冒険者登録
遅くなりました。
王城を追い出された自分たちの選ぶ道は二つ提示されている。
一つは、商人ギルドに入会し、商人としての道を歩むこと。
二つに冒険者ギルドに入会し、冒険者としての道を歩むこと。
一つ目の商人に関しては、自分は商売上手ではないと文化祭で痛感させられたために、選択肢からはずしてもいいだろう。
ならば残ったのは二つ目の冒険者になるということ。
自分はあまり戦闘に関して得意ではないということは分かりきっているのでミアとリーシャに頑張ってもらうしかなさそうだ。
ミアとリーシャにそのことを話すと了解を貰え、冒険者ギルドに向かった。
――冒険者ギルド。
第二区画にある冒険者ギルドは一目で分かった。
なぜなら、他の建物に比べて大きく、また三階建てのために頭一つ飛び出している状態だったためだ。
ここまで載せてくれた馬車に運賃を払い、冒険者ギルドの建物の前に下りた。
「でかいなぁ。そして看板も」
冒険者ギルドの入り口の上にはでかでかと冒険者ギルドという文字の書かれた看板が架かっており、すごくわかりやすい。
「さ、入りましょう、トワ様」
ミアとリーシャに両側から手を取られ、ギルドに入っていく。
カランカラン。
扉を開くと上についていた鈴が鳴り、自分達が入ったのを知らせた。
ギルドの中の様子はラノベやゲームで見たのと同じで、酒場としても営業しているようだ。
しかし、酒を飲んで暴れているやつが居るとか、部屋が汚いとかいうテンプレはなく、皆笑顔で話し合っていて、雰囲気も良かった。
これなら、もう一つのテンプレも無いかなと思っていたが。
「おい、お前ら、見ねぇ顔だな……ヒック。お、よく見りゃあ綺麗な姉ちゃんが、ヒック、いるじゃねえか、こっちにきて楽しいことしようぜ」
ギルドに入ってすぐの角の所で飲んでいたのだろう、左から男が声をかけてくる。
まさかないだろう、と思っていたテンプレが目の前で行われていることに驚いたが、それどころではない。この中年冒険者はリーシャに向かって手を伸ばしていた。
「リーシャに触れるな」
「あぁん、何だ坊主、殺されたいのかぁ。俺はブロンズランクの――へぶっ」
中年冒険者の手を叩くと、そいつは腰に差している剣のつかに手を置き、名乗ろうとしたが。
あっけなくミアの顎へのストレートで撃沈した。
ブロンズがどうとか言っていたが、たぶん雑魚だったんだろう。
「トワ様、さきほどはその、我いや私のために前に出てくれたのは嬉しかったが、私はこれでも強いから、もうあのようなことはしないでほしい」
「あ、そうだね、自分より強いってこと忘れてたよ。つい助けなきゃと思って、それとミア、ありがとう」
「いえいえ、私はしたいことをしたまでですので」
ミアやリーシャと普通に話していたが、周りの人たちは自分達に注目していた。
喋るリザードマンであるミアが珍しいのだろう。
そして、床で伸びていた中年冒険者が目を覚ます。
「く、そ、よくもやりやがったな『大丈夫ですかー』へぶっ」
カウンターの方から女性が走ってきて、起き上がろうとする中年冒険者をおもいっきり踏みつけてきた。
中年冒険者は動かない。
「大丈夫でしたか。ときどき入ってくるんですよこういうゴミが、掃除するのでちょっと待ってください」
「あ、はい」
駆けてきたその女性はそう言うなり、転がっている中年冒険者を持ち外に放り投げる。
細い体のどこにそんな力があるのか、苦もなく手を叩き終了と宣言した。
その女性が周りを見渡すと、注目していた人達は一斉に目を逸らし、何事も無かったかのように振る舞う。
「あ、忘れてました、私はメリアと申します。御用があるなら受付へどうぞ」
メリアさんはそう言うと来た時と同じように、駆けて受付へと戻る。
よく見るとメリアさんの着ている服は、スーツに酷似していた。
――異世界でスーツって……。
と思ったが、以外とこの異世界は技術力が高いのかもしれない。
メリアさんの後を追い、受付へと向かった。
受付には、メリアさん以外に三人受付嬢が居り、メリアさんの前に着く。
「それで、今回はどのようなご用件でしょうか」
「えと、実は……」
勇者剥奪の件に関する事を端的に話し、リビル王子から預かった手紙を渡す。
メリアさんが渡した手紙を流し読み。
「なるほど、そちらの事情は良く分かりました。ここに来たということは、冒険者になるということでよろしいでしょうか?」
