黒の大群との乱戦
キリンが神力を活性化させ、体が熱くなっていく。
筋肉が盛り上がりその体は人間のものとかけ離れる。
「トワッ!!」
リーシャが叫んでいる声が聞こえる。
俺の名前を呼んでいるのだろうが、少し遠い。
この状態になると周りを気にする余裕が無くなり、戦うことにしか集中が出来なくなってしまう。
そこを前はキリンに利用されたのだが、今回はキリンは仲間なのでその心配はない。
『じゃあ、トワ行くよ』
「ああ、仲間を守ってくれ」
仲間達には俺の声は届かない。
俺は主導権をキリンに譲って、自分の視界をただ眺めていた。
「トワさん大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃろう。今回はキリンは仲間じゃ、だがこんな規格外な力を使うのは反対じゃがな」
「なんでですか?」
ミアは不思議そうな顔で尋ねる。
「体のどこかにはその絶大な力のしわ寄せがくる。それをトワ本人が知っていたらいいんじゃが」
「ん、知ってると思う」
「知っているのかのう?」
コマチは今も黒い魔物達を手で切り裂き、足で踏みつぶし、口から吐く炎で焼き尽くしているトワを見ている。
その顔は無表情ながら悲しそうにしているようだった。
「知ってる、けど、それを教えてはくれない」
「そんな、じゃあトワは無理をしてるってことなの?」
「ふん、それもトワが決めたことだろ。じゃあいいじゃねぇか」
心配をしているダリルに対し、フリジアは毅然とした態度を取っている。
そこにダリルは反発する。
「フリジアさんはトワのこと心配じゃないの?」
「心配じゃないさ。トワのこと好きなお前も信じてあげなくちゃいけねぇだろ」
「……そっか、そうだよね」
無言となり、戦っているトワの後ろ姿を見る。
一人で全てを破壊し尽くさんと猛威を振るう。
とても彼に勝てそうな魔物はいそうにない。そのため、その数はどんどんと目減りしていた。
黒い魔物達も脅威と考えたのか、私達の方には来ず、トワ目掛けて攻撃している。
援護できればいいが、こちらには負傷者がいるため、いたずらに攻撃でもしてヘイトを稼いでしまい守り切れなかったでは目も当てられない。
なので、トワに任せるしかないのだ。
「あれは……」
メルが目を向けた先に大きな影がある。
その影はどんどんと大きくなっているように見えた。
「こっちに来ているのか!?」
宗太は目を見張ってその大きな魔物の姿を見る。
巨人のように二本足で歩き向かって来ているが、その姿は醜悪としか言えない。
言い表すなら魔物の集合体。
様々な魔物の一部が集まって作られたため、目がたくさんあったり、手がいろいろなところから生えている。
腹には大きな口が開いてあり、それが俺達を飲み込もうと待ち構えているかのように思えた。
「トワ、こっちに大きな魔物が近づいているぞ!!」
宗太が大きな声でドラゴンと化した斗和に伝える。
斗和は攻撃の手を緩め、その大きな魔物の方向を見た。
そして、右手を向けたかと思うとそこに体の大きさと同じ位の魔法陣を張る。
魔法陣は光り始め、そして熱線を発射する。
今まで広範囲に吐かれていた炎を凝縮したかのようなその熱線は、遠くに見える大きな魔物の口を貫く。
どてっぱらに大きな穴を開けて後ろへ倒れこむが、死にはしなかった。
すぐに立ち上がり周りにいる他の黒い魔物達を捕食する。
「あいつ他の魔物を捕食してる」
「元通りになったのう」
腹に空いた穴はふさがり、進行を続ける。
そこで宗太はある事に気が付いた。
「美貴、あの大きな魔物を攻撃してくれ」
「でも宗太、そんなことしたら――――」
「大丈夫だ、信じてくれ。予想が当たっていれば何とかなる」
美貴は「どうなっても知らないよぉ」といいながら弓を構えた。
狙うは頭と腹にあるあの大きく開いた口。
周りも巻き込むように威力を強めにして放つ。
「行くよ」
距離は大体3,4キロメートル。
それでも大きく見えるということは近くで見るt、より一層大きく見えることだろう。
そんな奴がここまで来たら自分達は終わりだ。
強く引き絞り狙いを定め、放った。
「流石、美貴」
「すごいですね」
流星のように光を後に残しながら飛んでいく矢は、寸分違わず頭と腹に直撃する。
その際に衝撃波と魔力による爆発によって周りの魔物も吹き飛ばされた。
トワが当てた熱線による穴よりかは小さいが、それでも貫通している。
美貴はその視力が良い目で、大きな魔物が苦しんでいるのが見えた。
特に頭を押さえて苦しんでいる。
「なんかすごく効いてる?」
そして、周りにいた魔物達がいなくなったため、捕食して治すにも時間がかかっている。
鈍重な動きで捕食に動いていた。
「美貴、もう一回お願いできるか?」
「分かった」
宗太は考える。
どんな魔物でさえ弱点はある。
この世界に来て、錬金術師となり学んだことを言えば死なない魔物は存在しない。
死なないように見える魔物でもどこかに弱点があり、死ぬ。
その死なないものを作るというのが錬金術の極意なのだが、それは異世界人である宗太であってしても成しえなかったものだ。
そのため、弱点は存在する。あの大きな魔物でも。
そうこうしている内に第二射が放たれる。
「グゴオオオオオ」
びりびりと空気の震えるような声を出して、怒りを露わにする。
第二射は両足を貫き、捕食しようとした手を掠らせた。
そして、その拍子に捕食されないように他の魔物達は逃げる。
あの黒い魔物達も意志を持っている?
全てが似たような姿をしているこの黒い魔物も命を脅かすものから逃げ出している。
それは願ったり叶ったりな状況だ。
「第三射、行きます」
倒れて這っている大きな魔物の頭を貫く。
動きが止まった。
が、手が独りでに動き出し近くにいた魔物を捕まえ、手が捕食した。
「体の一部一部が意志を持っているのか」
「どうする?あの手を打つ?」
「ああ、そうしてくれ」
手は放たれた矢によって粉々に破壊される。
粉々になった手は元に戻ったりしない。
消滅もしないところを見ると、生きているようだが。
「あ、あれを見て、体が細かく分かれていくよ」
ダリルが指を指したところ、潰された頭と体が分かれ、そして腰からまた二つに分かれた。
その一部ずつが別々に動き周りの魔物達を捕食していく。
そして。
「おいおい、ちょっとちいせぇが、さっきのと同じやつが3体になったぞ」
フリジアが言った通り、大きさは一回り小さくなったがそれでも大きな巨人が3体に増えた。
そして今度は足が肥大化している。
まるで遅かった進行速度を補うように――――。
「こっちに来てる!!」
「まずいのう」
「風神・雷神」
危機を感じたメルは回復魔法を使いながらも、向かってくる3体に攻撃を繰り出す。
リーシャも火球を飛ばすが、止まる気配はない。
避けて迫ってくる。
もうすでに距離はあまりなかった。
「まずいなぁ」
「で、かくないぃ?」
近づいてくる3体のに対し、目の前に影ができた。
「トワっ!!」
「トワ」
「トワさん」
黒い鱗のドラゴンが、向かってくる3体の巨人と対峙する。
周りには斗和に倒された黒い魔物が消えていく。
もう近くに黒い魔物がいない。
そして、一番始めに近づいてきた黒い巨人の一体を斗和は右の鉤爪で切り裂いた。




