ダリルvsシャメイル2
放たれる魔力の波動が体を吹き飛ばす。
勇敢に立ち向かった獣人族の戦士達も同じく、塵芥の如く舞う。
それは酷い戦力差だった。
数はこちらの方が上、しかし圧倒的な個には勝らず数の利など役に立たない。
獣人族の戦士の中には諦めに近い感情を持ち始めた者もいた。
「何度やっても同じですよ。あなた達は私には勝てない」
「うるさいっ!!私達はお前なんかには負けない」
意志の炎を燃やし、ダリルは何度もシャメイルに攻撃を繰り出す。
それを見て獣人族の戦士達も戦意を貰い、ダリルの後に続く。
それでもシャメイルが勝っていることには変わりないが、シャメイルとて獣人族、魔力も底があるだろうと思い、魔力切れ狙いというのもある。
それこそ地の利を活かしたということだ。
「ああ、そうですか。私は最後まで恩情を与えようと思っていたのですが、残念です。ここまで私が守った者の子孫は馬鹿だとは知りませんでした」
雰囲気が変わる。
空気がピリッとしていることが分かった。
何かとてつもなく嫌な予感がする。
「では、私の本当の姿を見せましょう。それでこの戦いは終わりです」
そう言うと、体と筋肉が隆起し始めていた。
まずい。
咄嗟にダリルはその変身しているシャメイルを蹴る。
が、逆に蹴ったダリルが筋肉によって弾き飛ばされた。
「何て硬さなの!?」
まだ筋肉が膨張している。
そして、身長もすでに3メートル近くまで来ていた。
服は破れ、すでに体は獣のように全身毛に覆われている。
「これこそがあなた達バンが至る極地です」
そう言うと、その大きな体が目の前から消えた。
「どこを見ているのですか?」
後ろから声が聞こえ、魔力の塊が飛んでくる。
「ぎゃあああ」
「お、俺の腕がああああ」
「かふっ、あれ?」
打撃を与えるようないつもの魔力の波動ではなく、より鋭くした魔力の刃。
それはダリルの後ろにいた獣人族の戦士達の手、足、胴体を切り刻んでいた。
半数ほどの命が消え去る。
その事実から、本当に今までは手加減をしてくれていたということが分かる。
見えなかった。
動きに反応することができなかった。
それから更に命が散っていく。
「いがあああああ」
「うぐっ、げえええ」
不可視の刃は避けようもなく体を削っていく。
ダリルはそれを勘により難なく避けることができていた。
だが、誰しもダリルのようにできるわけではなく、避けきれなかった者からどんどんと死んでいく。
ついにはダリル含め、残り10人ほどとなっていた。
残った獣人族の戦士達もすでに怯えている。
「まだ、これほど残っているんですか。今代の獣人族達は優秀なようですね」
下に転がっている死体を何事もないように踏みつぶし、こちらへ近づいてくる。
ダリルは掠って頬から出る血を拭う。
恐ろしい相手だった。勝ちようがない。
その事実はダリルでさえも怖くてたまらない。だが、ここで負けてしまってはトワの近くにいる資格などないだろうとダリルは思う。
完全に相手は今、私達に対し油断している。
「でもすでに後ろの方々は限界が近そうですね」
スパッ。
手を振った。
それだけで後ろにいる獣人族の戦士達3人の首が地面へと落ちる。
「貴様、よくも」
ダリルは殴り掛かる。
が、それはやはり全てが受け止められてしまう。
シャメイルは知らない。ダリルが魔法を使えることを。
それはダリルの唯一シャメイルに勝る点だろう。
獣人族の勇者であるシャメイルでさえも魔法を使うことはできない。魔力がないというわけではない、獣人族が魔法を使う才能が絶望的にないのだ。
しかし、ダリルはその獣人族の性質を受け継いでおらず、魔法を使うことができる。
そのアドバンテージがこの戦いを大きく変えるだろう。
「おらおらおらおら」
シャメイル相手に必死に攻撃を繰り返す。
拳が、蹴りが、連続してシャメイルを襲う。
がそれを余裕でさばいている。
「もういいですか?」
蹴った足が捕まれ投げ飛ばされる。
そして、魔力の刃が飛んできた。
それを転がって避ける。
「何度やっても同じことです。あなた達に勝ち目はない、それはあなた達が悪いわけはなありません。私が神に愛され、格別な力を貰ったから」
まるで自分が選ばれた人物であるかのように。
でも――――。
「あなたは死んだ」
「っ!!」
勇者バンの冒険は最後勇者バンが死んで終わってしまう。
その死に方は寿命で死んだわけではない。殺されたのだ。
「馬鹿にしていた魔法によって」
勇者バンは魔法使いともよく戦っていた。
そのため、魔法を使ってくる者と戦うのには慣れていた。
だが彼は魔法で殺されてしまう。
どうしてか?
