ダンジョン攻略中
「ダンジョンって結構暗いな~」
「暗いですね」
ダンジョン前で許可証を見せ、ダンジョンへと潜る。
そして今、斗和達はダンジョンの一階層を探索していた。
ダンジョンの一階層は薄暗く、壁は天然の洞窟のようにゴツゴツとした岩に覆われている。
唯一の救いはダンジョンの天井に吊るされているライトで、このライトは十階層まで続いているらしい。
なんでも長い時間をかけて冒険者達が取り付けていったのだとか。
「むむ、あそこに魔物が……今回は私にお任せください」
「ああ、うん。任せたよ」
そう言ってリーシャは暗がりの奥に身を潜めている魔物を狩りに行く。
リーシャが行ってすぐに魔物の断末魔が聞こえてきたので、今回もそこまで強い魔物ではなかったのだろう。
ドロップ品を持ってリーシャが戻ってきた。
斗和がダンジョンで驚いたことの一つなのだが、ダンジョンで倒した魔物は死体が残らずドロップ品を落として消えてしまう。最初見たときはどういう原理でそうなっているのか不思議でしょうがなかったが、まだ学者達の研究でも結論が出ておらず、そういうものだと思うしかない。
「トワ様、これドロップ品です。どうぞ」
リーシャが持ってきたドロップ品は少し錆びたナイフだった。これから推測するに、前方にいた魔物はゴブリンとかだったのだろう。
リーシャから受け取り鞄にしまう。
「それにしてもここの階層は僕以外楽そうだね……」
「ふふ、まだエルフの森にいた動物の方が強いぐらいですよ」
「ま、まじか」
「大丈夫です、トワ様は私達がお守りしますから」
「お任せください」
「皆、便りにしてるよ……役に立ちそうにないから」
メルは横で笑いながら傍で、ミアは後ろで辺りを警戒しながら、リーシャは前で赤い鱗に覆われた尻尾を揺らしながら斗和を守っていた。
なぜこのような陣形となったのかというと、ダンジョンに入って数分経った頃、他の冒険者と距離を置くために走っていると魔物の大群と運悪く遭遇していしまい、斗和は必死に剣を振り回しゴブリンと激闘を繰り広げ倒した時にはすでに他の魔物はメル、リーシャ、ミアの三人に狩りつくされていた。
勝ったぞー、と腕を高く上げようとしていた自分が少し恥ずかしくなったのを思い出す。
そして、自分はあまり戦えないという事が再確認でき、レベル上げに関してはパーティの誰かが倒すと経験値は仲間にも入ってくるため斗和以外が戦っている状況である。
もちろん、倒した人が一番経験値を貰えるのだが、そこは斗和のユニークスキル『観察者』で経験値を三倍にし、戦闘していない人でさえ多くの経験値が手に入っていた。
「お、階段を発見しました」
前を歩いていたリーシャが指さした先には下へと続いている階段が見える。
自然な洞窟のようなダンジョンなのに人工物のような階段があり、ダンジョンだなと感じてしまう。
「行ってみよう」
そして、斗和達は下っていく。
ダンジョン攻略を開始して六時間ぐらいが経った頃。
時間的にはすでに外は日が沈み、夜の帳が下りてきている時間。
斗和達は五階層まで攻略を進めていた。
一~四階層までは変わらず洞窟のような風景で、それは十階層まで続くらしいのだが、五階層は違う。
五階層はダンジョンの中で安全地帯となっており、魔物が現れることは無く、またさっきまでの階層のように迷路状になっているのとは違い広々とした空間が広がっていた。
五階層の他にも一桁が五の階層は安全地帯となっているらしい。
五階層では複数の冒険者のパーティが滞在していて、今日はここで休むのか他のパーティと間隔を空けてテントを広げ組み立てている。
自分達も今日はここで休むために、他のパーティと離れた場所で即席テントを張ることにした。
「――でさ、俺は目指せ五十階層なんだよ」
「俺たちには無理だって、そんな夢見てたらいつか死んじまうぜ」
野営している冒険者の大きな話し声が聞こえてくる。
なぜダンジョンが五十階層あるとわかるのか。
それは昔の勇者の伝説の一つに記されていることから分かったそうだ。なんでも、昔の勇者がダンジョンを攻略した時の記録が五十階層で、最後の五十階層には秘宝が眠っているとか。
物語に記されていることなので本当なのか怪しいと思っていたが、以外とこの世界の物語は事実を元にされているものが多いそうで、馬鹿に出来ないらしい。
「よし、準備完了」
