悪魔の囁き
先に迫ってきた一体を切り裂く。
次に来た二体目も同じように切り裂こうとしたら、俺の攻撃が届かないところで止まった。
動きを観察するように構えて向かってこない。
「トワ、まだ一体目が生きてるよ」
ダリルの忠告通り見ると、足元で切り裂かれた一体目が蠢いていた。
それをすぐさま踏みつぶす。
「あ、トワっ」
踏みつぶした瞬間、すでに二体目と三体目は俺の方へと迫っており、そのままタックルされて地面へ倒された。
体をホールドされて動けない。
「今、助けてやる」
「待っておるのじゃ」
フリジアとリーシャが俺を掴んでいる二体目を攻撃するが、壊れたところからすぐに治っていく。
それを機に、三体目は足を振り上げた。
「離れろっ」
トワは叫ぶが声は意味をなさず、俺めがけて振り落とされた足は攻撃していたリーシャとフリジアを吹き飛ばす。
俺も腹部に激しい痛みを感じる。
「うぐっ」
『トワ、ごめん。逃げられそうにない』
振り下ろされた足は俺に打撃による負傷を与え、俺をホールドしていた二体目を貫通している。
が、二体目の貫通した箇所はすぐにふさがった。
もう一度振りあがった足が見える。
あまり食らいすぎると死んでしまうだろう。
『トワ、これはどうすれば、一体、これは……』
「キリン、一旦俺に指揮権を譲れ、俺がやる」
『でも…………ごめんよ、トワ』
キリンから自分の体の指揮権を受け取り、視界はドラゴンのものと重なる。
目の前には今にも振り下ろされそうな足があった。
腕周りは少ししか動かせず、足も同様だ。
そして、俺はこのドラゴンの状態をキリンのように上手く動かすことはできないが、やれることはやってやる。
ぶん。
世界がスローモーションのようにゆっくりと動く中、足が同じ個所に向かって振り下ろされるのが見えた。
動けないので避けることはできない。
今からホールドしているこいつを倒しても遅い。
今俺が使えるもので活用できるものは…………。
「ガアアアア」
自分の周りの地面に風魔法を発動させる。
直撃まであと3秒。
周りの砂が舞った。
あと2秒。
そして、俺は口に炎をためる。
あと1秒。
口に集まった炎を放った。
「うおっ」
「きゃあああ」
俺を中心に爆発する。
その爆発は恐ろしいほどの威力を発揮し、爆風で仲間達が飛ばされそうになった。
充、日向、芽衣はフリジアが助け、何とか飛ばされずに済んでいる。
他は飛ばされかけていたが何とか耐えたようだ。
そして、肝心の俺だがやはり爆心地であるため無傷とはいかない。
体中の鱗がはがれ、そこから血が流れている。
しかしこの爆発のおかげで残りの2体は吹き飛んだようだった。
「おいおい、トワ。お前まさか意図的に起こしたのか?」
充達が飛ばされるのを守ったフリジアが近づいて尋ねる。
どうもフリジアはこの爆発方法を知っているようだ。
これは、粉塵爆発。
地球にいた頃に砂であっても粉塵爆発は起こせるとテレビで見たことがあった。
その上ここは砂鉄が多かったのだろう、結構な爆発で結構な傷を負ってしまった。
「ああ、済まない。巻き込んでしまって」
龍化を解き、俺は座り込む。
体の至るところが痛い。
特に集中的に攻撃されていた腹部には違和感があった。
「トワさん、すぐに横になってください」
そう言ってすぐメルに横にさせられた。
俺の頭はふとももで受け止められる。
そして、服をまくり上げられた。
「トワ、おぬしも腹が黒くなっておる……」
「トワァ、大丈夫なの?」
「トワ」
「ああ、トワが一体どうすれば」
周りにリーシャ達が集まってきた。
「回復魔法じゃ、直らない」
今も亜里沙が充達三人に対し回復魔法をかけているが、効いていないようだった。
まさか、俺もかかるとは。
『大丈夫、トワは神力を持っているから、この呪いの進行をすごく遅くすることはできるよ』
「本当か?」
『うん、でもそれはまた寿命を縮めることを意味しているけど』
「それは……」
「トワ、キリンと話しているの?」
メルが上から話しかけてきた。
「ああ、どうもこの黒い呪いの進行を遅くできるらしい」
それで俺の寿命は縮まるらしいが。
まさに命を削る行為だ。
恐ろしくないと言ったら嘘になる。
「それは本当なの!?それってキリンの力とか?」
「ああ、そんなところだな」
目に見えて周りの仲間達はほっとしている。
この大切な存在を守れるなら…………。
――――本当にそうか?
!?
――――本当にお前は仲間が自分の命よりも大切なのか?
内からキリンとは違う話かけてくる声がある。
それは若いような老いているような、男性のような女性のような声だった。
その声は俺を揺さぶる。
――――分かるだろ、死ぬという怖さが。
「キリン、お前はこの声が聞こえるか?」
『うん?どういうこと?声?』
どうもキリンには聞こえていないようだ。
そして、仲間達にもこの声は聞こえていない。
「トワ、どうしたの?」
「あ、ああいや、何でもない」
――――何でもないことはないだろう。お前が命を消費して戦っているなんて奴ら知らないんだぞ。そんなこと許されるか?
うるさい。
――――俺はお前のことを思って言っているんだぞ。
うるさい。
――――知っているんだ。お前が本当は自分の命を失っていくのが怖くて怖くてたまらないことが。
うるさいうるさいうるさい――――。
俺はそんな言葉に屈したりはしない。絶対に。
キリンに今すぐ進行を遅くするように言う。
『分かった。本当にいいんだね?』
「いい、早くしてくれ。俺が折れてしまわないうちに」
キリンは焦っている俺に疑問を持った様子だったが、素直にしてくれたようだ。
先ほどまで肉眼で確認できるほど広がっていた進行が止まった。
少しずつ進行しているのだろうが、肉眼では分からないほどだ。
「ほ、本当に進行が遅くなった」
「それは充達にもできるのか?」
宗太が本当に進行が遅くなったことを確認して、顔を近づける。
『そんなことしたら、トワはすぐ死んじゃうよ』
「……ごめん、これは俺しかできないんだ」
「そっか、すまん。無茶を言って」
「いいんだ、力になれずごめん」
宗太は残念そうな様子で充達を確認しに行った。
それを見て、俺は心が痛む。
さきほど聞こえてきた声の言う通りかもしれない。
最後、本当に大切なのは自分の命なのかな。
「トワさん……?」
「膝枕ありがとう。俺はもう大丈夫だから、進もう。もうすぐでラーマも見えてくると思う」
そうだ。
今は進むことだけを考えていればいい。
そうすればあの悪魔のような囁きも聞こえなくなるだろう。
俺達以外誰もいない草原を、ラーマに向かって進んだ。




