黒き始祖
ダリルとシャメイルが戦っている間、斗和達は王城に向かって走っていた。
周りは黒い魔物達で満たされてい居り、真っ当に相手はせず足を切り落として行動不能にしてから先を急ぐ。
「王城まであとどれくらいだ?」
黒い魔物達が多すぎる。
間を抜けて行ってもまた違う黒い魔物が立ちふさがるのだ。
これではきりがない。
兵士達は黒い魔物達と互角に戦っているが、それでも多勢に無勢といったところだ。
負傷する兵士達が増える。
魔術師であっても魔力欠乏の者が出始めた。
「ここはまずいな」
「我に任せろ」
リーシャが龍撃魔法の部分的開放を行う。
背中に鱗の生えた翼を生やし、上空へ。
両手を合わせて、そして少し放す。その両手の空間には圧縮された炎が渦巻いている。
まさか……。
「伏せろ!!」
俺の声に反応し、すぐさま兵士達、魔術師達、仲間は伏せた。
ドーンッ。
火柱が至る所から生える。
それは煉獄地獄でも見ているようだった。
魔力は温存したかったが、これ以上被害を増大させるわけにもいかない。
リーシャの判断は正解だっただろう。
「と言っても、俺達以外もいるんだからな!!」
「すまんのう、じゃがこれで見渡しは良くなったぞ」
確かに周りにいた全ての黒い魔物達は消え去っていた。
その威力に魔術師達が少し引いている。
「すごい火魔法だね。俺でもこんなことはできないなぁ」
「ああ、これはリーシャのオリジナルなので、できなくて大丈夫です」
魔術師長も感心しているようだった。
騎士団長は巻き込まれそうだったことにいら立っているが。
「もお、危ないですよ」
「危なかった」
メルもコマチも危ないと言っているが普通に魔力で結界を張って防いでいたところ、流石だ。
さて、黒い魔物もいなくなったところだし、先に進もう。
そして、走り出そうとした時、遠くから大きな音が鳴る。
何かの生物の声のような。
「む、これは」
リーシャが顔を顰める。
「う、何か痺れる」
そして、ミアが本当に痺れているようで手足が震えていた。
「リーシャ、どうしたんだ?」
「我らと同じ遠吠えじゃのう」
先ほどの大きな音のことだろう。
その音が聞こえた矢先、違う音も聞こえ始めた。
それは何か風を切るかのような――――。
「まずい、全員結界を張るんだ!!」
魔術師長が大声を張り上げる。
それに合わせて、メル、コマチ、リーシャも力を合わせて強固な結界を張った。
そして、それは突然目の前に現れた。
「なっ」
一瞬にして、大きな火の玉が目の前に現れた。
その大きさが異常だ。
視界全体が真っ赤に染められるほどの大きさに度肝を抜かれる。
「か、くぅ」
「っつ」
「…………」
魔術師達が苦悶の表情を浮かべる。
結界とぶつかった火球はその勢いが止まることがない。
俺も結界に必要な魔力を注ぐが、それでもこちらの結界が押されているようだ。
まずいぞ、このままでは結界が持たないかもしれない。
火球に耐えている時、またあの大きな声が聞こえてきた。
「来るぞ!!」
リーシャが叫んだ瞬間、火球に一つの影が生まれる。
それが徐々に大きくなり気が付けばこちらにその凶悪な爪を向けていた。
一瞬にして結界が破壊される。
そして、勢いが落ちなかった火球に巻き込まれ、またその凶悪な爪で引っ掻かれた。
全てが吹き飛ぶ。
「残った者はすぐに立ち上がれ、緊急態勢を取れぇ!!」
「魔術師団、すぐさまバックアップを、火耐性を付与」
火球と凶悪な爪にやられなかった騎士達はアイテムポーチから取り出し大楯を構える。
そして、その後ろで魔術師達がその大楯を構えた騎士向けて火耐性を付与する魔法を放った。
俺達は空へと逃げる。
俺とリーシャが翼を生やし、ミア、メル、コマチ、フリジアを抱えて飛ぶ。
フリジアのヘカトンが重かったが、何とか持ち上げることができた。
「あれは、一体」
そこには黒いドラゴンが一頭立っていた。
周りは爆心地のように全てが吹き飛んでしまっている。
その黒いドラゴンはこちらを見た。
「あの風格、姿、強さ、まさかのう」
リーシャは何か知っているようだ。
その黒いドラゴンは口を開く。
その口の奥にはすでに炎が溜まっていて――――。
「避けるのじゃ」
メルの風魔法を用いて、空での緊急回避を試みる。
炎が圧縮されたビームのようなブレスが俺達が数秒前までいたところを通った。
あれを喰らったら誰であっても跡形も無くなってしまうだろう。
その黒いドラゴンの目には戦意や殺気はなく、ただ歓喜しかない。
それを理解してしまったリーシャは断定する。
「始祖様じゃ、な」
「始祖様って?」
「前に話したじゃろ、始祖は黒い鱗のドラゴンじゃったと」
俺は地面の上に立つ巨大なドラゴンを見る。
鱗は黒く、その雰囲気はまるで王者のように覇気が見て取れた。
普通のドラゴンではないことは明らか。
「あ、あああ、ああ」
右手で抱いているミアが震えていた。
「どうした、ミア!?」
「無理もない、ドラゴンは魔物の生態系でトップ、それもそのドラゴンの王なのじゃ。元魔物であるミアは本能から震えておる」
ミアの顔は青ざめ、見たことない表情をしていた。
また、口を開き始める始祖。
このまま打たれっぱなしではやられてしまうので、一旦離れることにする。
俺達が急速に違う方向に行くとブレスを中断し、大きな翼を広げた。
着いてくるつもりか!!
