異世界へ
「わしはそう、神じゃ」
このご老人は神と自分で名乗っているが、それはどうなのだろうか。
周りのクラスメイトも疑った眼を向けている。
「信じてないようじゃな。これはあまり使いとうなかったが……」
そう言い、ご老人の体から光が漏れ始める。
そして、その光に当たった瞬間――。
「あっ――」
体が自然と下がり、跪く状態になってしまう。
体が理解し、遅れて心までもが理解してしまった。この方が神であると。
神を中心に土下座までしそうな勢いだ。
「もうよい、顔を上げよ。だから、つかいたくなかったのじゃ、このような力……これで理解してもろうたようじゃな。話を進めるとしようかの」
神様のお話を簡単にまとめると。
俺たちはこれから魔法の技術体系が確立された異世界に飛ばされる。そこでは、人――いわゆる自分と同じ人間が魔族や魔物、亜人などと戦争をしており、劣勢のようだ。そこで、勇者召喚の儀式が行われ俺たちが呼ばれたというわけだ。少し神様はつまりづまり話していたため、まだ何か隠して話しているようだったが、それが何を隠しているのかは分からなかった。
「まぁ、このまま異世界へと行けば犬死となるじゃろうから、一つ……いや、二つスキルを与えようとおもうのじゃが、会得できるスキルは君たちがいままで生きてきた経験から付与されるわけじゃから、中にはすごいスキルを持っておる者、逆に待たざる者がいることはわかってほしいのじゃ。あ、それと一度決めてしまうと、後戻りできんからそれは注意じゃな」
神様が言い終えると同時に、目の前に半透明で長方形の物が出現する。
目を向けるとそこには――。
『気配遮断』 『料理』 『統率』 『観察者』
『忍耐』
の五つが記されていた。
一つ一つの説明を見てみると。
『気配遮断』 発動時に体全体はもちろん、自分が発する音や匂いなどを完全に遮断する。
(影が薄く、コンビニの自動ドアが反応しなかった回数が百回超えたため発現)
『料理』 ある程度の調理ならこなすことができる。
(男子であるが、一般の女子よりも料理が上手なため発現)
『統率』 百人ぐらいの小隊を統率することができる。
(生徒会に入った経験から発現)
『観察者』 自分以外のパーティーメンバーの会得経験値、成長率が三倍となる。
(ぼっち経験から発現)
『忍耐』 ある程度の痛みやストレスは耐えることができる。
(いじめられた経験から発現)
大半が不名誉な経験で出てきたスキルということが分かり、少しイラッとくる。
もっとましな経験があっただろう……。
見る限り、『料理』以外のスキルは異世界で生きていく中で使えそうだが、二つまでしか貰えないためにしぼらなくてはならない。
まず、『統率』は自分には不必要だ、人をまとめる性格ではないために論外である。
残りの三つなのだが、正直『気配遮断』があれば誰にも気づかれないため、忍耐はいらないのではと思う。
なので、『気配遮断』と『観察者』というスキルを選んだ。
まさに人任せのスキル構成となった。
「俺、三十個もスキルがあるからどれ選んだらいいと思う?」
「たくさんあるからまよっちゃうね」 「ねー」
周りから聞こえてくる声で分かったことがある。
俺の選べるスキルって少ないのでは……。
「まぁ、おぬしのスキルはレアなのだから、ええじゃろう」
「おわっ」
「おわ、はないじゃろう、お化けみたいじゃろうが」
いきなり横に現れたら誰だって驚くだろう。
「って、レアなスキルなんですか?」
「ああ、気配遮断は今までで君を合わせて三人しか見たことがない、それに観察者に至っては、今まで見たことがないからのう、よくある経験なのになぜこのようなスキルが発現したのかのう」
神様と話しているうちに、他の皆もスキルを決めたようだ。
「よし、皆きまったかの。そのスキルはユニークスキルじゃから、レベルはない。異世界で覚えたスキルはレベルがあるから習得したら、レベルを上げたほうがよいぞ。まぁ、ちょっとした助言じゃ」
そして、一旦言葉を区切り――。
「これはちょっとした忠告じゃ……自分のことを信じることじゃ、以上。さらばじゃ、勇者達よ。旅が良いものとなるよう祈っておる」
神様の意味深な忠告と別れの言葉を聞き終わったとき、この世界に飛ばされ時の光が再度起こる。
そして、そこには誰もいなくなった。
~神様視点~
「最後まで、ばれずに良かったわい」
――わしの失態が。
「まぁ、神の行いは全て正しいんじゃけどな」
「ああ、肩がこったのう、風呂でも入るか」
この後、この神様は他の神によって粛清されてしまうのだが、それはまた別のお話である。