ダリルvsシャメイル
シャメイルと名乗ったその獣人族は笑みを崩さずこちらを見ている。
「彼だね、ラーマと獣人族の戦いを煽ったのは」
魔術師長は油断なくその獣人族を観察する。
騎士団長もいつでも動けるように大きな盾と剣を構えていた。
「そして、ラーマの軍勢ですか。こんな蟻んこ達を引き連れてどうしたのですか?」
「これはこっちのセリフだ。どうしてお前がここにいる?」
そこで、シャメイルは顎に手を持っていき考える。
「まあ、教えてもいいでしょう。恩情ですね、私達は今神と戦っているのです。まあ、私はその戦いにいらない横やりが入らないように見張るのが役目ですが」
「神との戦い?」
「おっと、これ以上は教えませんよ。では、まず蟻んこさん達ばいばいです」
指をパチンと鳴らす。
すると、後ろにいる兵士達の半数が倒れた。
「一体何が起こったんだ?」
「私にも分からない。魔法を使っているようにも見えたが、予備動作がない」
騎士団長は近くに倒れている兵士の一人を抱きかかえ、脈を確認する。
死んではいない。
が、恐ろしく脈が弱弱しくなっている。
「あらら、意外と精鋭を揃えていたのですね。我が同胞の獣人族もなかなかしぶとい」
獣人族の戦士達はシャメイルを睨む付けている。
ダリルも歯をむき出しにして怒っているようだった。
それを確認して、シャメイルは火に油を注ぐ。
「そういえば、バン君はどうしました?死にましたか?」
そう言えばバンが見当たらない。
生きているのならこの行軍にも参加しそうなのだが。
それを聞いた獣人族の戦士とダリルは濃厚な殺気を放ち始めた。
「トワ、ここは私に任せてもらえないかな?」
「だが一人では…………」
「我らもこの戦いに参加する。ダリル様、我らも戦いに参加させてください」
獣人族の戦士全員がこのシャメイルと戦いたいようだった。
確かに、ここでこいつと戦っていてはラーマにいるクラスメイト含め、黒い呪いにかかった者達が治らないまま事切れる可能性がある。
なら、ここでこいつを足止めして他が進むのは得策だ。
「はいはい、お別れは言いましたか?同じ種族であるから待ってあげているんですよ」
シャメイルの体で魔力が流動的に動き始めたのが分かった。
それに合わせ、魔術師長も魔法の準備をする。
「トワ、大丈夫。絶対に勝って追いつくから、私も弱いままじゃないよ」
「あ、おい」
そう言って、一歩前へまた一歩前へと踏み出す。
それは獣人族の戦士達も同じようだった。
「トワ、信じるのじゃ。ダリルは負けん」
「そうです、ダリルさんは強いですよね?」
リーシャとメルが言うとおり、ダリルは元から強く、その才能におごらず修練を積んできた。
それが弱いはずがない。
これはただ傷ついてほしくないと思う俺のエゴだ。
「行こ」
「行きましょう、ここはダリルに任せて」
コマチとミアに手を引かれる。
「ここは誰も通さないと言いましたが、聞こえていますか?」
ダン。
足が地面を蹴った音が鮮明に聞こえた瞬間、俺達の前にシャメイルはいた。
右足が後ろから前目掛けて振られる。
空気の振動による圧は打撃となって全てを襲う。
「ぐわっ」
「ぐっ」
気を失った者達の体は吹き飛ばされ、立っている者達はそのほとんどが圧に耐え切れず後ろへ倒れる。
見ると、その鎧は凹んでいた。
「それもう一回」
「っさせない」
ダリルがまた後ろに足を引いたシャメイル目掛けて、地面を蹴って砂を飛ばす。
相手の視界を奪い、その中で横から殴り掛かる。
「おっと、危ない」
それを目を瞑ったまま回避して見せた。
獣人族戦士達もダリルに続き、攻撃を開始する。
多対一の戦いが始まった。
「今の内にマルバーン王国へ」
