ミアの進化
「んん、んあっ」
「あ、トワさんが目覚めました」
「本当か、トワ様体は大丈夫ですかぁぁ」
「こら、リーシャ抱き着いたらダメです」
目を開けるとそこにはミア、リーシャ、メルの顔が見える。
前の記憶を手繰り寄せるとどうも自分は痛みで気を失ったようだ。
皆が必死に戦ってくれているのに情けないったらありゃしない。
「それで芋虫はどうなったんだ」
「それなら私達がミアさんとリーシャさんが倒しましたよ」
「そうか、よかった。ミアとリーシャは怪我とか不調はないか」
「大丈夫です、トワ様」
「我は大丈夫だ」
俺が寝ている間も戦いは激しかったのだろう、横を向くと地面が溶岩のように溶けた形跡が残っている。
それから膝枕してもらっていたメルに感謝し、立ち上がってドロップ品の確認をした。
「えーと、糸玉とたくさんの芋虫の肉、それとこの宝石みたいなのは……」
「それは魔石です」
その魔石はボウリングのボール並みに大きい。
持ってみると思ったより軽かったが。
「魔石は魔物にとっては心臓と同じです、私も体に魔石があってこれぐらいの大きさはボス芋虫の魔石だと思います」
「そうか、これが魔石」
ミアもリザードマン亜種という種族の魔物であるため魔石の事は分かるのだろう。
しかし、魔石というドロップ品が出るとはすごく運が良い。
実は冒険者ギルドの受付嬢であるメリアさんの説明の中に魔石の事が含まれていた。曰く、一番低い確率のドロップ品であり魔物が強くなるごとに手に入る確率は下がっていくらしい。
今回のボス芋虫――正確にはタイラントキャタピラーというらしい(後で知った)はとても強かったので魔石が手に入る確率も相当低かったと思う。
「でも、どうしようかなこの魔石」
魔石は売ると莫大な資産が手に入るが、冒険者の中では武器の強化に使う者もいる。
自分の武器を強化するのは元の戦闘力から考えてもったいないと思うし、かといって売るとなると手に入りにくい物なのでこれももったいない気がするし。
どうしようかと悩んでしまう。
〈〈そのリザードマンに食わせりゃあいいじゃねえか〉〉
「んっ、誰か何か言った?」
「いえ、私は何も言ってませんが」
「我もなにも言っておらんぞ」
「誰も何も言ってませんよ」
先ほどの濃い体験で疲れているのだろうか、幻聴が聞こえたのだろうか。
〈〈魔石を食った魔物は強くなる、ちょうどお前のリザードマンも条件が揃ってるから面白い現象を見られるぜ〉〉
ほらまたさっきの声が聞こえる。
その声は俺にミアに魔石を食わせるように催促しているようだ。
声は頭の中で鳴り響く。
〈〈俺の事を信じられないなら、そこのリザードマンに聞いてみな〉〉
俺の頭の中でつぶやく声に従うようにミアに聞いてみることにする。
「なあ、この魔石ってミアは食べれたりする」
「はい、食べることはできますが。よく知っていましたねそのことを」
知っていたのは自分ではないがそんなことは無視する。
ミアのその後の説明では、魔石を魔物が食べると自分の体の中にある魔石と融合し体にめぐるエネルギーの量も増えるために全てにおいて強くなるらしい。
簡単に言うとそんな感じだ。
「じゃあ、それをミアの糧として使うよ」
「それでよろしいんでしょうか」
「我は構わぬよ」
「私もそれでミアさんが強くなるなら構いませんよ」
リーシャとメルの了承も得た。
自分に使うのは忍びないと思っていたようだが、すでに話はミアに与える方向へと向かっている。
ミアは周りを見て説得は無理だと察し、ありがたく食べることにした。
「ありがとうございます、貰った魔石の分も頑張って見せます」
「そこまでのもんじゃないとおもうけどなぁ」
ミアはいつも役に立っているのは皆知っている。
だからこそこんな時には恩返しみたいな感じだが、ミアに与えるのに異論はない。
「では、いただきます」
そういってミアは大きな魔石を四等分し、一つずつ歯で噛み砕いて飲み込む。
最後の一個を噛み砕き飲み込んだ瞬間、ミアの体に変化が訪れる。
「う、くあっ、体が熱い」
「おい、大丈夫か、ミア!」
ミアは地面に倒れもがいている。
ミアの全身から少しだけ湯気が出ているのが見えた。たぶん今ミアの体温は急激に上がっているのだろう。
メルに治癒魔法をかけてもらっているが効果はあまり無さそうだ。
それから数分が経ち、発熱が収まりミアは動かなくなってしまう。
「おい、ミア、返事をしてくれ」
体をゆするが反応が無く、体温が感じられない。
