充との戦い 完
充の刀から出てきた黒い物体はグロテスクな姿をしている。
目や鼻などがなく、ただ口だけが存在しているのだ。
それは、観客で見ている龍人族も気味が悪がっていた。
「うへぇ、何だよあれ」
「気持ち悪いわぁ」
「あれなんか生きてるぞ」
「気持ち悪くないわ!!お前らから飲み込むぞおらぁ」
いや、気持ち悪いよどう見ても。
その黒い物体はずっと俺の方向に口を向けている。
そして、よだれを垂らしているのだ。
『ああ、あれは魔剣だね。それも上級の魔剣じゃないか。どうも僕が見えるようだ』
「そうなのか?」
『間違いないね。ああ、気持ち悪い』
キリンも気持ち悪いと思っているので、充以外意見は一致していることが確認できた。
「もう許さねぇ。喰らえ斗和」
黒い物体は俺向かって飛んで来た。
どのような効果があるのかは分からないが、触れない方が良さそうなのは分かる。
明らかにやばい雰囲気もしているのだ。
キリンに解析を頼む。
『じゃあ、あと十分くらいは耐えててね』
「了解」
これだと2対1のような不平等感がしないこともないが、まあ今回は勝つためだ致し方なし。
俺は逃げに徹する。
その間も黒い物体は口を大きく開け、俺に噛みつこうとしていた。
「くそ、ちょこまかと。逃げるばっかかよ、情けねぇぜ」
「そんな挑発には乗らないよ」
「くそ」
見え切った挑発には乗らない。
それにどうもこの黒い物体を維持するのも結構魔力が必要そうだ。
充の顔に汗が滴る。
そして、十分ほど過ぎた頃。
『よし、分かったぞ』
「お、で、どんなやつだ?」
『うん、何でも喰らうのが売りの魔剣だね』
「何でも喰らう?」
『魔力も体力も筋力も知恵も、生命力でさえ食べてしまう化け物さ』
おい、それって食われたら一たまりもないじゃねぇか。
そんな危険なものを充は使っているのか?
この技に当たるだけですぐ即死してしまうと同義だ。
『いや、食べるものを魔力と体力だけに絞っているようだよ』
「そうか、じゃあちゃんと使いこなせているんだな」
『そうなるね』
だが、敵の強いところは分かったが、弱点は分からない。
キリンに弱点はないか聞いてみたが、魔法に少しだけ弱いとしか分からないらしい。
一応魔法などは効くらしいので、風の弾丸を何発も放つ。
が、その黒い物体に当たる瞬間に消えていってしまう。
「おらおら、どうしたよ。まだまだこれからだぜ」
黒い物体が二つに分かれた。
その分小さくなったが、少しずつステージの端へと移動させられる。
そして――――。
「へへ、これで終わりだぜ」
後ろにステージは余っていない。
そして、前には黒い物体が2体迫っていた。
「これで終わりだぁ」
しょうがない、まさかここまで追いつめられるとは思っていなかった。
ばれない程度だが神力を使うしかないようだ。
まだ神力は自分では操れないため、キリンにお任せする。
「キリン、ばれないように調整してくれ」
『難しいこと言うねぇ。まあ、やってみるよ』
そう言うと、右手の親指と人差し指、中指だけが黒龍化する。
その龍の指となったものを迫る黒い物体に向けた。
「はじけ飛べっ」
神力を込めた玉を黒い物体2体向けて放った。
寸分狂うことなく当たり、その力を飲み込めずに弾けた。
「なっ」
「これで終わりだ」
充が隙を見せた時には、俺は充の目の前にいる。
そして、魔力を込めた拳を胸に押し当て吹き飛ばした。
「ぶへっ」
そのまま放物線を描きながら飛んでいき、ステージ外へと落ちた。
「そこまで、勝者――トワ」
歓声が巻き起こる。
龍人族達は興奮していた。
龍人族同士では見ることのできない、多種多様な攻防に血が騒ぐ。
戦闘民族である彼らにとっては戦いとは娯楽だ。
そして、先ほどの斗和と充の戦いは彼らを満足させるほどの高度な戦いだった。