魔術師長が指示して、残った兵士と俺達は戦いの横を通り抜けようとする。
「行かせないと言いましたよね?」
「お前の相手は私だ!!」
体の半分を獣の体格にしながらダリルは蹴りを入れる。
その動きは目で追えるのがやっとのこと。
シャメイルも攻撃を回避することを諦めて、腕で受け流していた。
今のうちに。
必死に抑えているくれている間に、俺達はマルバーン王国の門を破壊して侵入する。
破壊された門から見えたマルバーン王国は――――。
「ガグワ」
「グウウウウウウ」
黒い魔物達に満たされていた。
我が物顔でいるその黒い魔物達に対し、俺達は蹴散らして進んでいく。
後ろで戦っているダリルの方を振り返らないように、斗和達は王城へ向かった。
「ああ、通してしまいました。まあ、大丈夫でしょう」
多対一という状況の中、それでも余裕があるらしい。
ダリルの蹴りを同じく蹴りで受け止め、獣人族の戦士達が振るう剣をへし折っていく。
まるで舞うように繰り出される蹴り、拳は止まることを知らない。
纏ったヘルムも鉄の胸当ても全てが壊されていく。
「やばい」
「あなた達は雑魚なんですから、下がっていなさい」
手を薙ぐ。
手に集まった魔力が空気に干渉する。
それは魔法ではない。ただ、魔力が飛ばされるという魔法とも呼べないもの。
だがそれは彼が行うことによって脅威に変わる。
「くっ」
「がはっ」
「ほら、これさえも防げはしない」
「喰らえ」
その攻撃により蹴散らされている獣人族の戦士達に変わって、ダリルは限界まで自分の速度を上げる。
その上、動きが単調にならないように工夫を凝らす。
そこまでしても攻撃は受け止められる。
「何でこれを受け止められるのか、知りたい?」
「くっ」
蹴りを入れようとした足を掴まれ、投げられる。
そのまま攻撃を警戒して投げられた先でバックステップして態勢を整えた。
だが、それに反し攻撃はしてこない。
周りを確認する。
気が付けば動けるのは自分一人になっていた。
最速の攻撃を防がれながら、周りに攻撃していたということか…………。
「私を知っていますか?」
「…………」
「シャメイル・バン」
シャメイル・バン?
バン?
兄と私以外はその名を受け継いだ者、血族はいないはず…………。
「ああ、あなた達と家族なわけではありませんよ。私の子孫よ」
「子孫?」
「そう、子孫です。なぜなら私は始祖バンになるんですかね」
「嘘だ」
迷い事に耳を傾ける必要はない。
攻撃を開始する。
「ああ、疑っているでしょう。でもね、始祖であるバンだからね、君達の力は私も熟知しているんだよ」
そう言って私の攻撃は尽く防がれ、そして、なぜか獣化の限界が早くきた。
嘘、まだ余力があるはず。
それでも獣化が発動されない。
何度も試してみるがそれでもできないのだ。
「くっ」
「はい、終了。バンの力は受け継がれていて感心したけど、その力で勝つのは無理かな」
本当に、本当にこいつは勇者バンなのか?
あり得ない話であるが、本能からその話が本当で訴えかけてくるようだ。
まさか本当に?
「だが、勇者バンは死んだはず」
「そうだね、死んだよ。生き返ったけど、メフィルっていう人間族に生き返らせてもらったんだぁ」
「メフィル」
知っている名前が出てきた。
メフィルが勇者バンを生き返らせた、一体どうやったらそのようなことが可能なのか分からないが、それは本当なのだろう。
今、自分は先祖と戦うのだ。
獣化は使えそうにない。
なら、そんなものは使いはしない。自分が培ってきたもので勝負をする。
「力を奪われてなお折れないか。流石我が子孫だね、どこまであがけるか見ものじゃないか」
両者構える。
そして、再び激突した。