「なら、ここでいい」
あまり遠くにも逃げれないことから、少し離れた場所に着地する。
そこにはまだ黒い魔物達がいるが、その黒い魔物でさえ上で飛ぶ脅威に震え、うずくまっていた。
ミアもまだ震えている。
「ミア、大丈夫か」
肩を掴み、揺さぶる。
目が合った。
その目の奥には恐怖が満たされているようだ。
その恐怖で思考が狭まり、そして思考停止に近い状態となっている。
俺はそんなミアをそっと抱きしめた。
「あ……」
「大丈夫だ、ミア。俺達がいる」
「トワ……」
「トワ、悪いがもう来たようじゃぞ」
上から赤い光が漏れ出る。
またあの大きな火球を吐くつもりか……。
ミアをお姫様だっこしながら、建物の影の中を走っていく。
その直後大きな火球が降ってきた。
地面に触れたと思うと、辺り一帯はすべてはじけ飛んでしまう。
「くっ」
衝撃波でさえ脅威だ。
ミアを守る。
その俺をヘカトンに乗ったフリジアが守ってくれた。
「大丈夫か、ミア」
「……はい、すいません。取り乱しました、情けない」
ミアは自分の頬をバチンと叩く。
そして、地面へと立った。
その足はまだ少し震えていたが、それでも先ほどよりましだ。
「さきほどの抱擁で勇気を貰えた。ありがとう、トワ」
「ああ」
「我にもしてほしいのう」
「今はそんなときじゃないだろう」
「そうじゃな」
未だ始祖のドラゴンは空を旋回している。
まるで強者の余裕を見せるかのように。
「トワ、ここは我とミアに任せてくれぬかのう」
「え?」
「急いだ方がいいと思うのじゃ」
「でも」
「私からも先を急いでほしい。私はもう大丈夫、トワに勇気をもらえたから」
そう言ってほほ笑むミア。
あの怪物に二人で挑むのは無謀だ。
「私達もお手伝いします」
魔術師長と魔術師団が合流する。
「安心してください。私も本気であの黒いドラゴンと戦いますから、それとミアさん達を信じてあげてくださいね」
魔術師長に言われる。
信じてないわけじゃないが、心配なのだ。
置いてきたダリルも本当は反対だった。
「ほら、先に行って下さい。騎士団も先に行っています」
そう言って背中を押される。
「大丈夫じゃ、我らは負けん」
「……分かった。必ず俺のところに戻って来てくれ」
「分かっとるよ、我もハグしてほしいからのう。婿殿っ」
「ああ、何度でもしてやるさ」
この状況でも少し照れながら、そんなやり取りをする。
そして、始祖がまたブレスをしてこようとしたのを合図にトワ、コマチ、フリジア、メルは騎士団に合流すべく駆けた。
リーシャはその愛しい後ろ姿を一時見とれ、そして上を見る。
「負けるわけにはいかないのじゃ」
ミアは自慢のクレイモアを強く握る。
「負けません」
魔術師長は全魔力を滾らせる。
「皆さん、ここからが本番です」
リーシャが体に魔力を循環させて、準備してきたとっておきを披露する。
体の骨格が変わり、それは屈強なものへと変わっていく。
「龍撃魔法、全開じゃ」




