エルフの少女
PVが3000を超えていました。
ありがとうございます。すごく励みになります。
あ、あと、少し他のクラスメイトの話を挟むとおもいます。いつか。
「んん、ここは」
「お、トワ様が起きたぞ」
「おはようございます、トワ様」
目を開くと、そこにはミアとリーシャが覗いている顔が見えた。
そういえば、後頭部に暖かくてやわらかいものが当たっている。
これは、一体……。
「トワ様、くすぐったいから止めてくれよ」
「あ、すまん」
そして、手で触れ、今の状況を確認したことから今、自分は膝枕されていると気づく。
理解した瞬間に、恥ずかしさと人生初での嬉しさがごちゃまぜとなって自分を襲う。
このままではいけない、とこの状況から脱出を試みようと顔を上げるが、それをリーシャが許さなかった。
「トワ様、まだダメージが残っているかもしれないから、安静にしといてくれ」
「そうです、私はあまり役に立てないですが……」
話を聞くと、どうも気絶していた自分を介抱するためにどうすれば良いかと悩んでいた時、宿屋の娘であるピコちゃんが「よくお母さんに膝枕をしてもらったんだー」という事を言っていたため、その提案に賛成したそうだ。
そして、次は誰が膝枕をするのかという話になるのだが。
ミアはリザードマンで、リーシャは龍人族と種族的にはリーシャの方が人間族に近いために、膝枕をする役目は必然的にリーシャとなった。
そのことに関して、ミアはすごく残念がっているのが目に見て分かる。
「あ、そういえば。巨大風呂の事は」
「ああ、それなら覗き魔にならなくて済みましたよ」
「えっと、元から覗く気は無かったんだけど」
「そのことなんですが――」
ミアとリーシャの説明によると、あの事故はピコちゃんが引き起こしたのだとか。
まずピコちゃんが朝早く起きて、『男湯』と『女湯』の二つの暖簾を左右逆に架けてしまっていたそうで、その後に風呂場で会った少女が間違って架けられた『女湯』の方に入ってしまう。そして、宿屋の女将さんが暖簾が左右逆になっていることに気づき、直した。そこで、自分の登場というわけだ。
話を聞いて、もしかして間違って入ってしまったのでは、と心配していたことが解消された。
「それでも、裸を見てしまったトワ様は謝らないといけないと思うぞ」
「やっぱり、そうだよね」
面と向かって会って話すというのは少々気まずいがしかたない。
相手の少女も、自分と話がしたいらしく食堂で待っていると女将さんが言っていたそうだ。
一人で話をしてくるべきであるため、ミアとリーシャは部屋で待機してもらって、自分は食堂に向けて階段を下りて行った。
食堂に着くと、朝食の時間も過ぎているため人はまばらだった。
そして、食堂の角にあるテーブルにぽつんと一人、長い金の髪を垂らした少女が、青い何かを飲みながら座っているのが見える。
あ、あの娘か……。
勇気を出して、声をかけに行く。
「あ、あのぉ」
「あ」
相手の少女も自分に気が付き、席を立った。
「あの、風呂場の時はすみませんでした」
そう言って、深く頭を下げ。
その行動に対し、自分は硬直していた。
自分の予想では、裸を見たことに対して何か言われるのではと危惧していたのだが。
先に謝るのは自分ではなく、相手の方からだったのに少し驚いた。
「あの、許してもらえませんか?」
「え、ああ、こっちこそ、その、風呂場の事はすいませんでした」
「じゃあ、今までの事はこれで無しってことでいいですか」
「は、はい」
許してほしい、と悲しそうな顔をしてたのに、許してもらえると分かると同時に満面の笑みに変わっている。
さっきまでの悲しそうな顔は演技だったのだろうか。
そうであるなら男性では見抜けそうにはない、と思う斗和だった。
「それで、その、まだ話したいことがあるのですが」
そう少女が言うので、少女と向かい合う形で座る。
少し喉が渇いたので、ピコちゃんに頼んでお茶を持ってきてもらった。
「あ、自己紹介がまだだった。私の名前はメルです」
「住山斗和です」
「スミヤマトワって、珍しい名前だね」
「ああ、トワが名前で、スミヤマが家名だよ」
「へー、貴族の名前と逆なんだね」
会話からして、この世界には日本のような東洋の島国とかは無いらしい。
異世界のサムライとか、ニンジャとか見てみたかったのだが残念。
会話は自己紹介から始まり、この宿屋のごはんがおいしい事や、どこどこの店が今セール中などの近所のおばちゃん情報など、世間話をして盛り上がった。
そして、ふとメルの話す声が止まり、不思議に思って見てみるとメルは思いつめた顔でこちらを見ていた。
何があったのか不安に思い、見つめていると決心をしたのか、真剣な表情で口を開く。
「風呂場でのことなんですが……私の耳を見ました?」
周りには聞こえないように、小声で言うメルさんにどう答えたらいいのか分からない。
見てる、見てないでいえば、見てしまったというのが正しい。また、見た時に耳が少し尖っていたのも確認済みである。
少し悩んだ末、正直に答えることにした。
「うん、少しだけ」
「そう、ですか」
メルさんは再度悩んだ顔を浮かべた。
やはり尖った耳ということに意味がある気がする。
自分の持つラノベやアニメの知識から言うと、目の前にいるメルさんは――エルフということになる。
この異世界にエルフがいることは知識として知っているので、もしメルさんがそうなら自分は今生エルフを見ているのだ。
まだ決まったわけではないが。
「どうしよう、でも、トワさんは悪い人には見えないし、お母さんは信じられる人に話しなさいって言ってたけど、でも……」
ちらっちらっと時々こちらを見ながら、ぶつぶつと呟いている。
どうも、このままだと雲行きが怪しい。
そう思って自分から自分の素性について話すことにした。
そうすれば、相手も信用してくれるかもと信じて。
「あのね、メルさん――」
まさか相手から話してくると思ってなかったのか、驚いた顔でこちらを見た。
その顔を見ながら、自分はこれまで自分に起こったことを話していく。
メルさんは最初は驚いたものの、今は静かに自分の話を聞いてくれている。
そして、自分の話に終わりが来た。
あまり話すこともないので、時間にしてみれば数分だっただろう。
だが、メルにとって話してくれたことは、安心し信じることに大いに役立った。
メルは重い口を開く。
「私は、エルフなの」
「ああ、やっぱり」
「え、やっぱりって?」
「あ、こっちの話」
予想通りメルさんはエルフでした。
つい、予想を裏切らない正体に口を滑らしてしまった。
「それにしても、トワさんはエルフだと知っても、怖がったり、逆に殺そうとしないんだね」
「いや、だってエルフでしょ。なんでエルフってだけで怖がったりするの?こんなにかわいいのに」
「えっ、その、えへへ、かわいいってエルフって知った人から言われたこと無いよ」
メルさんは頬を赤く染め、もじもじし始める。
あああ、なんで最後そんなこと言うかな、俺。
どうも生エルフにテンションがあがっているせいか、本音が最後にぶちまけてしまった。
「その、ありがとう」
「ああ、うん」
恥ずかしくってメルさんの顔を見ることができない。
「トワさんも自分自身について話してくれたから、次は私が話すね」
気を許してくれたのか、次はメルさんがここに至るまでを話してくれることとなった。