「ふう、勝ててよかった」
俺は吹き飛ばした充のところへ駆け寄る。
勝つためとはいえ、思いっきりやったため、無視できないほどのダメージは入っているだろう。
駆け寄ると充は胸を押さえながら座っていた。
「いやぁ、強いな斗和は」
「でも充も強いよ、あの黒い気持ち悪い物体は驚いた」
「気持ち悪いは余計だ。しかし、俺のあれを防げるなんてな初めてだぜ」
充に手を貸し立ち上がらせる。
「一体どうやったんだ?」
「いや、無我夢中で魔法を放ったら効いたんだよ」
「何じゃそりゃ」
もちろん嘘だ。
キリンのことはあまり話さないほうがいい。
神様からもキリンのことは話さない方がいいと言われているしな。
充に肩を貸して一緒に控室の方に向かう。
「控室に亜里沙達がいるはずだから、そこまで我慢だな」
「いっつ、そうだな。しかしこりゃあ骨にひびが入っちまってるぜ」
「それぐらいしなきゃ、充は倒せなかったんだよ」
そのまま控室の方に行くと、予想通りクラスメイト達がいた。
回復術師である亜里沙に充を任せる。
「分かった。じゃあ、斗和は戻って敵情観察してきなさい」
「ああ、任せたぞ」
俺は亜里沙に言われた通り、対戦を確認するためにメル達がいる観客席の方へと行った。
俺達の他の人達の戦いもすでに終盤となっている。
その中で唯一、一般で参加している龍人族の男は何と侍達を圧倒していた。
それも戦いを楽しんでいるようだ。
「トワ、お疲れ~」
「お疲れ様です」
「お疲れ」
仲間達に迎えられ、その横に座る。
観客席には仲間以外にもカヤさんがいた。
「トワ君、やっぱり何か特殊な力持ってるでしょ」
「えっと、何のことですか?」
「白を切るつもりなのね、まあ、いいけど」
どうしてもカヤさんは、俺の力を探りたいようだ。
まあ、教えたりはしないけど。
それからその一般の参加者の戦いを眺めていた。
戦っているというよりか、侍相手に訓練を付けているような感じだった。
よく見れば少し年上っぽいうような。
「ああ、トワ君彼が気になるのね」
「知っているんですか?」
「知っているも何も、あれ私の兄よ」
「うん?え、お兄さん!?」
まさかのカヤさんのお兄さんだった。
それにしても、強い。
あの侍がまるで相手になっていない。カヤさんのお兄さんが持っているのはバトルロワイヤルで使われていた木剣だ。
それに対し相手は真剣である。
それでも相手にならないというのは、それほどの力量差があるのか。
「私の兄はこれでもこの龍人族の中で2番目に強いから」
「……まじで」
「ああ、でも大丈夫。リーシャを娶ったりはしないと思うわ。彼はただ戦いだけだから」
ああ、ただのバトルジャンキーか。
最終的にはカヤさんのお兄さんの相手がへたり込み、降参を宣言した。
その様子にがっかりとしているようだ。
「で、君の次の相手は確認しなくて大丈夫なの?」
そういえば、忘れていた。
すでに俺と次当たる人の戦いは終わっており、ステージには誰もいなかった。
「大丈夫です。ミアは見ていました」
ミア、ダリル、フリジアは俺の次の対戦相手を見ていたようで、どうも結構長期戦だったそうで、もう魔力も残っていないらしい。
「まあ、トワなら勝てるさ」
「応援してるよ、トワぁ」
フリジアは俺が負けることはないと思っているようだ。
その横でダリルが元気良く応援していた。
「あ、全ての戦いが終わったようですよ」
メルが言った通り、見てみるとステージの上には誰も居なくなった。
そして、次の2回戦がすぐ開始されることが伝えられる。
「休憩なしなのか」
「戦場とかで休憩がないのは当たり前だからね」
カヤさんが言うには、そういうことらしい。
俺はまだ少し魔力に余裕があるのでいいが、俺と戦う人はもう魔力もないらしいので運がいい。
控室の方からまたステージへと向かった。




