるぞ、ラオンの夢を叶えるためにも」
「ああ、頑張りましょう」
「はい」
「そうじゃのう」
そして、二十日に及ぶ戦いが今日限りで終着する。
激闘のすえに魔王軍の将軍全ての首を打ち取り、魔王を追い詰めた。
しかし、魔王は戦うと思いきや逃走を選んだ。
逃げ込んだ先は魔王城。
その行動に怒りが抑えられない俺達は王様に戦闘の修了を言い渡し、すぐさま魔王を倒しに追いかけた。
長い旅だった。
魔王を追いかけるのは残った四人。
エルフであるクルルは功績として奴隷を解放され、俺達の旅に着いてきている。
旅の中で他種族の村や町などに行く機会があり、他種族の人たちは旅をしている俺達に優しくしてくれた。
ラオンと俺達の夢は叶うという希望が出てくる。
そして、長い旅の末魔王城へとたどり着くことができた。
「…………」
言葉は不要。
誰もが無言で魔王城の門番を蹴散らし、中へと侵入する。
現れる魔物や魔族は瞬殺し、最上階を目指して突き進む。
俺達に敵う魔族はすでに存在しない。
突っ走りついに魔王がいる最上階へと着いた。
「よく来たな勇者達よ」
「死ね」
魔王の言葉を聞きたくない。
すぐに、魔王に接近して剣を振り下ろす。
が、しかし――。
「おいおい、話を十分に聞けんのか。ここは魔王城だ、吾輩の力は上がるに決まっておろう」
「ちっ」
振り下ろされた剣は掴まれ、折られる。
仲間達も続き攻撃するが、かすり傷しか与えられない。
それに対し、魔王の攻撃は恐ろしい威力を秘めていた。
手を振ると地面が爆ぜ、魔法は無詠唱で平行詠唱。
ここまでか、と思われた時。
「リヒト様。今までありがとうございました、ただの獣であった私をここまで育ててくれたことに感謝しています」
「っ、おいヴォルフ何を言っている。それではまるで、お前は……」
死んでしまうかのように。
ヴォルフは笑っていた、そして、魔王の元へと突進ししがみ付く。
「ふむ、畜生に抱き着かれる趣味はないんだが」
「俺も貴様に抱き着く趣味はない。一緒に死んでもらおう」
ヴォルフの体が光り輝く。
その光は自分のMP、そして生命力を糧にしたものだった。
「くっ、これはまずい」
魔王の表情にも焦りが見え、解こうとしているがヴォルフは離れない。
「ヴォルフ!!」
叫んだ瞬間、魔王とヴォルフを中心に爆発が起きた。
その爆発は魔王城全体を揺らし、天井は吹き飛んでしまう。
「ヴォルフは、魔王は――」
爆発の煙が風に吹き飛ばされると、そこにいたのは右手右足を失った魔王だった。
ヴォルフは跡形もない。
なぜお前は生きているんだという事に怒りを覚える。
「畜生が。よくも吾輩の右手と右足を奪い追って、くそがあああああ」
魔王が怒りとともに極大魔法の準備に入った。
魔王城の上には十個以上の魔法陣が出現。
阻止しようと魔王を攻撃するが、魔法による結界が全てをはじいてしまう。
「くそ、ここまでか」
ついに決意は消え去ってしまう。
膝を着き、失意とともに倒れる。
「いえ、まだ諦めないでください」
「そうですよ、いつもリヒトさんが導いてくれたじゃないですか」
「そうじゃぞ、今度は儂らがリヒトに恩を返す番じゃの」
ダース、クルル、ゴズが手をつなぎ上空の魔法陣を睨む。
「これで終わりだ、死ねえええええ」
魔王による全属性の混じりあった魔法が撃ち落とされる。
三人はその魔法に対抗すべく結界を張った。
ただ魔力のみで張った結界はなす術もなく破壊されるだろう。しかし、それでも耐えているというのはそれは魔力以外も消費しているという事。
「まさか、生命力を犠牲に」
肯定はない。
だがそれしかありえなかった。
くしくもそれはヴォルフと似た行動。
三人は自分に対し笑っていた、苦しいはずなのに笑っているのだ。
「あとはリヒト、お前が倒すんじゃ」
「任せました」
「リヒトならできると信じています」
魔王の極大魔法は三人の行動の結果、俺だけを生かすということとなった。
魔王は全力を尽くしたせいか、もう立ってもいられないらしく座っている。
「まだ、生きて、いたか」
「ああ、仲間のおかげだ。死ね」
剣を振り下ろすと固かった魔王の体に剣がめり込む。
確かに魔王の中の魔石を切った感触があった。
「吾輩もこれで終わりか、しかしお前も終わりだな」
「なっ」
最後の最後となって油断してしまった。
魔王はなけなしの魔力を使ったのだろう、俺の体は焼けただれる。
「リヒト様!!」
レーゲンは魔王の攻撃により削り取られた体のままはって近づいてくる。
しかし、もう遅い。
器官が焼き爛れ、息ができずすでに目は何も映さない。
「レーゲン、お前は好きに生きろ……」
肺に残った空気を無理やり出し、掠れた声で伝える。
そこで、リヒトという人物の人生は幕を閉じた。