「はい」
「それでは、少しお待ちください」
そう言って、メリアさんは受付の奥へと行き、少し経ってから大柄な男性と共に戻ってきた。
「ギルド長、この方達がさきほど話したトワさん、リーシャさん、ミアさんです」
「ああああ、メリアちゃん。そこはパパやパピーって呼んでくれるところじゃないの?」
「仕事をしてください、ギルド長」
「は~い。おい、お前らか、俺とメリアちゃんの時間を奪うやつは」
「仕事してくださいって言いましたよね」
メリアさんに拳骨を一発頭にいいのを貰い、床に張り付く。
しかし、ギルド長は頭をさすりながら、さっきのは愛のムチってやつ、と言った。
会話からして、二人は親子なのだろう。
「ほら、早くしてください。トワさん達が待ってます」
「分かったよ、それでお前ら冒険者になりたいんだよな。まあ、リビル王子からの推薦状もあるから身分は証明されてるんだが、そこのリザードマンも冒険者になるのか?」
「えと、何かダメなことでもあるんですか」
「あのな、冒険者はなりやすいといってもな、喋れなくて依頼は受けられませんじゃ話にならないんだよ。リザードマンは喋れねぇとは思うがな」
右に居るミアに目を向けると、どうしますかと目で言っていた。
特に何か不自由になることもないだろう思い、喋ってみてと頷く。
「私はミアと申します。よろしくお願いします」
「リ、リザードマンが喋った!!」
「ギルド長、驚きすぎです。私も少しびっくりしましたが、世界広しってやつですよ」
「そ、そうか、喋るやつもいるのかリザードマンって」
「しっかりしてくだ、さい」
メリアさんによる背中への衝撃で、ギルド長は正気に戻った。
これまたすごい音がするが、ギルド長にはあまりダメージが無さそうである。
「そ、それじゃあ、三人ともここに名前を書いてくれ」
差し出された契約書に自分の名前を記して、ギルド長に渡す。
「よし、次は一人ずつこの水晶の玉に手を置いてくれ」
言われた通り、一人ずつ手を置いていく。
置いたときに、少しだけ水晶が光っているのが見えた。
「これで、冒険者登録は終了だ」
「え、もう終わりですか?」
「ああ、この水晶は触れた相手のステータスをもう一つの魔道具に情報として送り、その情報はお前らが死ぬか、冒険者を止める時まで保存される仕組みになっている。もうすぐでギルドカードも出来上がるはずだから、少し待ってろ」
ギルド長は受付の奥に行き、すぐ戻ってきた。
手にはカードが三枚ある。
「ほれ、これがお前らのギルドカードだ。紛失したり、壊したりしたら次に発行する時は金がいるから気を付けろよ」
ギルドカードを受け取り、確認するとそこには名前とステータスが明記されていた。
これではステータスがばればれなんじゃと思ったが、説明によると、ギルドカードに書かれているステータスは他の人には見えないらしい。
「ああ、最後に。俺はここの冒険者ギルドの長であるギル・トールだ、メリアの父でもある。よろしくな」
そう言って、握手を求めるので、それに応じる。
軽い握手のつもりで、手を戻そうとするが、ギルさんが手を放そうとしない。
それにだんだんと握る力が強くなっているような……って痛い痛い痛い痛い。
「忠告なんだが、我が娘であるメリアに変な気を起こさないことだな。もし、娘に近づくのならそのときは――」
「せいっ」
「がはっ」
メリアさんの正拳突きがギルさんの腰に突き刺さる。
と同時に手が離れ、自分の手を見ると少し赤くなっていた。
「メ、メリアちゃん、腰はダメだって」
「ギルド長が変な事を言うから悪いんです」
その後復活したギルド長は、もう用は無いとメリアさんにお別れの挨拶(早く行けと怒られていた)をして、ギルド長室に戻った。
メリアさんからは、一人ずつ傷を治すポーションが三つと「モンスターの特性」というタイトルの本が入った初心者セットを貰い、もう今日はやることもなく、疲れたので(特にギルド長のせいで)メリアさんおすすめの宿屋に泊ることにした。
その際、三つ部屋を取ろうとしたが、費用がかかるとか、主を守るためには近くに居なくてはとか、いろいろな理由でミアとリーシャに断られ、一部屋に三人が泊まることになった。
もちろん、部屋にベッドは一つしかなく、そこでも何かと理由をつけられ、最終的には一緒に寝ることになる。
そうして、一日が終わった。