ゴーレムの猛攻
お待たせしました。
目が覚め、朝食として持ってきた干し肉と黒パンをかじる。
この食糧を食べると後は一食分しかないので今日二十階層に行けなかったら諦めて引き返すという事を皆と話し合った。
各々が準備を整え、二十階層に向け出発する。
「昨日話した通り、アンデッドの魔物は私に任せてください」
「うん、わかった」
下るごとにアンデッドの魔物が増えていくので、まずは十六階層と十七階層で小手調べをする。
十六階層に下り、辺りを見渡すと魔物が結構いるということが分かる。
ここまで下りてくる冒険者も少ないために生み出される魔物が狩られずに増えてしまった結果だ。
「アンデッド以外の魔物は我とメルが倒すゆえ、安心してアンデッドで訓練するのじゃ」
「お願いします」
「メルも頑張ります」
群がっている魔物に近づくとこちらに気づき迫ってきた。
それに対応してメルは風魔法による風の刃で切り刻み、リーシャは龍撃魔法による火炎放射のような攻撃で蹴散らしていく。
ミアは流れるように剣を振り、魔物が寸断されていった。
十六階層にはアンデッドが出ず、そのまま十七階層へ。
十七階層に入った瞬間、何かが腐った臭いが充満しており、ゾンビなどのアンデッドが近くにいることが分かった。
そのためフォーメーションを変え、ミアを先頭にしてリーシャ、俺、メルのような並びで進む。
「お、いたいた」
数分進んだところにすぐにアンデッド系の魔物を発見。
スケルトンやゾンビ、それの派生した魔物が多くを占めている。
このなかには上位種はいないようなのでミア一人に任せても大丈夫だろう。
俺たちは後ろでピンチになったら助けるために控えておく。
「では、行ってきます」
「ああ、頑張ってこい」
ミアは始めからとばしていくらしく、速さが尋常ではない。
すでに俺には腕の動きが見えず、ミアが通ったところの魔物はすでに切られていた。
しかし、切られたとしてもやはりまだ生きている。
そのことに関してミアも苛立ちを感じているのかもう一段階動きが速くなった。
「ミア、もうちょっと魔力の動きを感じ取るのじゃ」
「私達には魔石の正確な位置は分かりませんが、ミアさんならできるはずです」
魔法を使ったことのない者に魔力を感じろというのはすごく至難な事らしいのだが、果たしてミアにできるのかすごく不安に思う。
ミアに群がっているアンデッドが増えているように感じる。
「奥からもアンデッドが来とるのう」
奥の通路を見てみると確かにミアのところに向かっているのが見える。
「あれはやばくないか」
「トワ様、心配なされるな。ミアなら大丈夫じゃ、信じて待ってやってほしい」
「それにほら、少しずつだけど倒せてるよ」
あ、ミアの近くにいたゾンビが消えた。
確かに何回に一回かは成功しているようだ。
あ、また倒した。
ミアをよく見ると目をつぶっている。
「まじか……」
あれはよく漫画とかでよく見る、目をつぶった方が他の感覚が鋭くなるというやつか。
まさか、現実でできるとは驚きだ。
それから十分ぐらい群がるアンデッドとそれを切り崩すミアという状態が続く。
これ以上は待てないともうすぐで加勢しようとした時。
「掴んだ」
ミアは目を開き、群がるアンデッドを見渡した。
スケルトンソルジャーがその仕草を隙としてとらえたか、大きく上段に構え剣を振り下ろす。
ミアはそのスケルトンソルジャーに対し一閃。
あっけなく散ってしまう。
その他のアンデッドはその様子を見ても何も感じず、ただ突っ込んでいくだけ。
全方位からの突撃にミアは剣を下ろしている。
「ミア、危ない」
今までに無かった全方位からの攻撃に、ミアが危ないと剣を持ち助けに行こうとしたのをリーシャに止められた。
なぜ止める、とリーシャを見た時ミアの周りにいたアンデッドが消え、ドロップ品が落ちる音が聞こえてくる。
ミアは納得したようでうんうんと頷いていた。
「やっと、魔石の位置が分かるようになりましたー」
戦っているとは思えないすごく嬉しそうな声で伝えてくる。
リーシャはそれを見て、大丈夫だっただろという顔をしていた。
それからというものミアの攻撃は適確に魔石を切り裂き、たくさんいたアンデッドはすぐさま排除されてしまう。
戦闘は終了し、本番の十八階層へと向かった。
――十八階層。
ここのアンデッドは数が多いし、それに加え中に上位種が混じっていることがあるため非常に危険である。
一回目はその多さに圧倒され一旦退いてしまったが、今回はミアもアンデッドを倒せるようになったのでこのまま二十階層まで行けると思う。