冷え切った体は動きそうもなく、関節などが固く動かなくなっている。
こんなことになるなら頭に響いた声の言うとおりにするんじゃなかったと後悔するが、もう遅い。
「いや、まてトワ様。ミアは死んでおらんようじゃぞ」
「ミア様の強い魔力が感じられます」
自分には魔力とか感じる事はできないが、リーシャとメルがそういうのであればまだミアは生きているのだろう。
しかし、ミアは目を開ける気配は無い。
「ふむ……もしや、そうかもしれん」
リーシャは一人納得し、ミアの背中が見える位置に移動する。
そして、右手に持っていた剣をミアの背中に突き刺した。
「おい、リーシャ何をしているんだ!」
「待ってください、トワさん。見ていてください」
リーシャの突然の行動に問い質そうとしたが、それはメルに止められる。
今、目の前ではミアの背中が切り開かれており、斗和はその光景に耐えられず目を閉じた。
肉を切る音が聞こえてくる。
「ふう、これでいいじゃろ」
「トワさん、目を開けてください」
そう言われて、ゆっくりと目を開く。
そこには背中を切り開かれたミアが横たわっているだけ。
一体何をしたかったのか理解できない。
「トワ様、そう睨まんでもよいじゃろ。大丈夫、ミアはこの中におる」
リーシャが指さす方向は切り開かれた背中を指している。
この中、に……?
そして、斗和は気づいた。
「出血してない」
切り開かれたのに血が一滴も出ていないのだ。
そこで、もしやという考えが浮かんでくる。
その通りならリーシャの言う事にも合点がいく。
「俺が引きずり出してみるよ」
「まかせたのじゃ、トワ様」
「まかせました」
切り開かれた背中にそっと手を入れる。
分かっていたとしても怖く、動作が遅い。
「いた」
手が何かにぶつかる感触がした。
これがミアの本体と気づくと同時に、引きずり出すためにお腹の方へと手をまわす。
その際に柔らかな感触を感じた。
体も鱗のようなざらざら感ではなく、すべすべとしている。
「いくぞ、せーのっ」
掛け声とともに足腰に力を入れ、思いっきり引き抜く。
そして、上半身が外へとさらされる。
それは発育途上の幼さと大人の美しさ両方を兼ね備えた女性だった。
そして、その女性――たぶんミアは美しい裸体を表に出している。
「ト ワ さ ん、目をつぶっていてください」
「ほー、こりゃ化けたのぉ」
裸のミアをまじまじと見てしまったせいか、メルの怒気を孕んだ声が後ろからかけられる。
危険を察知し、すぐに正座、後ろを向く、うずくまるを発動。
女性は怒らせると恐ろしいのは地球に居た頃から分かっている事なので逆らわない。
メルはその行動の速さに若干呆れを感じた。
「何か手馴れてますね……」
「姉と母の教育の賜物であります」
「はあ、じゃあ着替えますので見ないでくださいね」
「ははっ」
斗和はこのまま不動の構えである。
後ろでは衣擦れの音がしていて、気になるのだが振り向いたらメルの魔法が飛んでくるかもしれないので、そのような冒険は起こさない。
不動の構えのまま数分後。
「よし、できた。トワさんもういいですよ」
不動の構えを解き、後ろを振り向くとリーシャの服を着たミアが仰向きに寝ていた。
良く見ると、ミアはリーシャと似ていて手足が白い鱗で覆われている。
白い髪に白い肌はリザードマンの時の色が反映されているかのようだ。
じっと見ていると、ミアがかすかに動くのが分かった。
「うん、んん」
「ミア、大丈夫か」
「えっと、あ、トワ様」
「何かおかしいところは無いか?」
「いえ、とくには。確か激しい痛みを感じたところまでは覚えているんですが……ん?」
ミアは自分の手を見て首をかしげる。
「私の手ってこんなに細かったっけ?」
「それはだな――」
ミアの今の状態を事細かに皆で説明する。
それを聞いて、ミアは自分の体をぺたぺたと触り始めた。
「本当に人型になってる!」
ミアは早く自分の顔を確認したそうにしていたが、この世界では鏡は少しお高いので今は持っていない。
それから、十階層でミアは今の体に慣れるために体を動かし、他の斗和達はそれを見ながら少し休憩を取った。
休憩も十分に取ったところで、街に戻るために十階層からダンジョン入り口までへと向かう。
もちろん、ミアの殻はアイテムポーチに入れておいた。
街へ戻る際に現れる魔物はミアの提案により、ミアが片付けることになった。魔物を屠る動きが俺には見えなかったということだけ言っておこう。