それは、彼が戦っていた魔法使いはというのは風魔法の使い手が多かったから。
なら、どうして風魔法の使い手が多かったのか?
それは昔も今も変わらず一番近い国がエルフの国だからだ。
なので、昔勇者バンが戦った魔法使いというのはエルフがとても多かった。
先ほどの魔力を飛ばす技術にしても、どこか風魔法の影響を受けているように思える。
だから、油断したのだ。
魔法はこういうものなのか、という偏見に押し固められ挑んだエルフ以外の魔法使い達に。
結果は惨敗。
最終的には追い詰められて殺されてしまう。
「私達はその物語から魔法使いの恐ろしさを学んだわ」
「…………」
「私達はあなたを倒せる。油断したあなたにはね」
その顔には怒りが浮かんでいるのが分かった。
それほど、彼にとって魔法に負けたことは恥だったようだ。
今はシャメイルが怒るほどいい、この話に集中してくれたなら準備を進めることができる。
魔力は体の隅々まで行き届かせる。
そして手に特に魔力を多めに集めた。
これはトワ達と旅をしている中でトワ、メル、リーシャから学んだことだ。
『獣人族は直感がすごいから難しい理論じゃなくて、体で魔法を覚えたらいいかもね』
『そうじゃのう、手はよく使うじゃろう。手から魔法を使うことはできると思うがの』
『ダリルはすごいな、体内の魔力操作で言えば俺より上だな』
仲間の声を思い出す。
そうだ、自分の長所を活かすんだ。
手で魔法を使うのは得意だ、体内の魔力操作は自信がある。
「それで、私はまた魔法で殺されるのですか?……ありえない、私はもう魔法なんかには負けることはありません」
「本当に?」
「負ける、ことは、絶対にない!!」
怒りにこちらへそのまま突っ込んでくる。
今までの複雑な動きではなく、直線的な動きだ。
魔力を体内で恐ろしい速度で運用することにより、身体能力は格段と上がる。
周りがスローモーションとなった世界で、ダリルもシャメイル向けて駆けた。
シャメイルの腕がこちらへ伸びてくる。
見える、その動きが見える。
過剰な魔力の動きにより、目や鼻から血が流れ出た。
そして、筋肉と骨が軋み始めている。
「死ねっ」
ぴんっと伸びた腕はダリルの胸を狙っていた。
それを避けようとするが、横腹に突き刺さってしまう。
痛みに耐えながら、これを好機と捉え手に貯めた魔力をその腕と顔に向けた。
シャメイルの目が驚きに見開かれる。
そして、ダリルは魔力を火魔法として解き放った。
バーンという音ともに目の前が爆発する。
過剰な火力によってダリルとシャメイル両方が吹き飛ばされた。
「い、つっ」
横腹からは血がとめどなく流れており、止まる気配はない。
痛みから立ち上がれなかった。
アイテムポーチから布を取り出し、それにポーションを染み込ませ止血を図る。
シャメイルがどうなったのか、見えない。
「やったのか?」
獣人族の戦士の一人がシャメイルがいる方向に歩いていく。
が、その獣人族の戦士は起き上がったシャメイルに顔を掴まれ、そのまま潰された。
「痛い、じゃ、ないで、すか」
何とか見たシャメイルの姿は、片腕を失くし顔は大きな火傷で両目が塞がっていた。
足つきも片腕を失ったせいかふらついている。
「どこに、どこにいるんですか!!あのクソは」
探している。
その無防備な背中が見え、ダリルは最後の魔力を振り絞った。
最後はメルから教えてもらった風魔法で。
なけなしの魔力で作った風魔法の弾丸は放たれる。
「はっ」
風を切る音に気付いたシャメイルだったが、もう遅い。
背中にたどり着いた風の弾丸はぶれることなく、シャメイルの心臓は貫いた。
「が、はっ」
前のめりで倒れる。
今度こそ倒せたのだろうか。
これ以上起き上がるようでは、もう諦めるしかない。
「まさか、負けるなんて。それも同じ魔法によって、はぁ、まあメフィルには悪いですが私は先に行ってますかね」
シャメイルの体が光に包まれ分解されていく。
そして、最後消え去る前にダリルの方を見て口を動かした。
声にならない伝言はダリルに伝わる。
『強いですね、あなたは』
そうして完全に消え去ってしまう。
ダリルはそれに安心して、魔力欠乏と失血により気を失った。