実際今ミアとリーシャによる戦闘ならぬ駆除が始まっており、哀れアンデッド達は一太刀の元に倒され、業火に焼かれみるみる数を減らしていく。
メルはリーシャの炎の助力をするため燃え広がるように風を送っている。
俺はその阿鼻叫喚しているアンデッド達のご冥福を願っていた。
戦闘が終わりこの階層にも用は無いし、すぐに十九階層へと続く階段を見つけ向かうことにした。
――十九階層。
十九階層に下りるとそこにはドーム状の空間が広がっていた。
イメージ的には東京ドームを想像してもらえれば分かるだろうか。
とにかく広い、そしてその広い空間の中央に魔物が見える。
「うん?あれは……」
遠くてあまりよく見えないがアンデッドではなさそうだ。
そして、一体だけずば抜けて大きいのがいる。
「あいつはやばそうじゃのう」
「トワさん、ちょっと隠れておいてください」
「あ、ああ」
今まで聞いたことのないリーシャのやばい発言に俺も危険を感じすぐにユニークスキル『気配遮断』を発動する。
ミアは何も喋らず様子を伺っているので、ミアも危険だと感じているのだろう。
ゆっくりと警戒しながら中央にいる魔物に近づくと、その姿形がくっきりと見えてきた。
「あれはゴーレムか?」
大きな黒い石材で作られていると思われる体に目には赤い宝玉が嵌められている。
そのゴーレムが全部で十二体。
いずれも大きさが人間大である。
そして、遠くからでも大きいと分かった個体はよく見ると体の至る所に宝石がはえており、目の宝玉は光の反射によって色が変わる不思議な宝玉だった。
大きさとしては三メートル弱ぐらいだろうか。
その大きなゴーレムを小さなゴーレムが囲んで立っており、どのゴーレムも固まったまま動いていない。
「こいつらって動かないとか……はないよね、やっぱ」
「トワ様は後ろの方で待機していてください」
「まず、私から先制攻撃をさしてもらいますよ、はっ」
警戒しながらも魔力を込めて練っていた風魔法をゴーレム達に向け放つ。
風魔法の刃は前方にいる小さなゴーレム二体を真っ二つにして消え去った。
真っ二つにされた小さなゴーレム二体は倒されたにも関わらず、ドロップ品を落として消えない。
なぜだ、と疑問を抱いていると。
「ウゴオオオオオオッ」
大きなゴーレムが雄叫びをあげ、小さなゴーレム達はその真っ二つにされたゴーレム二体を吸収し始める。
「まずい、吸収するのを阻止しなくては」
ミアが集まっている小さいゴーレム達に切りかかろうとした時、横から大きな物体がミア目掛けて迫る。
間一髪ミアは避けることができたものの後退を余儀無くされた。
横から迫った大きな物体は大きなゴーレムの腕。
小ゴーレムの吸収を邪魔されないようにかそこには腕を振るった後の姿があった。
「ちっ、面倒な」
「ちっとばかしまずいのう」
その間に小ゴーレム達は吸収を終え、攻撃をしたメルに視線が集まる。
その事に気づいたメルは後ろへと緊急回避、メルの立っていた地面に岩の棘が抉るように突き出した。
お返しにメルによる風魔法の刃を飛ばすが、小ゴーレム達は気にせず突進。
「うそでしょ……!」
小ゴーレムの体には小さな傷しかできておらず、メルとの間合いを詰める。
メルは驚きに隙を作ってしまった。
「行かせん」
「我に任せろ」
メルを助けようとリーシャとミアが向かおうとするが、それを許さない者がいた。
いつのまにか大ゴーレムはミアとリーシャの後ろに――――。
「ぐはっ」
「うぐっ」
酒樽ほどの大きさをもつ腕がミアとリーシャを襲う。
ミアは脅威的な反射神経を発揮し鉄の剣でその攻撃を受けたが鉄の剣が粉々に粉砕していしまい、リーシャはその攻撃をもろに受け壁際まで飛ばされてしまった。
メルは迫ってきた小ゴーレムに殴る蹴るの応酬に遭うが、どうにかその小ゴーレムの輪から抜け出せる事に成功したようだ。
しかし、その体は血まみれで所々青黒く変色しており、満身創痍と行っても過言ではない。
「あ、あああ……」
目の前に映されるのは仲間の悲惨な姿。
リーシャは吹き飛ばされてからピクリとも動かない。
ミアは大ゴーレムの攻撃を必死に避けるが、さっき受けた攻撃が響いているのか動きが鈍く避けきれなくなってきている。もうすでに白かった体は自分の血で赤く染まっていた。
「メル、ミア、リーシャ」
大声で叫ぼうとユニークスキル『気配遮断』によってその声は届かない。
もしこのスキルを解き、助けに向かったとしても自分が最初の死亡者になるだけだと理解している。
それでも見捨てることはできない、そう思いゴーレム達の前に姿を現そうとした時あのときの声が聞こえてきた。
〈〈俺が助けてやろうか、トワ〉〉
あの声は一体……。