マルバーン王国の道中
それから一時間ほどの時間が経ち、準備も終わり、今、大きな広場に並んだ軍勢を見ていた。
逞しい顔付の兵士達に混じり、自分達とあまり変わらない年齢の兵士もいる。
これから進むのは死地と言っていいだろう。
怖くない者などいない。
俺だって怖い。だが、もしこれで俺が行かない選択をして、この状況が良くなるのだろうか?
それは否だ。決して良くはならないだろう。
そんなことは分かっている、そして彼ら兵士もそのことを十分に踏まえている。
「それでは、王から言葉を頂く」
前の台に立つ騎士団長が下がり、ラーマ王が前へと進み出る。
並んだ兵士達を見渡し、そして口を開いた。
「これから進むは人間族の国――マルバーン王国。呪いの元凶を叩きに行く、この中のほぼだいたいが死ぬだろう」
その言葉で若い兵士達は顔を曇らせる。
「しかし、その死によって我らの友は救われる。家族は救われる。故郷を守れるのだ、君らはこの戦いでは英雄そのものだ。何者にも引けを取らない英雄だ、そしてこれを見たまえ」
そう言って、ラーマ王は部下に上から布を被せられた大きな何かを運ばせてくる。
何かと疑問に思っていた時、その布がラーマ王により脱ぎ擦れられ露わになった。
大きな水晶だ。六角柱の形をしている。
そこで、前にいる兵士があることに気が付いた。
「名前が彫られている」
「そうだ、ここにはこれから戦う者の名が刻まれている。英雄達の名だ」
その水晶はとても輝いて見えた。
それは兵士達にとってはより一層見えたことだろう。
若い兵士達はその水晶を見て、恐怖に支配されていた目に少し高揚が混ざる。
「英雄達よ、今、悪を滅し、そして凱旋せよ。これは命令である!!」
その言葉に兵士達が沸き立つ。
その心には一つの闘志が芽生えたようだった。
ラーマ王はそれを見届け、また後ろへと下がる。
そして、マルバーン王国へ向け歩が進められた。
ラーマを離れ、マルバーン王国に向かう道には、黒い魔物達が襲ってくる。
それを撃退するごとに兵士達は疲弊していた。
だが、損害は今のところ出ていない。
それは一重に魔術師長と騎士団長の指示が的確であることや、今はまた士気が高いためである。
俺達も黒い魔物との戦いに関して、積極的に戦いに参戦した。
「すごく強いですね」
「そんなことはないよ、まだまだです」
兵士の一人が話しかけてきた。
彼も戦いの中で疲労がたまっているようで、顔に疲れが出ている。
が、それでも明るく振る舞っていた。
「こちらはまだまだ戦えるのは、あなた達のおかげですよ」
伝えたいことを伝え終わったのか、次の防衛場所へと移っていく。
彼はムードメーカーらしく、周りの兵士達を元気づけているようだ。
そして、戦いながらも進んでいく内、日が傾き始めた。
「ふむ、ここまでのようだ。テントを張れ、明日は早いぞ」
「魔術師班、結界をお願いします」
魔術が得意な種族であるエルフと魔術の使える者達が共同で結界を張っていく。
力と強い獣人族と兵士達が共同でテントを張る。
他種族がそれぞれを補っている様子が見られた。
「すごいのう、今だからかもしれんが他種族同士が助け合っておうのう」
「いい光景ですね」
「そうだな」
俺達は野営しているところを襲われないように、警戒していた。
今のところ黒い魔物達が襲ってくる気配はない。
昼の時のように多くの黒い魔物達が襲ってくるということはないようだ。
夜は活動しないのだろうか?
「あ、あそこに1体いますね」
ミアが見つけ狩りに行く。
夜になって1体目だ。
夜はあまり活動しないということでいいのかもしれない。
「結界張り終わりました」
「テントも終わりました」
そうこうしている内に野営の準備は着々と終わっていく。
「トワ、と言ったか?お前達は寝ていろ」
「えっと、騎士団長さん、それは俺達は見張りはしないでいいってことですか?」
「そうだ。今回の戦いで確信した。お前達にはよりこれからの戦いで活躍してもらわないといけない。そのためには休息は必要だ。お前達が活躍することによって士気が上がるしな」
そう言って去っていく。
「ツンデレ?」
コマチがぼそっと呟くのを聞かなかったことにして、自分達のテントへ向かう。
俺達には特別に、兵士のテントと離れた位置にある大きめのテントを張ってもらっていた。
中も広く、全員で寝たとしてもまだスペースがある。
そして俺達は、騎士団長の言葉に甘えて今夜は寝ることにした。
朝。
一日の野営を終え、すぐさま行軍を開始する。
変わらす、日が昇ると黒い魔物達の活動も活発となり、たくさんの黒い魔物達が襲ってきた。
唯一良かったのは、黒い魔物に知恵のようなものがないことだ。
動きは非常に単純で、避けて反撃することも難しくない。
まあ、それを補うほどの数がいるのだが。
「マルバーン王国が見えてきたぞ」
兵士の一人が指を指す方向にうっすらとマルバーン王国の塀が見える。
遠くから見る限りおかしな様子はない。
出て行った時とあまり変わらないようにも見えるのだが。
メルが震えていた。
リーシャも険しい顔をしている。
他の面々も似たような顔をしていた。
『トワ、あそこは魔境みたいだね』
「魔境ね」
『禍々しい魔力と、それ以外にもいろいろと混ざっているね』
魔術師長もその異変に気が付いたようで、遠視の魔法を用いる。
バチッ。
魔術師長の目の前で光が炸裂し、魔術師長はのけぞる。
「おい、大丈夫か?」
「ああ大丈夫だが、まさかこんな遠くからの魔術も弾くとは」
強い力が働いていると魔術師長は言う。
それは騎士団長含め、魔法が使えない兵士達には分からない感覚だが、魔法の使えるエルフや魔術師団の彼らにとっては笑える状況ではないことだと分かっている。
中には、尻餅をついた者もいた。
「まあ、行くしかないな」
斗和は雰囲気に呑まれた魔術師の前を、マルバーン王国に向け歩いていく。
その後ろに仲間達も続く。
魔術師長もそれに続いた。
兵士達、騎士団長も負けじと俺達と並んで進む。
その行動もあり、恐れ戦いていた魔術師たちも歩を進める。
「大丈夫です。私達は負けたりしない、行きましょう」
魔術師長の言葉に勇気を貰えた魔術師達は決心した。
着いていくと。
そして、黒い魔物達を蹴散らしながら、マルバーン王国に近づいていく。
近づくほど、黒い魔物達は多く、多種多様なものが出現し始めた。
そして――――。
「まさか、ここにお客さんがもう来るとは」
マルバーン王国の門の前には一人の男が立っていた。
その獣人族の男は俺とそしてダリルを見て、笑っている。
「ああ、あなたたちですか。なら計算が狂ったのも頷ける」
「こいつは……」
「バンを操ってたやつ!!」
そいつは綺麗なお辞儀をして。
「シャメイルと申します。まあ、名乗ったところであなたたちはここで死ぬのですが」
童話のチャシャ猫のようなにやっとした笑いをした。