「今日はここで野宿になりますね」
「見張りのペアを決めようか」
ペア決めに関して、じゃんけんという方法で決めようと提案する。
「じゃんけん?」
「じゃんけんってなんですか」
「ああ、そっか。この世界にはじゃんけんが無いのか、じゃんけんというのは――」
不思議な顔をしていたミア、リーシャ、メルにじゃんけんのルールを教え、じゃんけんによってペア決めを開始した。
「「「「じゃーん、けーん」」」」
「「「「ぽい」」」」
ちょうどメル、リーシャがパーを出し、ミアと斗和がチョキを出したために今回の見張りのペアが決まった。
最初は斗和、ミアペアが見張りをすることになる。
「お先に失礼する」
「先に眠らしてもらいます」
リーシャとメルがテントの中に入っていく。
そのテントの前に斗和とミアが座り、周囲を警戒する。
「トワ様、少し聞きたいことがあるのですが」
「うん、なんだい」
ミアが見つめてくる。
「トワ様は異世界から来たんですよね。異世界では私のような者は普通だったのですか?」
「いや、俺がいた世界には人間しか居なかったよ」
「では、なぜ最初にあった時にあまり驚かなかったのですか?」
ミアに言われて自分でも不思議に思う。
なぜ自分はあの時驚かなかったんだろうと。
ゲームが好きで生のリザードマンに会えたことがうれしかったから、モンスターというのを空想上として知っていたから……でも、どれも違うような気がする。
そう、あの時――。
「白い鱗に朱色の目がとても綺麗だったから……」
「…………」
「あ、えと、そんな感じかな」
その朱色の目がそらされた。
ミアは質問の答えを聞いて沈黙していた。いつもより尻尾が激しく動いているように見える。
「綺麗ですか……そんなこと言われたこと無いな」
今どういう表情しているのか読み取るのは難しいが、たぶん自分と同じで小恥ずかしくなっているのだと思う。
それから交代の時間が来るまでそわそわした時間が続いた。
「ふあああ」
「あ、おはようございます」
「おはようございます、トワ様」
「ああ、おはよう」
どうも、自分が起きるのが最後のようだ。
起きると体が痛い、やはり日本育ちの自分は夜の見張りは体にくるものがある。
その後テントを片付け、六階層へと階層を下った。
六階層もモンスターの種類はあまり変わらずゴブリンやスライム、一つ目カエルなど雑魚と言われる魔物ばかりで、少し変わったところがあるとすれば魔物が連携していることがあることだが。
「ふんっ」
「死ね」
「「「ギャウ」」」
ミアやリーシャがそんなもの関係ないと鉄の剣で蹴散らしていた。
自分はユニークスキル『気配遮断』で魔物から隠れている。
五階層より下の階層は魔物が少し強くなるから気を付けて、と受付嬢のメリアさんに言われたが変わらず皆は無双しているのだが、もしかしなくても『観察者』の力が効いているのかもしれない。
現れる魔物はすぐに駆除されている様子を見て、魔物がすごくかわいそうに見えてきた。
「あ、階段見つけました」
先行していたメルが七階層へと続く階段を見つけ、七階層へと下る。
それから斗和達は現れる魔物を蹴散らしながら突き進んでいく。はっきり言って強いと思った魔物はおらず、破竹の勢いで九階層まで来てしまった。
「あれ、ミア成長した?」
「え、何の事ですか」
「確かに一回り大きくなったような」
よく見るとミアが大きくなっている。
レベルが上がるごとに何だか強くなる感覚があると俺以外は言っていたので、もしかしたらレベルアップに合わせてミアは成長しているのかもしれない。
しかし、なぜ俺は成長した感覚というのが無いのだろうか、人間は感じ取れないとか。
疑問に思う事はあるが仲間が成長しているのが分かり、とてもうれしく、ま、いいやと考えるのを止める。
話を止め、また代わり映えのしないダンジョンの探索を開始した。
そして、それから三十分くらい経ったぐらいに十階層へと続く階段を発見する。
「次の階層はボスか」
「気を引き締めていきましょう」
「がんばります」
「我が打ち取ってみせる」
皆興奮しているのがすごく伝わってくる、特にリーシャは一人称が我に戻っていた。
自分的にはあまり戦いたくはないが、皆の力を試すにはもってこいなのでしかたがない。
「よし、十階層に行こう」
そして、斗和達はボスと戦うべく十階層につながる階段を下った。